18.インターセプター2
前半35分
トップ下のMF荻野に代わり、ヨウがピッチに入る。
イレさんの指示を伝えると、もんちゃんは『ユウキ!!』と叫び、後ろ方向に手を振る。あらかじめ想定してあったんだろうか、各々の選手が自分の新しい役割りを確認するようにポジションを変更していく。
ヨウは、勇気と入れ替りで、敵5番とやりあうことになるようだ。
「ヨウさん。あの5番、めちゃくちゃ、すばしっこいよ。」
勇気が近づいてきて、ヨウ達に話しかける。
「勇気、お前なにやられてんだよ。この試合中にやり返しとけよ!」
もんちゃんが、勇気の背中をバシッと叩き走っていった。
「ちくしょう。負けてたまるか。」
勇気も気合いを入れ直したようだ。叫びながら、新ポジションに走っていく。
AO大スローインで試合が再開し、もん兄弟でポジション取りの攻防をする中、もん弟が問いかける。
「兄ちゃん、あのおじさん誰?」
「インターセプターだよ。」
「なんだよ、それ。あのおじさん、ずっとオフサイドポジションにいるぜ?いいの?」
「ま、そのうち分かるさ。こっから反撃してやるもんね。」
訳わかんないけど、兄ちゃんは油断できないからなぁ………とヨウに妙な違和感を感じつつ、もん弟は試合に集中していく。
前半41分
中盤でボールを奪ったDF田代が、MF仲地にボールをつなげると、全体で一気に敵陣内に押し上げる。1点のビハインドだから、前半のうちに何としても追い付いておきたい。
AO大も残り時間を考えて、とにかく戻って守りに徹する姿勢だ。あっという間に、ヨウを追い越して首尾陣形を整える。
一気に敵陣に襲いかかるさかつくだが、ヨウだけはセンターサークル付近で、味方選手達にも追い越されていく。
「ヨウさん、前に走って!!」
MF野村が、ヨウを追い越しながら叫ぶ。
ヨウは、言われるままに走り出したその時………。
左前方に青ボールが転がっていくのが見えた。仲地の縦パスが弾かれる未来ボールだろう。とっさに青ボールに向かって行くと、難なく、こぼれ球を回収できた。
だ、誰かに渡さなきゃ。あ!
なぜか、勇気がすぐそばに来ていたので、必死でパスをする。
「ヨウさん、ナイス!!」
勇気はボールを持つと、華麗なドリブルで2人の敵選手を抜きさっていく。試合前の緊張は、敵5番に完膚なきまでにやられた悔しさで忘れてしまったんだろう。
さかつくイケイケ時間だ!
だが、AO大の守備は固い。パス回しを続けながら、攻撃の糸口を探すが簡単ではない。
あ!またも青ボールだ。誰かのパスがカットされたようだ。ヨウは、とにかくボールに追い付き、なぜか近くにいる勇気に渡す。
ボールを奪って、勇気かもんちゃんに渡す。
つまりは、青ボールを探して追いかける。それだけに集中してみると、意外にやれることが分かった。
戦術もポジションも関係なく、異常な確率でセカンドボールを回収するおじさんと若者コンビ突然の乱入である。AO大メンバーも戸惑いを隠せなくなっている。
際どいパス回しをして失敗しても、ヨウと勇気がしっかりボールを回収してくれるので、さかつくメンバーも強気に攻めることができている。とても良い流れが出てきた。
前半の残り時間は少ない。アディショナルタイムは、2分と表示された。
前半46分
今日何度目だろうか、右サイドのもんちゃんにボールが渡り、芦沢兄弟対決の末、クロスが上がる。
ヨウが注意して見ていると、今度も敵GK東出はサインを送り、敵5番の宮本がダッシュしていく。
うわわ、足はや。サインプレーを見抜いて………とか無理だわ~。と、とにかく、青ボールに集中するぞ。
ドーン
もう中山じゃ、ラミルに勝てないな。俺が言うなってね。
ラミルが競り勝つボールの行く先も、ヨウには分かっている。
おっと、けっこう遠いな。届け!!
ガシッ
「あちゃ~」
ヨウは、足を伸ばし、何とかボールに触れることはできたが弾いてしまった。
そのままひっくり返る。
痛ててて……………………………。
………ん?急に静かになったな。
そう思った瞬間、勇気が抱きついてきた。
ゴーオォォォォォール!!!!!
「ヨウさん、やったー!」
「え?」
「ゴール決めたんだよ!!」
「え~~~~~!?」
なんと、トラップを失敗して弾いてしまったボールは、偶然、敵GKの逆をつきゴール内に転がっていった。ヨウのデビュー戦、初ゴールである。
前半46分、坂本造園 松本のゴール
さかつく 1-1 AO大
ピピーーーーーッ
ほどなくして、前半終了のホイッスルが鳴り響いた。