僕を虐めるキミは、見惚れるほどにいい笑顔だった。
「ふふ、アイコンにするのに我ながらいい写真が撮れたわ。なかなか素敵よ、江口くん」
「ねぇ、ちづちゃん。あのスライム風呂、そのまま栓抜いて流すわけにも行かないし普通に後処理が面倒なんだけど⋯」
「はぁ⋯、そんなもの何事も無かったかのように受け流すのがお約束でしょ?リアル思考をこっちに持ってこないでもらえるかしら?二次元キャラとしての自覚ないんじゃない?」
「やべぇな、何言ってんだこいつ」
「そんなことより、下準備もできたわけだしそろそろ動画を撮っていくわよ」
「動画を撮るって言ったってまだ僕何も企画とか考えてないんだけど⋯」
「大丈夫よ、安心しなさい。私が全て考えてあるから」
「うわー、それ一番不安なパターンだよ」
「ほら、前回江口くんにお使い頼んだじゃない?要はそれを使っていこうと思うわ」
「あー、そういえばそうだっけ?」
「じゃあ江口くんがちゃんとお使いできてるか確認しようかしらね」
「いやいや千鶴美さん、流石に舐めすぎでは?」
「はいじゃあ確認していくわよ!準備はいいかしら?」
「アイアイキャプテン!」
「いくわよ?まず、『メントス』!!」
「ありまぁす!」
「はい、『コーラ』!!」
「待った待ったストップ」
「何よ江口くん、まさか買ってきてないの?」
「そうじゃなくてさ。⋯⋯え、アレやるの?」
「気づいたみたいね」
「そりゃあこの並びは流石に⋯。え?やるの?」
「もちろんやるわよ」
「メントスコーラ?」
「メントスコーラ」
「本当に⋯?いくらなんでもメントスコーラは流石にベタすぎない?コーラだけにベタベタだよ」
「微妙に伝わりにくくてつまらないギャグだわ」
「マジレスやめて」
「メントスコーラはYouTuberの登竜門っぽいイメージないかしら?ここでウケたら長期的な人気につながる、みたいな」
「⋯⋯え、そういうものなの?」
「⋯⋯さぁ、私もよくわからないわ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「とにかく、もうちょっと何か考え直して話し合ってから決めない?」
「私は奇を衒うより堅実にこなしつつ、続けて行くのが確実だと思うわ」
「えー⋯?メントスコーラは流石にもう誰も検索にすらかけてないと思うよ?」
「私だってオワコンメントスコーラを普通にやるつもりなんてないわよ」
「ほう?要はメントスコーラはメントスコーラでも、何か一風変わった試みをしてみるということ?」
「そういうことね」
「へー、じゃあ具体的に何をするのか聞いていい?」
「例えば⋯⋯、そうね。江口くんがメントスを噛まずに百個くらい飲み込んでからコーラを一気飲みしていっそ内側から爆発してみる、とかね?」
「『とかね?』じゃないよ。何?どんな倫理観を持った家庭で育てられたんだこの女は」
「そういえば、コーラとか甘いものを短時間で多量摂取すると急激に血糖値上がって色々ヤバいらしいわよ」
「それも分かってるならやらせようとするんじゃないよタコ!」
「何よ、私はイカ派よ」
「僕はタコ派だよ」
「人の事タコって言っておいて、僕はタコ派ですだなんて告白のつもり?『うぅ〜ん、イカしたコクハクだぜ〜!』なんてつまらないこと思ってるんじゃないでしょうね」
「思ってないし何だったらちづちゃんのその発言の方が最高につまらない!タコの部分無理やりじゃないか!」
「何よ、本当に文句しか言わない男ね。自分でも案を出してみたらどう?」
「ちづちゃんのアイデアはぶっ飛びすぎなんだって」
