14.ラストアタック
「さぁ、ウェルカムセレモニーは終わりだ!!」
イレさんが言うと、全員が席に戻った。
「このメンバー発表のやり方結構いいな。気合いが入る。これからも、たまにやるか。」
部員達もまんざらでもない感じで、確かにと頷いている。もんちゃんが『俺が考えたんだもんね』とヨウに耳打ちしてきた。確かに、もんちゃんっぽい。
「ところで、西山………お前、ゴール決めたら、あれやるのか?」
西山は、イレさんから最初に指名されて、謎の鶴ポーズを取った男だ。
西山は、32歳のさかつく正GK。細身、長身の選手で、とにかく目力がすごい。
普段から長髪を一本に束ねている様は、その精悍な顔立ちと相まって、さながら名人級の陶芸家のようである。本業(造園)の腕も確かで、庭木の剪定は西山に頼みたいというお客さんも多く、文字通りの職人GKである。
GKなのに寡黙で、独特の雰囲気を放っているので、部員の中でも一目置かれているというか、少し近寄り難いところがある。
「いや、俺がゴール決めるなんて考えたこともなかったんで、思いつきです。」
西山が抑揚なく答える。
「そ、そうか………。よ、良かったぞ………。ぜひ試合で見てみたいものだ………。」
真面目な西山が、俺のために精一杯、セレモニーに参加してくれたんだなぁ。
イレさんは、この雰囲気ならいけるか?と西山と部員とのコミュニケーションアップを狙って失敗したみたいだ。イレさんが、冷汗流してる………。西山、恐るべし。
「さて、初戦はAO大学だ。今さらの話だが、ヨウはリーグ戦初めてだ。まずは、ヨウ向けに説明しよう。」
イレさんが、ヨウのために説明してくれる。
「俺たちさかつくサッカー部は、創部から20年間、ずっとY県リーグ1部にいる。ヨウは、サッカーリーグの構成知ってるか?」
「J1、J2とか、そういうのですよね?」
「正解!じゃ、俺たちはJなんだと思う?」
「え?J………FLとか?」
Jリーグの下部にJFLっていうのがあるのを聞いたことがある。
「不正解だ。さかつくは、JFLの下のリーグの、さらに下のリーグである、Y県サッカーリーグ1部に所属している。Jで数えると、J7なんて言われたりもする。」
J7!?と言っても、構成がよくわからん………。と思っていると、イレさんが、ピラミッド型の図をホワイトボードに描き出した。
J1を頂点にして、J2、J3、JFL、地域リーグ1部~2部、県リーグ1部~3部となっている。
図を指しながら、イレさんが説明を続ける。
「条件を満たせば、地域リーグに上がれるし、逆に県リーグ2部に落ちてしまうこともある。さかつくは、この20年間、良くも悪くも、ずっと県リーグ1部にいる。」
かつてヨウは、テレビで全然話題にならないし、J2以下は草サッカーのようなものかな?と思っていた。今でも真剣にそう思っている人がいるけど、とんでもない。
J7のさかつく部員ですら、インターハイ準優勝メンバーやら、県代表選手やら、その年代の『Y県サッカーすごいやつ10傑』に入るような連中ばかりだ。そう考えると、J2なんて雲の上のレベルだ。草なわけがない。
「俺たちの最終目標は、日本最強のチームになること。つまり、J1リーグ制覇だ!!その道は遠いが、諦めず1試合でも多く勝ち続けることが、俺たちのやることだ。」
J2チームがJ1に行くのすら、10年単位で挑み続けているのにJ7か。もしかして神じいさんは、俺とわさびに、『さかつくをJ1制覇させろ!』なんて使命を課してないよね………。確かに面白い話だけど、無理だよ?
「さて、前置きが長くなっちまったが………今年の目標は、地域リーグ昇格だ。今年こそは成し遂げろ!雑草一本も見逃すな、全て刈尽くせ!!」
オォォォォォ!!!!!
「昨年は、AO大に1位を持ってかれちまった。今年は俺たちが勝つ。もん、今年のAO大について解説しろ!!」
「イエッサー!!今年もしっかり調べてきたもんね。」
もんちゃんが、前に出て解説を始めた。
「ヨウさん、俺はAO大学出身なんっす。っても、2年までしかいなかったけどね。途中で大学やめて、坂本造園でサッカーやらしてもらってるっす。」
どうも初戦は、もんちゃんの古巣対決のようだ。
「さて、 今年のチームも、昨年同様に里垣を中心にした攻撃的なスタイルっす。システムは、4-2-3-1を継続し………」
本格的な説明に入ってくると、ヨウにはちんぷんかんぷんだ。ほとんど理解できないけど、メモを取りながら聞いていたところ、ふいにヨウの名前が出てきた。
「………さて………、最後に、秘密兵器について、みんなとの最終確認っす。名付けて、『ラストアタックだヨウ』。」
え?
「わかってるよ。俺たちも、やってみたい。ただ、そのダサいネーミングどうにかならんのか?」
キャプテンの仲地が、代表して答える。
「え?名前かっこよくないっすか?おれ、ひらめいたとき感動したもんね。」
ダメに決まってんだろ!センスね~よ!
口々に、ダメ出しを出されて困ってしまう、もんちゃん。
「わ、わかったっす。名前は公募ってことで、とにかくやりましょうよ。」
「わかった、やろう。ヨウさん、頼むぞ!」
ヨウは、仲地から背中を叩かれながら悟った。
これ、もんちゃんが言ってた、俺が命がけでボールとってくるってやつね………。
みんなにここまで期待されてるんだ、チート全開、命がけでもなんでもやってやる!
ヨウに気合いがみなぎってきた。