16.Y県リーグ開幕
ついにY県リーグが開幕だ。
初戦の相手は、AO大学。
クラブハウスのホワイトボードに『AO大戦』なんて書いてあるから、なんのゲーム大会だ?と思ってしまう。
会場は、ここ坂本造園サッカー場。
県リーグは、自分たちで会場を準備する。審判も各チームから出す決まりのため、さかつくからは2名が別会場に審判として派遣されている。ボールから、ライン、コーナーフラッグ、ゴールまで、何もかも自分たちで準備しなければならない。
Y県一部は、8チームあり、ホーム&アウェイ方式の全14試合。年7回のホーム開催があるから、準備もホームゲームの数だけある。社会人のスポーツって、本当に大変だ。
今日の試合も、職人さん達がボランティアで手伝ってくれている。坂本造園は、本当にいい会社だな。
観客は………意外にも、かなり来ている。
毎年さかつくの初戦には、『てっぱん』が屋台を出す。『てっぱん』の美味しいお好み焼と、会社の庭園に咲き誇る桜並木を求め、開幕戦はお花見気分のお客さんがたくさん訪れる。たぶん300人近くは集まっているだろう。
てっぱん親父は大忙しだ。お手伝いには、アリスが来てくれている。
ヨウ達は、ウォーミングアップを終え、ユニフォームに着替えていた。
「ヨウさん、この雰囲気いいでしょ。お花見ダービーって呼ばれてるんだ。俺なんて、この日のために頑張ってるって言っても過言じゃないもんね。」
もんちゃんに、気合いが入っている。
いや、もんちゃんだけじゃない、さかつく全員、気合い乗りまくりだ。
「さてと………おい勇気、『アリスが点取ってね。私のゆうき。』って言ってたぞ!」
もんちゃんが、勇気をからかう。
「マ………マタマタ、バカナコトイッテ………」
お、おい勇気、なんか言葉に抑揚がないぞ。表情もめちゃくちゃ固い。緊張しすぎじゃないか?
「ほんとだもんね。勇気好き!好き!って叫んでたもんね。」
あ!あ、あの、もんちゃんさん、後ろ、後ろ………アリスたんベンチに来てますよ………。
「も~、もんちゃんのばか~。」
たまたま差し入れに来たアリスが、顔を真っ赤にして叫ぶと、チームメイトが一斉に笑いだした。
アリスは、わさびに抱きついて、いやいやしている。
「も~、もんちゃんは、アリスちゃんからの差し入れはお預け!」
「わさびさん、そりゃないっすよ~。」
さらに笑いが大きくなる。
これは、いい感じにリラックスできたかもしれない。勇気も少し冷静になり、『ヨウさんだって初めてなんだし、俺がんばるよ。』と声を絞りだした。
勇気の決意表明に、アリスも大喜び。雰囲気がめちゃくちゃ良くなった。あ~、2人は両想いなのね。
ちなみに、後日わさびが教えてくれたが、アリスには片想いのやつがいるらしい。おっさんには、恋心はわからんよ………。勇気がんばれ!