26.トライ・アンド・エラー2
わさびが持ってきてくれた『てっぱん』弁当を食べ終えた頃には、時刻は12時半を過ぎていた。模擬店開店は13時からなので、ヨウはいそいそと準備を始める。
「お~、お疲れさん~。食後のコーヒー飲みに来たぜ。」
そこにイレさんがやってきた。ちょっと早いけど、来客第1号だ。
「じゃ、ユミちゃん頼むね。」
「はい。」
ユミがコーヒーを淹れ始める。
「昼寝しに来た。今日の午後は仕事やんねぇからな。」
適当な感じでやってきたイレさんだが、明らかにヨウのフォローに来たんだろう。正直、助かる。
模擬店とは言え、あそこまで大々的に宣伝したわけで、議員やら町内会長やら、偉い人がたくさん来るはずだ。そういう人達を、ヨウだけで接待するのは大変だった。
「それにしても、何にもないけど、なんとかなるんかね?」
しみじみと辺りを見回しながら、イレさんが聞いてくる。
「お、ありがとう。」
ユミちゃんがコーヒーを持ってきてくれた。
「何にもないからいいんだと思ってますよ。景色は綺麗だし。」
ヨウはイレさんの隣に座り、プロジェクトノートを広げた。
『まちカフェあおいプロジェクト』
目的
・生活圏内の活用できていない(雑草が
生い茂る)場所を、オープンカフェとして
活用することで、地域を活性化する。
・ビジネスモデルとして成立させて、町の
美化につなげる。
コンセプト
1.町の人達の夢を具体化する。
2.ゴミの出ないカフェにする。
3.町の人達の力で進化するカフェにする。
「ふ~ん。2.はエコか?」
「いや、設立検討会の次の日に、ゴミの処理って時間の無駄だなって思って。」
「は!そのわりには、このコーヒー、紙コップで出してんじゃねぇか。」
「それは、わざとです。突っ込みどころ満載の方が、いろいろ言いやすいでしょ?」
「ふ~ん。それは分かった。ただ、そうなると2.は、コンセプトじゃなくって、ヨウの夢っていうカテゴリーなんじゃないか?夢の具体化って中で検討すべき事項だろ。」
「そこはリーダー特権でコンセプトに入れさせてもらいました。一貫したいのは、町の人達のためになることです。そういう意味では、コンセプトに入れても文句はないですよね?」
イレさんは、黙って腕組みをして聞いている。ん?寝てるか?と思うくらいだが、これがヨウさんが部下の説明を聞くスタイルである。ヨウは、とにかく話を続ける。
「あと、エコってあんまり好きじゃないんですよ。家に帰ったらじゃんじゃん電気使ってるくせに、職場はエコですよ!っていう矛盾したアピール。だったら、『ゴミ処理大変だからゴミ出すな!』の方が納得感があるんで。」
「好きにしろ。1と2は、なんとなく分かった。
3.はどうするんだ?」
「どうしましょうかね、悩んでます。生協みたいな共同組合を作って、みなさんに運営してもらうなんてのが現実的なんですかね。ただ、いまいち主旨とピッタリこない気もしてます。」
「生協は向いてないな。やっぱり運営母体は、うちの会社だろ。どうすればうまくいくか、オープンまでに答持って来い。
あと、飲食営業だ。認可やら届出なんかも取りこぼさないよう、『てっぱん』にサポートしてもらう予定だ。あおいちゃ…………わさびがぶっ倒れないよう、新しい従業員も採用してある。」
「それはありがたいです。その件、わさびは知ってるんですか?」
「これから、伝えるんだよ。お~い、わさび~。」
「は~い。」
テーブルに着いたわさびに、イレさんがカフェ運営サポートと新人訓練の業務を伝える。
「細かいところは、親父さんと詰めてくれ。」
「分かりました。精一杯がんばります。」
本当にわさびは、いつも前向きだなぁ。これでまちカフェの成功率はぐっと上がったね。
模擬店出すだけでも、保健所に話を聞きに行ったり大変だったんだよね。
*****
わさびが『てっぱん』に戻った後、ぱらぱらと町の顔役達が『まちカフェ』に訪れ始めた。
「おぅ、来てやったぞ~。」
商店会長、副会長と青空駅長がのんびりとやって来て、イレさんのいる丸テーブルに腰かける。
「しっかし、何にもないな。あんた達、ここで結局、何するんだ?」
いぶかしげに商店会長が問いかけてくる。
「会長、こいつが面白くしてくれるからさ。サポートしてやってよ。」
「まぁ、俺も期待してんだけどよ。」
イレさんがいてくれて良かった。イレさんの顔に免じてくれている多分にある。今こそ攻めなければ。
「では、今考えてることをお話しますね。」
ヨウは小さな黒板を手に、目的とコンセプトを書き、丁寧に説明する。
途中、ユミが緊張しながら持ってきてくれたコーヒーを片手に、顔役達が話を聞いてくれた。
「やりたいことは分かったよ。でも、まだ何もやってねぇじゃないか。」
「今日はまず、ありのままのこの場所を再認識してもらいたかったんです。足りないモノがたくさん分かると思いますし、良いところも見えてくると思うんですよ。」
「確かにな…………。
まず、紙コップのインスタントコーヒーでカフェを名乗っちゃダメだろ。そもそもゴミ出さねぇんだろ。『みのり』んとこに言っとくから、コーヒーカップくらい揃えろよ。」
つかみはバッチリだ!
「挽きたてコーヒーの『みのり』さんですね。分かりました、相談しに行きます。」
思いっきり業態がバッティングするから『みのり』さんには話をしにくかったので、本当に助かる。
「昔は、ここで良く遊んだもんだ。あそこの小川の近く、少し小高いところに木があるだろ。あの木陰は夏でも涼しくてな、子どもたちの集合場所だった。あそこから、小道を行くと青空湖に続いてんだよ。」
「へ~。どれくらいで着くんですか?」
「子どもの足で10分くらいだったかなぁ。」
これは良いことを聞いた。さっそく青空湖まで行ってみよう。
いいぞ!もっとたくさん教えてもらおう。
ふとカフェの中を見渡すと、お客さんがかなり増えている。大丈夫か?と思ったが、商店街の人達ばかりだったのでユミも楽しそうに接客できているので少し安心した。
その後も、席を回り、たくさんの話を聞かせてもらうことができた。
夕方、アリス達、女子高生ご一行様も来てくれて、この場所にたくさんダメ出し(アドバイス)をもらった。
これから少しずつ、形にしていこう。




