28.前半18分
おうち会議にわさびと夏海が付き合ってくれた。
あ~だ、こ~だと盛り上がるが、なんとなく煮え切らないままタイムアップ。
「さて、寝るよ!」
「ヨウさん、わさびさん。自分も一緒に寝たいっす。」
え?何で?
「楽しそうだから。修学旅行でお泊まりするイメージっす。」
ムリムリ。いろいろとがまんするの大変なんだから!俺は、わさび以外の女のことは考えないの。別に恋人でもないけどさ。
「夏海はだめよ。」
わさびナイス!!
「ヨウは、歯ぎしりとか、いびきとかすっごくうるさいの。」
「まじっすか………。」
ヨウが1人落ち込んでいるが、夏海は引き下がらない。
「歯ぎしりも、いびきも平気っす。お願いします。」
しばらく2人で押し問答が続く。
「もう。だめよ!!理由はないけど、だめ。」
理由ないんかい。
「良かったっす。」
「え?」
「目を見れば分かります。わさびさんの愛は本物っす。これで、もんちゃんさんに気兼ねなくアタックできるっす。」
「今の会話にラブ要素あったか?」
「夏海、私とヨウは何でもないのよ。もちろん、もんちゃんとも。」
「心配しなくても大丈夫っす。自分、口はかたいっす。」
何の心配だ………。
翌日から、夏海の猛アタックが始まった。
すごいなこの娘………もんちゃん春爛漫だよ!
*****
『まちカフェ あおい』プロジェクトは、暗礁に乗り上げたまま、GWは終わってしまった。
今日は、リーグ2回戦のため、ここ北豊市にやって来ている。対戦相手は、北豊市のサッカー好き市民が立ち上げた北豊サッカークラブだ。
北豊市は、青空市の北に位置し、会社から車で1時間ほどの場所にある。
会社所有のマイクロバスには、アリスと夏海も『てっぱん』弁当を持って乗り込んでくれた。わさびの負担が少なくなるから、本当に助かる。
「お前らも分かってると思うが、北豊にはこの5年間負けたことはない。ただし、絶対に気を抜くなよ。あいつらの粘り強さは侮れない。現に、一回戦で増川精巧に3-4で競り勝って調子に乗ってるぞ。」
オォォォォォ!!
さかつくメンバーにも気合いが入る。
それにしても、夏海がもんちゃんに付きっきりでお世話をしている。人気者の夏海だ。試合前にこんなの周りに見せつけたら殺気立たないかな。
………………………?
誰も殺気立っていない。いや、むしろ微笑ましく見守られているようにも見える。もんちゃん、みんなに祝福されてるんだね。
ただ、当のもんちゃんは試合に集中しているため、勇気とずっと話し込んでいるんだけれど。
それにしてもアウェイか。
勇気は大丈夫かな。『周りの期待を、自分にプラスするチカラ』は、アウェイで発揮できるんだろうか………。まぁ、勇気はチカラが発動しなくても、十分に一流選手だから何とかなるかな。
ヨウは、今日も先発メンバーではないので、ベンチで人間模様を観察していた。というよりは、サッカーのことを考える力がないのだ。
ヨウが物思いに耽っていると、わさびが近づいてきてささやく。
「ヨウ、ヒントだよ。1時20分になったら、何かが起きるよ。」
「試合開始が13時だから、前半20分か。なんだろう?」
「分かんないよ。ただ、なぜか家にある時計が全部、1時20分で止まってたの………。さすがに今日のは怖かったよ。」
「確かに怖い………。」
「あ。」
「ん?」
「神様が『すまんかったのう』だって。」
「一応、反省してんだね。子どものいたずらみたいで、逆に笑っちゃうな。」
「ほんとだね。」
少しホッコリした。
ヨウの予想では、神じいさんはわさびの祖父である。そりゃ、かわいい孫が怖がったら謝るよね。
それにしても前半20分か。試合も大事だけど、見逃さないように注意しておこう。ヨウは気を引き締めて、ベンチから試合を見つめる。
本日のメンバーは、以下の通り。
さかつくは、初戦と同じメンバー構成だ。
相手チームは、太田が4人もいる。監督も太田だし、太田一族だ。地元チームならではってところだろう。これはアナウンサー泣かせだな。
*****
さかつくフォーメーション(4-4-2)
監督 坂本
FW 中山/瀬川(勇気)
MF 荻野
MF 野村/内田
MF 仲地★
DF 森下/山岸/田代/芦沢
GK 西山
北豊フォーメーション(4-1-4-1)
監督 太田健
FW 太田武
MF 武藤/遠藤/高橋
MF 太田稔★/ 田中
DF 太田正/山下/近藤/真壁
GK 太田洋
★キャプテン
*****
ピ~~~~~
主審の長い笛が鳴り響き、北豊のキックオフで試合が始まる。
前半3分
序盤は、北豊が軽いパス回しをしていたが、早い段階で裏のスペースへのトライを仕掛けてくる。
ここは、DF森下がきっちり対応しボールをインターセプト。MF仲地を経由し、ハーフライン中央付近にいるFW勇気にボールをつなぐ。
勇気は、前を向いて突破を図ろうとするが、3人に囲まれてボールを奪われてしまった。
「勇気、ナイストライ!」
もんちゃんが声をかける。
前回の試合結果から、とにかく勇気をマークしてカウンター狙いのサッカーに徹底するようだ。さかつくは、勇気にボールを放り込んではボールを失うを繰り返している。
「これくらいで行き詰まってたら、この先強くなれないからな。お前を信じて、どんどんパス送るぞ。」
キャプテン仲地が勇気に近寄り、背中を押す。
前半16分
ボールを受けた勇気が、またも3人に囲まれる。SBもんちゃんやFW中山は、勇気が抜いてくる前提でゴール前を伺うポジション取り。さかつく中盤のメンバーは、勇気がボールを失う前提でポジション取り。
おそらく、あえて勇気に試練を与えているのだろう。
「お!」
勇気が敵マークをかわし、ゴール方向を向いた。1人、2人………3人………。抜いた!
「あぁ!」
最後に抜かれた敵DF太田正が、思わず勇気のユニフォームを引っ張り押し倒した。
ピー
前半18分
ゴールから約20m、やや右寄りの位置でさかつくのフリーキックのチャンスを得た。
キッカーを誰にするか、仲地ともんちゃんがひそひそ話し込んでいる。
「お~、チャンスじゃないか。お~い瀬川んとこの~。決めちまえよ~。」
突然、聞きなれた商店会長の声が聞こえる。
振り返ると、商店街のみんなや、女子高生達もいる。
「「「きゃ~、勇気く~ん。」」」
「もんちゃんさ~ん。」
「「「瀬川~」」」
みんな、この場面を勇気に託したいみたいだ。夏海だけは、もんちゃん応援してるけどね。
そんな声が聞こえたのか、もんちゃんがゴール前に走っていき。勇気がボールをセットした。
ピー
さかつくキッカーはFW瀬川勇気、大きな助走から右足を振り抜く。
バシュ!!!!!
スピードが乗ったボールが、ゴール左隅に飛んでいった。




