17.デビュー戦
ピ~~~~~
ホイッスルと同時に、勇気がキックオフし試合が始まる。立ちあがりのフォーメーションは4-4-2。
メンバーは、以下の通り。
*****
さかつくフォーメーション(4-4-2)
監督 坂本
FW 中山/瀬川(勇気)
MF 荻野
MF 野村/内田
MF 仲地★
DF 森下/山岸/田代/芦沢
GK 西山
AO大学フォーメーション(4-2-3-1)
監督 高木
FW 里垣
MF 西野/アナン/高橋
MF 反町/山田
DF 田中/ラミル/宮本/芦沢真★
GK 東出
★キャプテン
*****
注目は、両チームのキープレイヤーである、芦沢兄弟がぶつかり合う右サイドだ。
2歳違いの2人は、AO大付属高校時代にチームメイトとして全国大会で準優勝を果たしている。
それから5年経ち、もんちゃん弟はJ1チームに仮内定するほどの実力者となり、キャプテンとしてAO大を引っ張っている。
弟君は、本当にもんちゃんの弟か?と思うほどのイケメンだ。知性の高そうな整った顔立ちだし、優しそうな雰囲気だし、これはモテるに違いない。
FWの里垣もJ1チームから注目されているらしいし、外国人選手が2人もいる。
「AO大って名門なんですね。」
ベンチでヨウがつぶやくと、イレさんが答える。
「あそこの理事長が、付属高の全国準優勝に気を良くして急に金使い始めたんだよ。
付属高は、もんが強くしたんだぞ。それまでは1回戦も勝てやしない無名チームだった。
今や大学リーグでも有名になりつつあるが、そっちは2番手のチームでやっている。普通、逆なんだけどな………。ま、なんにせよ強いよ。」
なるほど。もんちゃんはAO大中退と聞いてたけど、いろいろと因縁が深そうだな。
ヨウには、まだまだ聞きたいことは山ほどあるが、今は試合中なので話を切り上げた。
さて、試合の方は、開始直後から右サイドにボールが集まる。
前半12分
もんちゃんが右奥の裏スペースに向かって駆け上ると、MF仲地からの絶妙な縦パスが通り、あっという間にアタッキングサイドへの突入を果たした。詰め寄るDFは、もん弟。今日の初攻防はいかに?と注目が集まる中、もんちゃんは、あっさり弟を抜きさりゴールに迫る。
ゴール前にはFW中山が待ち構え、やや後方からFW勇気が飛び出しのタイミングを狙っている。
オォォォォォ!
いきなりのチャンス到来だ!!
と思った瞬間………
バシュ!!!!!
敵の外国人DFにボールを刈り取られ、もんちゃんがぶっ飛んだ。ボールは、サイドラインを割って飛んでいく。
「痛って~」
もんちゃんが悶絶していると、もん弟がもんちゃんの背中を叩く。
「俺1人じゃ、兄ちゃんは止めらんねぇからさ。ラミルすげえだろ。」
「このやろ~。あのデカいのに、手加減も教えとけよ。痛てて………。」
さかつくベンチは、もんちゃんが倒れているので大慌て。わさびがバッグを抱え、メディカルコーチとピッチサイドで待機する。
「まこと~。絶対にお前らをぶっちぎってやるもんね。」
しばらくすると、元気良くもんちゃんが立ちあがり、わさびに向かってウキッとOKポーズをした。まるっきりおサルさんだ。大丈夫そうなので、ベンチもホッとする。
「兄ちゃんは変わらねぇな。こりゃ、今日は大変だ。」
もん弟がそう言い残して、走っていった。
今日大変なのは、俺たちだな。あのデカいの半端ねぇ。ほんとにヨウさんに頼らないとダメかもな。
もんちゃんは、足の状態を確かめながら、どうしたもんかとしばらく考えていたが、『よし!!』と声を張り上げてゲームに戻っていった。
前半20分
さかつくスローインにより再開する。
再び裏のスペースに走り込んだもんちゃんにボールがつながる。またも、もん弟とのマッチアップとなったが、今回は簡単に抜かせてくれない。それでも、なんとかスペースを作りゴール前中央で待つFW中山にクロスを上げる。
中山はタイミング良く落下地点に向かったが、気がつけば頭上を巨大な黒い影に占領されていた。
ドーン!!!!!
