13.チームミーティング
水曜日の仕事が終わると、全部員がクラブハウスに集められた。これから、チームミーティングが実施されるらしい。
今週末にリーグ戦開幕なので、その作戦会議と聞かされている。
「たぶん、ヨウさんもベンチ入りすることになると思うよ。」
もんちゃんが話しかけてきた。
「いやいや、俺はないでしょ。練習試合すら、やったことないんだよ。」
「ふふふ………。何を隠そう………、さかつくは、18名のベンチ入り枠に人数が足りないのだ。だから、ベンチ入り確定だもんね。」
ま、マジすか。
まぁ、どうせ試合には出ないから、荷物運びとかで役に立てるようにしよう。
ガチャ
ミーティング兼、談話室兼、食堂のドアが開き、イレさんが入ってきた。
『っチワ!!!!!』
全員が即座に起立し、あいさつをする。
ヨウは出遅れた。
「お~し、お前ら準備はいいな。
ゴールキーパー、西山。」
「オーッスーーーーー」
突然、名指しされた西山が、ものすごい大声で雄叫びをあげ、直後に鶴のポーズをとった。
すると、全部員が一斉に『オーーーーー』と雄叫びをあげる。
え~!!!???
いきなりのことで、ヨウは面食らいまくりだ。
「DF、山岸」
イレさんは、どんどん続ける。
「オーッスーーーーー」
またまた雄叫びと同時に、膝をつき、両手を上に掲げる。
な、なんなんだこれ………。俺もやるのか?
「DF、芦沢」
あ、もんちゃんだ。
もんちゃんは猿のポーズをした。その後、FWで呼ばれた勇気は、手を腰に当てて胸を張るポーズをした。
あ!勇気のって、外国のスーパースターがゴール決めた時にやるやつじゃん。なるほど、呼ばれたらゴールパフォーマンスをやるのか。
って、もんちゃん、ゴール決めたら猿ですか………。で?俺もベンチ入りするのか?やるのか?なにやればいいんだーーーーー。
どすればいいんだ?どすればいいんだ?と焦りまくりのヨウだが、イレさんのメンバー決めは容赦なく続いていく。当然、周囲は話しかけられる雰囲気ではない。
「リザーブ、DF大石………」
うわぁ~、リザーブまできた~。やばいやばい………。
「ラスト!リザーブ、秘密兵器、松本」
………え?秘密兵器?………あ、
「う、うぉ~~~~~」
声がひっくり返った、棒読みのような声を張り上げながら、膝をつき、弓を射るようなポーズを取ってみた。足腰しっかりしてないから、なんか、ぐらぐらしている。
………。
あ、あれ?
シーンと部屋が静まりかえる。
………、………。
え?え?
………、………、………。
え~~~~~?
………………………………………………………。
「ぐっ」
ふいに、もんちゃんが変なうめき声をあげる。
途端に、堰を切ったように、全員が大笑いを始めた。
ギャハハハ、くるし~、ギャハハハハ。
みんなが、もんちゃんを叩きながら、大笑いだ。イレさんにいたっては、笑いすぎて床を転げ回っている。
「ヨウ、こっちに来い!」
なんとか立ち直ったイレさんが、ヨウを前に呼ぶ。
「もう一回、さっきのポーズしてみろ。」
え~。また笑い者にされるの?いじめですか~?
「ヨウ、真剣にやれよ!」
イレさんの瞳の中に、本気と書いてマジの文字が浮かぶ。
「じゃ、いくぞ。リザーブ、FW、松本!」
「ウォーーーーー」
ヨウは、思いっきり声を張り上げ、先ほどの弓のポーズをした。
その瞬間、部員達がヨウに飛びついてきた。
まるでゴールを決めた瞬間のように、ヨウは、もみくちゃにされる。
「松本八、さかつくにようこそ!
部員全員、大歓迎だ。」
イレさんが、倒れたヨウの手を取り起こしながら大声で叫ぶと、部員達が呼応して雄叫びをあげた。
なんだこれは………最高じゃないか!
ヨウは涙が出そうなのを必死でこらえた。