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27.トライ・アンド・エラー3

「ちわ~。」


 クラブハウスに夏海の元気な声が響く。


「なっちゃん、来た~。」


「待ってました~。」


 夏海は、2週間前に坂本造園に入社した期待の新人だ。わさびと同じく『てっぱん』に配属され、わさびと一緒に店を手伝う。背の高い色白美人で、ストレートの長い髪と魅力的な胸もとが印象的な20歳である。

 夏海は、友達とイチゴ狩りに訪れた際、たまたま『まちカフェあおい』設立検討会でわさびの演説を聞き、わさびに惚れ込んでしまったらしい。その日にイレさんに入社を直訴、イレさん得意の直感で即採用。

 そんなにぽんぽん採用して(経営)大丈夫か?と聞いたら、お前次第だと言われてしまった。


 ただ、部員はみんなデレデレだ。採用は成功なんだろう。さすがイレさん、見る目がある。


「今日はハンバーグっす!」


 夏海は、その美しい容姿とは反対に、かなり体育会系の性格をしている。そこも部員達に大ウケな理由のひとつになっている。


「なっちゃんの料理に、はまっちまったぜ」


「あざ~っす」


 わさびが和の優しい料理を中心にしているのに対し、夏海の料理は町の定食屋さんに近い内容だ。今日は、メインのハンバーグに山盛りナポリタンと、空腹大学生が好みそうなお弁当が届いた。


 入社早々から、みんなの胃袋をつかんでしまった夏海である。料理の内容は、一見油ものに偏ってしまいそうだが、わさびが栄養やカロリーコントロールを指導しているので心配ないらしい。


『夏海はすぐに覚えるし、すごく筋がいいよ。メニューは夏海の好きな物ばっかりだけどね。』とわさびが言っていた。


「もんちゃんさんが、一番美味しそうに食べてくれるから好きっす。」


「やったな、もんちゃん!春が来たな~。」


 ヨウがもんちゃんを茶化してみるが、『俺には、わさびさんがいるもんね。』と応えていた。お~い、もんちゃ~ん。春が終わっちまうぞ~。


 食事が終わり、練習が始まる。


 初戦から3週間過ぎたが、ヨウにはメディカルコーチが付きっきりで、ひたすら『蹴られたボールをトラップしては蹴り返す』を繰り返している。

 ヨウはおっさんだから怪我のリスクが大きいのもあるし、効果的な体作りをする必要があるとのことだ。ここまでしてくれることから、ヨウに対する期待の高さが伺える。


「ほら、ヨウさんもっとがんばって!!」


「し、死んじゃうよ…………。」


「大丈夫。俺が蘇生してあげるから安心して。」


「ちくしょ~。は~、は~。」


 ひたすら未来ボール(緑)を追いかけた。


 *****

「ふ~。疲れた~。」


 家に帰ってストレッチしていると、わさびが背中を押してくれた。


「ん、さんきゅ」


「いやいや、次の試合楽しみっす。」


「え?」


「あ、ども~。」


 なぜか夏海が背中を押していた。


「え!?何でなっちゃんがここに?」


 ヨウが振り返り、向き合う。


「聞いてないっすか。今日から同居させてもらうっすよ。」


「いやいや~、若い娘が、独身おっさんのところに住んじゃダメでしょ。」


「わさびさんだって若い娘じゃないっすか。だから大丈夫っす。自分、わさびさんに憧れて坂本造園に入社したっす。一緒に暮らせるなんて夢のようです。ということで、よろしくお願いします。」


 え~~~~~。


 ガラガラガラ………「ただいま~。」


「あ、わさび!!こ、これは!?」


「あ、夏海もう来てるの?アリスホテルに荷物取りに帰らせてたから、来る前に説明しとこうと思ったんだけど。」


「これはヤバいでしょ、こんな若い娘と住んでたら事故がおこるよ。」


「ヨウさん、ハーレムっすよ。」


「なっちゃん、意味分かって使ってます?」


 例え『はい』と言われたって、何にもできないよ。俺たち同僚だし、立場ってもんがある。それに、何にもしないように暮らすなんて………生殺しだ、めちゃくちゃ辛いわ。


「ヨウのえっち。」


 わさびが睨んでくる。


「おれ~?」


「わさびさん大丈夫っす。『ヨウが何かしたら俺に言え』ってイレさんから言伝かってるっす。」


 イレさん、その前に同居を却下しろよ………。


「まぁ、とにかく今晩は仕方ない。俺がムラムラしちゃうといけないから、居間では露出低い服着てね…………。」


「あ、やっぱりいけないこと考えてたっすね。

わさびさん、この人はやめたほうがいいっす。」


「ほんとね。」


 あの、たぶんですが、誰にもいけないことしてないですよ~。我慢するのも大変なんだよ。一緒に住んだら我慢が2倍になるじゃないか。


 ヨウは心の中で涙を流しつつ、仕方なく同居に同意した。明日のさかつく部員からの妬みが怖い………。


 話し合いも一段落し、風呂や洗濯、洗い物をする。3人でやるので早い。後は、居間でごろごろするだけだ。ただ、ビーズクッションは、夏海にとられた。


「ヨウのが欲しかったら、また買ってきてね。」


 ………………。


 女2人は、ドラマを観ながら、スマホをいじりつつ、会話を始める。よく混乱しないよ。


 さて、明日の模擬店は何するかな。

 基本的なところは揃った。

 ・うまいコーヒー

 ・お茶菓子、ケーキ

 ・落ち着く感じの席配置


 アンケートとったけど、今のままでものんびりしに来たいという回答は多かった。でも、それじゃ普通のカフェだ。

 それに喫茶店の『みのり』とバッティングしてしまう。お客の取り合いしたいわけじゃぁないので、模擬店に来てくれた人には『みのり』のコーヒーチケットを渡すことにしている。


