1.プロローグ
ん?
ヨウは、タブレットでJリーグ中継を見ながらつぶやいた。
いま、ボールが……2個見えた。
寝ぼけてんのか? いや、疲れてんのか?
脳の検査とか行ったほうがいいのか……。
でもまあ、面倒くさくてそのまま観てた。
ん? んん? んんん〜?
やっぱり、何回かに一度、ボールが2個見える。
さっきなんか、ちょっと青みがかったボールがふっと現れて、
そのあと、全く同じ軌道を“本物”が追いかけてきた。
「あ、クリアボールがロペスのところに!」
思わず声が出た。
でも、応援してるメビウスの選手たちは誰も動かない。
あ〜、どフリー……と思ったら、青いボールがふっと消えた。
同時に、もう一つのボール――現実のやつ――が同じ場所に転がってきた。
そして、田口がきっちり詰めて、シュートコースを消した。
さすが元日本代表。
…………………………。
いや、これ、さすがに分かったわ。
おれ、“未来のボール”が見えてる。
松本ヨウ。42歳、バツイチ。
マンションローン、絶賛返済中のしがないサラリーマン。
土曜の昼に、ベッドでダラダラとJリーグ観てただけなんだけど――
なぜか突然、未来の1秒先が見えるようになった。
しかも、色つきで。
赤はチャンス。
緑は味方。
青は敵。……まるで信号かよ。
チートなのか、老化なのか、幻覚なのか。
でも、確かに見えてる。嘘じゃない。
――こうして、俺の「1秒ストライカー」としての物語が、始まった。