表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/50

17.デビュー戦

  ピ~~~~~


 ホイッスルと同時に、勇気がキックオフし試合が始まる。立ちあがりのフォーメーションは4-4-2。


 メンバーは、以下の通り。


*****

 さかつくフォーメーション(4-4-2)

 監督 坂本(イレさん)

 FW 中山/瀬川(勇気)

 MF 荻野

 MF 野村/内田

 MF 仲地★

 DF 森下/山岸/田代/芦沢(もんちゃん)

 GK 西山


 AO大学フォーメーション(4-2-3-1)

 監督 高木

 FW 里垣

 MF 西野/アナン/高橋

 MF 反町/山田

 DF 田中/ラミル/宮本/芦沢真(まこと)

 GK 東出


 ★キャプテン


*****


 注目は、両チームのキープレイヤーである、芦沢兄弟がぶつかり合う右サイドだ。

 2歳違いの2人は、AO大付属高校時代にチームメイトとして全国大会で準優勝を果たしている。

 それから5年経ち、もんちゃん弟はJ1チームに仮内定するほどの実力者となり、キャプテンとしてAO大を引っ張っている。

 弟君は、本当にもんちゃんの弟か?と思うほどのイケメンだ。知性の高そうな整った顔立ちだし、優しそうな雰囲気だし、これはモテるに違いない。

 FWの里垣もJ1チームから注目されているらしいし、外国人選手が2人もいる。


「AO大って名門なんですね。」


 ベンチでヨウがつぶやくと、イレさんが答える。


「あそこの理事長が、付属高の全国準優勝に気を良くして急に金使い始めたんだよ。

 付属高は、もんが強くしたんだぞ。それまでは1回戦も勝てやしない無名チームだった。

 今や大学リーグでも有名になりつつあるが、そっちは2番手のチームでやっている。普通、逆なんだけどな………。ま、なんにせよ強いよ。」


 なるほど。もんちゃんはAO大中退と聞いてたけど、いろいろと因縁が深そうだな。


 ヨウには、まだまだ聞きたいことは山ほどあるが、今は試合中なので話を切り上げた。


 さて、試合の方は、開始直後から右サイドにボールが集まる。


 前半12分

 もんちゃんが右奥の裏スペースに向かって駆け上ると、MF仲地からの絶妙な縦パスが通り、あっという間にアタッキングサイドへの突入を果たした。詰め寄るDFは、もん弟。今日の初攻防はいかに?と注目が集まる中、もんちゃんは、あっさり弟を抜きさりゴールに迫る。

 ゴール前にはFW中山が待ち構え、やや後方からFW勇気が飛び出しのタイミングを狙っている。


 オォォォォォ!


 いきなりのチャンス到来だ!!


 と思った瞬間………


 バシュ!!!!!


 敵の外国人DFにボールを刈り取られ、もんちゃんがぶっ飛んだ。ボールは、サイドラインを割って飛んでいく。


「痛って~」


 もんちゃんが悶絶していると、もん弟がもんちゃんの背中を叩く。


「俺1人じゃ、兄ちゃんは止めらんねぇからさ。ラミルすげえだろ。」


「このやろ~。あのデカいのに、手加減も教えとけよ。痛てて………。」


 さかつくベンチは、もんちゃんが倒れているので大慌て。わさびがバッグを抱え、メディカルコーチとピッチサイドで待機する。


「まこと~。絶対にお前らをぶっちぎってやるもんね。」


 しばらくすると、元気良くもんちゃんが立ちあがり、わさびに向かってウキッとOKポーズをした。まるっきりおサルさんだ。大丈夫そうなので、ベンチもホッとする。


「兄ちゃんは変わらねぇな。こりゃ、今日は大変だ。」


 もん弟がそう言い残して、走っていった。


 今日大変なのは、俺たちだな。あのデカいの半端ねぇ。ほんとにヨウさんに頼らないとダメかもな。


 もんちゃんは、足の状態を確かめながら、どうしたもんかとしばらく考えていたが、『よし!!』と声を張り上げてゲームに戻っていった。


 前半20分

 さかつくスローインにより再開する。

再び裏のスペースに走り込んだもんちゃんにボールがつながる。またも、もん弟とのマッチアップとなったが、今回は簡単に抜かせてくれない。それでも、なんとかスペースを作りゴール前中央で待つFW中山にクロスを上げる。


 中山はタイミング良く落下地点に向かったが、気がつけば頭上を巨大な黒い影に占領されていた。


 ドーン!!!!!


