19.瀬川勇気
ベンチに戻ると、それはもうお祭り騒ぎだった。やるじゃねぇかと口々に褒め称えられる。
まぐれで入った1点なので、ヨウにはこそばゆい。
「面白かったよ。」
わさびがドリンクを手渡しながら、ヨウに話しかける。
「はぁはぁ………神じいさんの思惑くに近づいてるかな………はぁはぁ。」
「良くがんばったよ!カッコ悪かったけどね………ちょっとだけ………良かったよ。」
ヨウにタオルをかけて、わさびはそそくさと仕事に戻っていく。
「ヨウ、素晴らしいまぐれだった!!」
わさびが去った後、イレさんが近づいて来て言い放つと、チーム内に大爆笑が起こった。
「ヨウさん、お祝いに『てっぱん』おごりね。みんなでカンパするもんね。」
もんちゃんも祝福してくれる。
「もん、お前は教育係なんだから、お前が払えよ!」
「え~、今月苦しいのに~。」
ハーフタイムなのに、バカな話題で盛り上がる。
「さて、ヨウはこれで交代だ。お疲れさん。」
イレさんから交代を告げられる。
その後は、後半の打ち合わせが始まり、ハーフタイムはあっという間に終わった。
後半が始まると、ヨウはイレさんに呼ばれて隣に座る。
「いやぁ。こんなに上手くいくとはな。さすがは秘密兵器。」
イレさんが、のんびり話を始める。
「ちょっと上手くいき過ぎでしたね。」
「もう、のんびりしていいぜ。勇気が試合終わらせちまうよ。」
「分かるんですか?」
「あぁ。勇気の気が小せぇのは、ヨウだって知ってるだろ?前半は、あの敵5番が、勇気にちょっかい出し続けて、完全に試合にのまれてたんだよ。確かにあの5番は、瞬発力だけならかなりのもんだ。それで勇気はびびっちまったんだな。」
「勇気が活躍すれば、チームに元気が出てきますね。」
「確かに戦術の幅も広がる。だがな、あいつはそんなんじゃないんだよ。
勇気は、ど天才なんだよ。100年に1人の逸材だな。あいつの実力が知れ渡れば、アンダーならどの世代でも日本代表になれるし、本代表だって夢じゃない。」
「ま、マジっすか!?」
「だからさ、緊張さえ解けちまえば、敵5番なんて相手にもならねぇ。今年のチームは、勇気のためのチームなんだよ。あいつを輝かせるために、今年の坂本造園は全面バックアップすることを決めてんだ。」
イレさんの言う通り、その後は勇気の活躍でバシバシと点を取り始める。勇気がボールを持つと、誰一人ボールに触ることもできない。
終わってみれば、勇気はハットトリックを決め、敵5番は試合後しばらく立ち上がれなくなっていた。
完全勝利だ。
さかつく 5-1 AO大学
得点
前半29分 AO大 里垣
前半46分 坂本造園 松本
後半13分 坂本造園 瀬川
後半24分 坂本造園 瀬川
後半31分 坂本造園 瀬川
後半42分 坂本造園 野村
試合後に分かったが、ヨウがボールを回収しまくれたのは、勇気が裏で動いてくれていたおかげのようだ。
そりゃ、いくら未来ボールが見えたとしても、こんなに広いピッチであんなに上手くいくわけないよな。これが、もんちゃんの言っていた『俺を戦術に組み込む』ってことなんだな。