「大丈夫よ、仮にもタイトルに江口くんの名前が入っている以上この作品が続いている限りは何しても江口くん死ぬことなんてないのだから」
「作品におけるメタを利用したサイコな考え方やめてくれない?」
「やだ、褒めないで。殺したくなる」
「褒めてもないのに勝手な解釈で人殺そうとするのやめて」
「それならほらほらほら、代案出しなさいってば」
「えぇ⋯?うーん。やっぱり規模は大きく、浴槽にコーラ貯めてメントスを入れてみるとか?」
「はぁ?絶対先誰かやってるわよ。考え方もありきたりだし、それだけの使ったコーラ飲み切れるワケないしムダにするって言うの?」
「いや、まぁまぁ。やるかどうかは別として例えとしてね?」
「そういう細かいところでも簡単に炎上したりするのよ?それに素直に気分のいいものじゃないから、食べ物は大切にしてちょうだい」
「その考えは結構な事だけど、それよりちづちゃんはもっと僕を大切にして欲しい」
「まぁ、安心しなさい。自分でも伸びる気しないしメントスコーラはやらないわ」
「え、そうだったの?」
「何よ、本当はやりたかったって言うの?」
「いや、正直やりたくない」
「こういうリアクションが何より求められる系の動画は江口くんに向かなそうだもの」
「自分でもそう思うよ。⋯⋯うん?じゃあ、なんでメントスとコーラを買ってこさせたのさ?」
「ああ、それはシンプルに私が食べたかったからよ」
「ねぇ?その分のお金は後でちゃんと払ってね流石にさぁ、ねぇ?」
「まぁまぁ。私だってただの意地の悪い美少女って訳じゃないんだから、江口くんが全額持ってくれるんなら半分くらいあげるわよ」
「日頃何を考えて生きていたらこんな人格が形成されるんだ」
「ほらほら。冗談はここまでにして、メントスコーラはやらないんだからどんどん買ってきたもの確認していくわよ」
「何だかなぁ⋯」
「いいかしら?はい、『アルミホイル』!」
「あるよ」
「『カナヅチ』!」
「あるよ」
「『やすり』!!」
「待った」
「何よ?」
「⋯⋯もうアレじゃん」
「え、何よ?⋯⋯まさかあなた気づいちゃったわけ?」
「そりゃあこの並びは⋯」
「流石に分かっちゃったみたいね」
「少し前に流行ったヤツでしょ?」
「まぁ、そうね」
「アルミ玉でしょ?」
「⋯は?」
「⋯⋯え?」
「『え?』って何よ?」
「え?⋯⋯アルミホイルで玉作るヤツでしょ?」
「何言ってるのかしら?」
「違うの?!」
「違うわよ。今更そんな手垢まみれの企画なんてやるわけないじゃない」
「え?じゃあ何するために⋯?」
「まぁ、アルミホイルを固めて成形するという意味じゃ同じようなものかも⋯⋯」
「待った⋯」
「何よ?」
「ちづちゃんが何をしようとしてるのか、ズバリ僕が当ててみせよう」
「いいわよ、当ててみなさいよ」
「どうせちづちゃんのことだから色んな意味でヤバいことを考えてるはずなんだよ⋯⋯」
「聞き捨てならない発言だけど、確かに見方によってはそう見えなくもないかもね」
「見方によらずとも、どう見てもちづちゃんは異常だよ」
「そう感じるなら見る側が異常なのよ」
「ああ言えばこう言うね」
「何でもいいけど早く当ててみなさいよ」
「えー⋯⋯?うん。まぁ、だいたい分かったよ」
「ほう、それじゃあ聞こうかしら」
「え?どうせあれでしょ?銅像ならぬアルミ像でウォルト・ディズニーの像を作ってみたー!⋯とかやりたいんじゃないの?」
「はー、愚か」
「あれ⋯、違うんだ。大胆不敵なちづちゃんのことだからネズミにケンカ売りにでも行くのかなと」
「私だってネズミにケンカ売るほど驕っちゃいないわ。夢と魔法で存在そのものを消されたくないもの」