こんな威力ってあるか?と中山が度肝を抜かれるヘディングで、もんちゃんのクロスは弾かれてしまった。
「あ~、おしい~。」
さかつく応援席は、チャンスの連続に盛り上がっている。もんちゃん、相変わらずキレキレだ。このペースなら、得点は近いなとヨウも思う。
「ちっ」
ふいにイレさんが舌打ちをし、コーチ陣と戦術ボードとにらめっこを始めた。
ヨウには分からないが、何かが上手く行っていないらしい。
「勇気が完全に消されてやがる………。あっちの5番、何なんだ。」
え?焦ってる原因って、もん弟でも、ムキムキ外国人でもなく、5番なの?えっと………宮本か。
なんか、すごく小柄だし、ぜんぜんパッとしない選手なんですけど………。でも、確かに勇気が目立ってないな。
前半28分
もんちゃんがまたもやクロスを上げる。
「完全に打たされた。仲地、全員戻らせろ~!!」
突然、イレさんがベンチから飛び出して大声で叫ぶ。
今回も敵DFラミルがボールを弾くと、敵DFもん弟がボールを回収し、ノー・ルックで縦方向に大きく蹴り出した。
ボールは、最終ラインのDF田代とGK西山の間に絶妙に落ちて転がっている。
GK西山は、一瞬迷ったが、前に出ないことを決め、コーチングに徹する。
放り込まれたボールを、DF田代とDF森下で追いかけようとした瞬間、すでにトップスピードに乗った小柄な選手が横をすり抜けていった。
「田代止めろ!」
振り向き様に、敵選手をつかもうとしてDF森下は空振り。あとはDF田代に任せるしかない。
「森下、右6!!」
一瞬気を抜いたDF森下に、GK西山が独特な指示を出す。
「み、右6?」
DF森下が『おかしい、里垣以外に誰が右6に?』と考えてしまった時点でジ・エンド。
DF田代も振り切りボールに追い付いた敵選手が、ちょこんと右サイドに蹴り出すと、そこには敵FW里垣が待ち構えており、豪快なシュートでゴールネットを揺らした。
GK西山も、敵FW里垣で来るだろうとヤマ勘でコースを塞ぎにいったが無念。
さかつくDF陣を手玉に取ったAO大選手は、あの5番 DF宮本だった。
前半29分、AO大 里垣のゴール
さかつく 0-1 AO大
「おい、ヨウ!アップ始めろ。そうだな、ダッシュ10本やったら、ここに来い。全力で走れよ!」
ちくしょ~と叫ぶイレさんが突然振り向き、ヨウに向かって指示を出した。
え~~~~~!?出るの?後半残り10分じゃなかったの~!?
と、とにかくダッシュするしかない。
グランドの隅で、ヨウはダッシュを繰り返す。
8本目が終わった頃だろうか、わさびが走ってきて告げられた。
「ヨウ、5と黄色がヒントだよ!」
「はぁはぁ。え?神じいさんがなんか言ってきたの?はぁはぁ。」
「えっとね………今日の朝から、やけに5の数字が目につくの。気にしすぎかもだけど、テレビの占いのラッキーナンバーが5でしょ?食パン5枚切りだったし、卵の残り5個だったし、スマホの充電も5%だったし。で、敵のすごい選手も5番だったから気になって。」
「なるほど………、5番ね。ありがとう。はぁはぁ。で、黄色は?」
「なぜか廊下に黄色の色鉛筆が5本落ちてたの。最近使ってないし、5本も持ってないのに。」
2つともヒントとしては弱いなぁと思いつつ、さらに2本走り、イレさんのところに行く。
「ヨウ、荻野と交代だ。それから、勇気はトップ下と伝えろ。お前のミッションは、敵の5番からボールを取ることだけだ。細かいこと言ってもわからんだろ。とにかく、がんばれ!」
「は、はい………。」
やっぱり5番ね。わさびさん正解かも。じゃぁ、黄色と言えば………。敵GK東出のユニフォームが黄色だ。そんな安易な………?
交代を待つヨウが、敵GKをじっと見ていると、もんちゃんのクロスが上がった。
まだ空中にボールがある中で、敵GK東出が、右手をひらっと動かすのにヨウは気づいた。その仕草が、誰かに行け!と言っているように見える。
その瞬間、敵5番 DF宮本が走り出す。
またまたリプレイのように、敵DFラミルがFW中山を押し退けてボールを弾くと、敵DFもん弟が回収。しばらくキープしていると、敵GK東出が、またも不自然に手のひらを動かす。
その瞬間、もん弟は、大きく縦に蹴りだした。
今回も敵5番の宮本にやられそうになったが、トラップが上手くいかず、DF田代がなんとか回収して外に蹴り出す。
な、なるほど~。サインプレーか。でも、気づいたとして、どうすればいいのか………。
ピピッ
前半35分
ボールがラインを割ったところで、審判に交代が認められ、予定通り、ヨウは勇気のポジションに入った。
「ヨウさん、ようこそ!」
「もんちゃん、余裕あるね。」
「いや、今日の試合はきついよ。こいつら強い。でも、勝つビジョン見えちゃったもんね。ちゃんと教え守ってね。」
もんちゃんに言われ、今日の決め事を頭の中で復習する。
・後半残り10分になったら出場する。
・ハーフラインより高い位置でボールを奪う。
・抜かれたら、追う必要なし。
・ボールを奪ったら、勇気か、もんちゃん
にパスする。
前半から出ることになったし、なんかちょっと違うけど、とにかく奪って、パスしよう。
ヨウには、ぴったりとAO大5番の宮本が付いた。
小柄だし、すごく幼く見えるから、新1年生かな。こいつのスピードについて行くのは無理だなぁ~。
ヨウのデビュー戦が始まった。