 ヨウは、テーブルにプロジェクトノートを広げた。


『まちカフェあおいプロジェクト』

 目的

 ・生活圏内の活用できていない(雑草が生い

  茂る)場所を、オープンカフェとして活用

  することで、地域を活性化する。

 ・ビジネスモデルとして成立させて、町の

  美化につなげる。


 コンセプト

 1.町の人達の夢を具体化する。

 2.ゴミの出ないカフェにする。

 3.町の人達の力で進化するカフェにする。


 アイデア

 現実的

 ・SNS映えする店内、景色、商品提供

 ・町から出前とれる

 ・花を買って、その場でかざれる

 ・スマホを充電できる

 などなど


 カフェっぽくない

 ・カラオケできる

 ・花火できる

 ・勉強教えてもらえる

 などなど


 その他

 ・学校行かなくていい

 ・給料もらえる


 さて、そもそもターゲットはどうしよっかな。


「それって、まちカフェの計画っすか?」


 夏海がのぞきこんでくる。


「そうだよ。」


「少しずつ形になってきたっすね。これからどうなるっすか?」


「まずさ、どんなお客さんに来てもらいたいか決めきれないんだよ。」


「まじっすか。ちゃんと成功させてくださいよ!設立検討会で、わさびさんに感動して青空市に住むことになったんっすから。」


 すごいな。『てっぱん』のたわ言が、どんどん人を巻き込んでいく。前の会社では、どれだけがんばってプレゼンしても、ほとんど聞いてもらえなかったのに不思議なものだ。


「模擬店で話を聞く限りだと、外から人に来てもらって商店街が儲かるのに期待してるよね。でも、それって、ほんとにみんなの夢かな~。」


「儲かるのは嬉しいっす。でも、わさびさんが言ってたっす。『この場所を目指して、たくさんの人が青空駅に訪れ、そして笑顔で帰っていく。』って。」


「そだね。金儲けだけじゃダメだよね。とにかく楽しんでもらおう。じゃ、外から来る人向けのカフェを目指すかな?だとして、遠くから来る人?近い人?外国人?若い人?年配の人………?」


「む、難しいっす。」


「わさびはどう思う?」


「誰が来てもいいんじゃない?とにかく楽しいところにしましょ。」


「じゃ、これまでもらったアイデアを見て。」


「ん~。」


「ん~。」


 これ大丈夫か?あと2ヶ月しかない。


「私は、ユミちゃんのお花のやつ好きだな。」


「いいね。おれも採用だと思う。俺は、花火も気になる。」


「どっちも楽しそうだけど、普通っすね。」


「確かに…………。」


「じゃ、何かアイデアある?」


「分かんないっす。」


 ………………。


「でも立ち止まれない。とにかく、明日からユミちゃんのお花をやろう。」


 ユミに電話して明日の事務連絡をし、第1回おうち会議は終わった。


「これからも相談に乗ってね。じゃ、俺はもう寝るよ。おやすみ~。」


「あ、わさびさんも寝るっすか?」


 ヨウが部屋に向かうと、わさびも片付けを始めた。


「夏海も早く寝てね。明日も早いよ。」


「わかったっす。おやすみなさい。


 ん?????え~~~~~!!!!!


 一緒に寝てるっすか…………。予想外っす。」


*****

 次の日も、ヨウは朝から町内へのあいさつ巡りをしてから模擬店に向かった。


 商店会長からは、『おんぼろカフェうまくいくのか?』と嫌み言われつつ、とにかく今日もトライ・アンド・エラーを続けるしかない。


 模擬店に着くと、わさびとユミによってお花の準備が終わり開店を待つだけだ。

 今日からGWなので、開店と同時に女子高生ご一行様が来てくれた。アリスも来ている。


 予想通り、ユミのお花はめちゃくちゃ反応がいい。100円で一輪選びテーブルに飾ることができる。そのまま持ち帰ることもできるが、帰る時に、おし花かローソク作成を選択することもできる。作った品は、次回来店時に渡す。全部こみこみで100円。


 安いし、たぶん流行ると思う。女子高生達は、スマホでお花と一緒に写真を撮りまくっていたので、勝手に拡散されていくと思われる。


 実にうまくいっている。


 ただ、商店街のじいさん達が来なくなったな。やっぱりなにか足りないんだな。もしかしたら、外からのお客さんをターゲットってのが間違いなのでは?


 ヨウは、行き詰まりを覚えつつ、今日も営業を終了した。


 *****

 今日の夜も、おうち会議にわさびと夏海が付き合ってくれた。

 あ~だ、こ~だと盛り上がるが、なんとなく煮え切らないままタイムアップ。


「さて、寝るよ!」


「ヨウさん、わさびさん。自分も一緒に寝たいっす。」


 え?何で?


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