 こんな威力ってあるか?と中山が度肝を抜かれるヘディングで、もんちゃんのクロスは弾かれてしまった。


「あ~、おしい~。」


 さかつく応援席は、チャンスの連続に盛り上がっている。もんちゃん、相変わらずキレキレだ。このペースなら、得点は近いなとヨウも思う。


「ちっ」


 ふいにイレさんが舌打ちをし、コーチ陣と戦術ボードとにらめっこを始めた。

ヨウには分からないが、何かが上手く行っていないらしい。


「勇気が完全に消されてやがる………。あっちの5番、何なんだ。」


 え?焦ってる原因って、もん弟でも、ムキムキ外国人でもなく、5番なの?えっと………宮本か。

 なんか、すごく小柄だし、ぜんぜんパッとしない選手なんですけど………。でも、確かに勇気が目立ってないな。


 前半28分

 もんちゃんがまたもやクロスを上げる。


「完全に打たされた。仲地、全員戻らせろ~!!」


 突然、イレさんがベンチから飛び出して大声で叫ぶ。

 今回も敵DFラミルがボールを弾くと、敵DFもん弟がボールを回収し、ノー・ルックで縦方向に大きく蹴り出した。


 ボールは、最終ラインのDF田代とGK西山の間に絶妙に落ちて転がっている。

 GK西山は、一瞬迷ったが、前に出ないことを決め、コーチングに徹する。

 放り込まれたボールを、DF田代とDF森下で追いかけようとした瞬間、すでにトップスピードに乗った小柄な選手が横をすり抜けていった。


「田代止めろ!」


 振り向き様に、敵選手をつかもうとしてDF森下は空振り。あとはDF田代に任せるしかない。


「森下、右6!!」


 一瞬気を抜いたDF森下に、GK西山が独特な指示を出す。


「み、右6?」


 DF森下が『おかしい、里垣以外に誰が右6に?』と考えてしまった時点でジ・エンド。


 DF田代も振り切りボールに追い付いた敵選手が、ちょこんと右サイドに蹴り出すと、そこには敵FW里垣が待ち構えており、豪快なシュートでゴールネットを揺らした。


 GK西山も、敵FW里垣で来るだろうとヤマ勘でコースを塞ぎにいったが無念。


 さかつくDF陣を手玉に取ったAO大選手は、あの5番 DF宮本だった。


 前半29分、AO大 里垣のゴール

 さかつく 0-1 AO大


「おい、ヨウ!アップ始めろ。そうだな、ダッシュ10本やったら、ここに来い。全力で走れよ!」


 ちくしょ~と叫ぶイレさんが突然振り向き、ヨウに向かって指示を出した。


 え~~~~~!?出るの?後半残り10分じゃなかったの~!?


 と、とにかくダッシュするしかない。


 グランドの隅で、ヨウはダッシュを繰り返す。


 8本目が終わった頃だろうか、わさびが走ってきて告げられた。


「ヨウ、5と黄色がヒントだよ!」


「はぁはぁ。え?神じいさんがなんか言ってきたの?はぁはぁ。」


「えっとね………今日の朝から、やけに5の数字が目につくの。気にしすぎかもだけど、テレビの占いのラッキーナンバーが5でしょ?食パン5枚切りだったし、卵の残り5個だったし、スマホの充電も5%だったし。で、敵のすごい選手も5番だったから気になって。」


「なるほど………、5番ね。ありがとう。はぁはぁ。で、黄色は?」


「なぜか廊下に黄色の色鉛筆が5本落ちてたの。最近使ってないし、5本も持ってないのに。」


 2つともヒントとしては弱いなぁと思いつつ、さらに2本走り、イレさんのところに行く。


「ヨウ、荻野と交代だ。それから、勇気はトップ下と伝えろ。お前のミッションは、敵の5番からボールを取ることだけだ。細かいこと言ってもわからんだろ。とにかく、がんばれ!」


「は、はい………。」


 やっぱり5番ね。わさびさん正解かも。じゃぁ、黄色と言えば………。敵GK東出のユニフォームが黄色だ。そんな安易な………?


 交代を待つヨウが、敵GKをじっと見ていると、もんちゃんのクロスが上がった。

 まだ空中にボールがある中で、敵GK東出が、右手をひらっと動かすのにヨウは気づいた。その仕草が、誰かに行け!と言っているように見える。


 その瞬間、敵5番 DF宮本が走り出す。


 またまたリプレイのように、敵DFラミルがFW中山を押し退けてボールを弾くと、敵DFもん弟が回収。しばらくキープしていると、敵GK東出が、またも不自然に手のひらを動かす。


 その瞬間、もん弟は、大きく縦に蹴りだした。


 今回も敵5番の宮本にやられそうになったが、トラップが上手くいかず、DF田代がなんとか回収して外に蹴り出す。


 な、なるほど~。サインプレーか。でも、気づいたとして、どうすればいいのか………。


 ピピッ


 前半35分

 ボールがラインを割ったところで、審判に交代が認められ、予定通り、ヨウは勇気のポジションに入った。


「ヨウさん、ようこそ!」


「もんちゃん、余裕あるね。」


「いや、今日の試合はきついよ。こいつら強い。でも、勝つビジョン見えちゃったもんね。ちゃんと教え守ってね。」


 もんちゃんに言われ、今日の決め事を頭の中で復習する。


 ・後半残り10分になったら出場する。

 ・ハーフラインより高い位置でボールを奪う。

 ・抜かれたら、追う必要なし。

 ・ボールを奪ったら、勇気か、もんちゃん

  にパスする。


 前半から出ることになったし、なんかちょっと違うけど、とにかく奪って、パスしよう。


 ヨウには、ぴったりとAO大5番の宮本が付いた。


 小柄だし、すごく幼く見えるから、新1年生かな。こいつのスピードについて行くのは無理だなぁ~。


 ヨウのデビュー戦が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