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28/50

28.前半18分

 おうち会議にわさびと夏海が付き合ってくれた。

あ~だ、こ~だと盛り上がるが、なんとなく煮え切らないままタイムアップ。


「さて、寝るよ!」


「ヨウさん、わさびさん。自分も一緒に寝たいっす。」


 え?何で?


「楽しそうだから。修学旅行でお泊まりするイメージっす。」


 ムリムリ。いろいろとがまんするの大変なんだから!俺は、わさび以外の女のことは考えないの。別に恋人でもないけどさ。


「夏海はだめよ。」


 わさびナイス!!


「ヨウは、歯ぎしりとか、いびきとかすっごくうるさいの。」


「まじっすか………。」


 ヨウが1人落ち込んでいるが、夏海は引き下がらない。


「歯ぎしりも、いびきも平気っす。お願いします。」


 しばらく2人で押し問答が続く。


「もう。だめよ!!理由はないけど、だめ。」


 理由ないんかい。


「良かったっす。」


「え?」


「目を見れば分かります。わさびさんの愛は本物っす。これで、もんちゃんさんに気兼ねなくアタックできるっす。」


「今の会話にラブ要素あったか?」


「夏海、私とヨウは何でもないのよ。もちろん、もんちゃんとも。」


「心配しなくても大丈夫っす。自分、口はかたいっす。」


 何の心配だ………。


 翌日から、夏海の猛アタックが始まった。

すごいなこの娘………もんちゃん春爛漫だよ!


 *****

『まちカフェ あおい』プロジェクトは、暗礁に乗り上げたまま、GWは終わってしまった。


 今日は、リーグ2回戦のため、ここ北豊市(ほくほう)にやって来ている。対戦相手は、北豊市のサッカー好き市民が立ち上げた北豊サッカークラブだ。


 北豊市は、青空市の北に位置し、会社から車で1時間ほどの場所にある。

 会社所有のマイクロバスには、アリスと夏海も『てっぱん』弁当を持って乗り込んでくれた。わさびの負担が少なくなるから、本当に助かる。


「お前らも分かってると思うが、北豊にはこの5年間負けたことはない。ただし、絶対に気を抜くなよ。あいつらの粘り強さは侮れない。現に、一回戦で増川精巧に3-4で競り勝って調子に乗ってるぞ。」


 オォォォォォ!!


 さかつくメンバーにも気合いが入る。


 それにしても、夏海がもんちゃんに付きっきりでお世話をしている。人気者の夏海だ。試合前にこんなの周りに見せつけたら殺気立たないかな。


 ………………………?


 誰も殺気立っていない。いや、むしろ微笑ましく見守られているようにも見える。もんちゃん、みんなに祝福されてるんだね。


 ただ、当のもんちゃんは試合に集中しているため、勇気とずっと話し込んでいるんだけれど。


 それにしてもアウェイか。

勇気は大丈夫かな。『周りの期待を、自分にプラスするチカラ』は、アウェイで発揮できるんだろうか………。まぁ、勇気はチカラが発動しなくても、十分に一流選手だから何とかなるかな。


 ヨウは、今日も先発メンバーではないので、ベンチで人間模様を観察していた。というよりは、サッカーのことを考える力がないのだ。


 ヨウが物思いに耽っていると、わさびが近づいてきてささやく。


「ヨウ、ヒントだよ。1時20分になったら、何かが起きるよ。」


「試合開始が13時だから、前半20分か。なんだろう?」


「分かんないよ。ただ、なぜか家にある時計が全部、1時20分で止まってたの………。さすがに今日のは怖かったよ。」


「確かに怖い………。」


「あ。」


「ん?」


「神様が『すまんかったのう』だって。」


「一応、反省してんだね。子どものいたずらみたいで、逆に笑っちゃうな。」


「ほんとだね。」


 少しホッコリした。


 ヨウの予想では、神じいさんはわさびの祖父である。そりゃ、かわいい孫が怖がったら謝るよね。


 それにしても前半20分か。試合も大事だけど、見逃さないように注意しておこう。ヨウは気を引き締めて、ベンチから試合を見つめる。


 本日のメンバーは、以下の通り。

さかつくは、初戦と同じメンバー構成だ。

 相手チームは、太田が4人もいる。監督も太田だし、太田一族だ。地元チームならではってところだろう。これはアナウンサー泣かせだな。


 *****

 さかつくフォーメーション(4-4-2)

 監督 坂本(イレさん)

 FW 中山/瀬川(勇気)

 MF 荻野

 MF 野村/内田

 MF 仲地★

 DF 森下/山岸/田代/芦沢(もんちゃん)

 GK 西山


 北豊フォーメーション(4-1-4-1)

 監督 太田健

 FW 太田武

 MF 武藤/遠藤/高橋

 MF 太田稔★/ 田中

 DF 太田正/山下/近藤/真壁

 GK 太田洋


 ★キャプテン


 *****


 ピ~~~~~


 主審の長い笛が鳴り響き、北豊のキックオフで試合が始まる。


前半3分

 序盤は、北豊が軽いパス回しをしていたが、早い段階で裏のスペースへのトライを仕掛けてくる。

 ここは、DF森下がきっちり対応しボールをインターセプト。MF仲地を経由し、ハーフライン中央付近にいるFW勇気にボールをつなぐ。

 勇気は、前を向いて突破を図ろうとするが、3人に囲まれてボールを奪われてしまった。


「勇気、ナイストライ!」


 もんちゃんが声をかける。


 前回の試合結果から、とにかく勇気をマークしてカウンター狙いのサッカーに徹底するようだ。さかつくは、勇気にボールを放り込んではボールを失うを繰り返している。


「これくらいで行き詰まってたら、この先強くなれないからな。お前を信じて、どんどんパス送るぞ。」


 キャプテン仲地が勇気に近寄り、背中を押す。


前半16分

 ボールを受けた勇気が、またも3人に囲まれる。SBもんちゃんやFW中山は、勇気が抜いてくる前提でゴール前を伺うポジション取り。さかつく中盤のメンバーは、勇気がボールを失う前提でポジション取り。

 おそらく、あえて勇気に試練を与えているのだろう。


「お!」


 勇気が敵マークをかわし、ゴール方向を向いた。1人、2人………3人………。抜いた!


「あぁ!」


 最後に抜かれた敵DF太田正が、思わず勇気のユニフォームを引っ張り押し倒した。


 ピー


前半18分

 ゴールから約20m、やや右寄りの位置でさかつくのフリーキックのチャンスを得た。

 キッカーを誰にするか、仲地ともんちゃんがひそひそ話し込んでいる。


「お~、チャンスじゃないか。お~い瀬川んとこの~。決めちまえよ~。」


 突然、聞きなれた商店会長の声が聞こえる。

振り返ると、商店街のみんなや、女子高生達もいる。


「「「きゃ~、勇気く~ん。」」」


「もんちゃんさ~ん。」


「「「瀬川~」」」


 みんな、この場面を勇気に託したいみたいだ。夏海だけは、もんちゃん応援してるけどね。


 そんな声が聞こえたのか、もんちゃんがゴール前に走っていき。勇気がボールをセットした。


 ピー


 さかつくキッカーはFW瀬川勇気、大きな助走から右足を振り抜く。


 バシュ!!!!!


 スピードが乗ったボールが、ゴール左隅に飛んでいった。

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