15.本わさび2
チームミーティングから2日、ヨウはひたすらパス練習をやらされた。作戦は実にシンプル。
・後半残り10分になったら出場する。
・ハーフラインより高い位置でボールを奪う。
・抜かれたら、追う必要なし。
・ボールを奪ったら、勇気か、もんちゃんにパスする。
ひたすらボールを奪って渡すだけ。
オフサイドとか気になるけど、気にしてもきっと対応できないし、ボールを奪うことだけに集中しよう。
とにかくパス練習を続けて、あっという間に試合前日になってしまった。その間、ずっと未来ボール能力を開放していたので、ヨウはもうヘトヘトだ。
試合前日の練習も終わり、わさびと一緒に帰る。
「ヨウ、今日はお花見しよ。『てっぱん』で花見だんごもらってきたんだよ。」
「いいね~。桜を眺めて一杯やりたいね。」
「もう、なに考えてるの。明日は試合でしょ!」
相変わらず、わさびに叱られてしまう。
そんなやり取りも日常になってきて、ヨウには居心地が良い。
ヨウとわさびが住む社宅は、会社から歩いて10分ほどの住宅街にある昭和な佇まいの一軒家だ。作りは古めかしいが、さすがは造園業者の社宅だけあり、庭木が良く手入れされている。庭には一本の桜の木があり、今、まさに満開を迎えていた。
家に着いた2人は、さかつくジャージのまま縁側でのんびり桜を眺めながら花見だんごを頬張る。ヨウが取り付けたライトアップに照らされた夜桜は、周囲の緑の中に美しく映え、まるで絵画のようだ。
と、恋人がそっと寄りそうような雰囲気の中、ヨウの『もぐもぐ、ごくごく』という咀嚼音が響く。
「もう、ヨウには、ロマンチックの欠片もないのね。やっぱり、あと1人の『授けし者』を何としても見つけるべきだったわ。」
「わさび………。このだんご、マジで美味しいよ。わさびの好きな味だ!」
「う、うん………。」
だんだん、わさびとの接し方も分かってきた。
「ねぇ、わさび。神じいさんは、なんか言ってきた?」
「えっとね。『さかつくすぺしゃる旨そうじゃなぁ。じゅるじゃる』って言ってた。」
なるほど、それでお好み焼が神棚に備えられてたのか!俺たちの旅のルールは、神じいさんの気分次第みたいだから、おそらく今は正解ルートを通ってるんだろうな。
それにしても、わさびは神じいさんにも尽くすんだな。本当にいい娘だなぁ、同世代として出会いたかったよ。
「ヨウのおかげで、毎日が楽しくて幸せになったよ。ありがとう。明日がんばってね、無理しちゃダメだよ。」
わさびが、そっとヨウの手を握る。
「俺の方がお礼を言いたいよ。ずっとサラリーマンやってたら、こんな綺麗な桜は見れなかった。」
重ねあった手は、いつしか恋人つなぎになる。
そのまま2人は、しみじみと桜を眺め続けた。