「えー?じゃあ何するつもりだったのさ」
「まぁ、像を作るってのはいい線行ってたと思うわ」
「うーん、そうなると自分のアルミ像を作って国会議事堂中央広間の四つ目の空いた台座に立ててきたー!みたいなのしか思い浮かばないよ」
「とりあえずデカい組織にケンカ売ることしか頭にないのかしら?お国相手は流石にヤバいわよ江口くん」
「ちづちゃんならやりかねないかなと」
「私を何だと思っているのよ」
「サイコパス」
「やだ、褒めないで。殺したくなる」
「それはなんなの?マイブームなの?」
「で、そろそろ答え言ってもいいかしら」
「⋯そうだね、僕もギブかな」
「まぁ、何しようとしてたか正解を言っちゃうと⋯」
「正解を言っちゃうと?」
「まず、江口くんの全身をアルミホイルで隙間なくキレイにぐるぐる巻きにして⋯」
「僕の全身をアルミホイルで隙間なくキレイにぐるぐる巻きにして?」
「その後、江口くんの骨組みに沿ってキレイに叩いてアルミを固めて⋯」
「僕の骨組みに沿ってキレイに叩いてアルミを固めて?」
「仕上げにヤスリをかけて研磨剤で磨いてピカピカの江口くん像を作りたいなーって」
「こいつやべぇな」
「安心して、江口くんは骨組みになるだけ。仕上げるのは私がやるから」
「そこ心配してるんじゃないんだよ」
「何よ、また『ちづちゃんのサイコ野郎!』とか言うつもり?」
「褒めてないし、殺さないで」
「やだ、先回って天丼回避するなんて頭脳プレーが江口くんにできたのね」
「天丼はだいたい二回までって暗黙の了解があるの知ってる?」
「まぁ由来が料理の方の天丼にエビ天が二本乗ってるから、らしいものね。正直面白いのなら何回でもいいと思うわ」
「いや、そんなことはどうでもいいんだよ。え、何?ちづちゃんは本当に真面目に考えてくれてるの?」
「いやだわ、真面目に考えてるわよ。正直我ながらこれは伸びると思うわ」
「伸びるかもしれないけど僕が死んじゃうヤツはだめ」
「だから死なないってば」
「死ぬの!!」
「何よ、せっかく私が『江口くんは死なないから安心しなさい』って励ましてあげてるのに『いーや、俺は絶対死ぬんだー!』ってヤケになっちゃって。ただのメンヘラかしら」
「物事の背景を見ずに字面だけでムリに解釈するのやめて」
「ねぇ、結局どうするつもりなのよ。このままだとメントスコーラかアルミ玉制作になっちゃうわよ?」
「え⋯?いや、だったらもうメントスコーラでよくない?」
「⋯⋯⋯な!!?おバカ!何早まったこと言ってるのよ!考え直しなさい!!」
「もっといい案出してくれるなら考え直すけど、これならメントスコーラの方が幾分かマシだよ」
「だったら『メントスコーラを限界まで胃に含んだ江口くんでアルミ像を作ってみた』の方が百倍伸びるわよ!」
「狂気の欲張りセットやめて。まぁそこまで言うんだったら、じゃあこうしない?」
「な、何よ?どうしようってのよ⋯?」
「チャンス一回だけあげるから、ちづちゃんが他に代案を考えられなかったらメントスコーラ決行ということで」
「⋯⋯な、何よ!急に強気になっちゃって!あなたの動画なんだから私は何だっていいのよ!!」
「ちづちゃん、最初に交わした契約の話覚えてる?」
「⋯⋯?悪魔と契約した覚えなんてないわよ?」
「僕とちづちゃんの取り分、3:7って話」
「⋯⋯それがなんなのよ?」
「この条件に文句は言わないけど、そもそも動画が伸びないとちづちゃんの儲けも減っちゃうよなぁー。大物YouTuber達みたいな生活、欲しくない⋯?」
「く、おのれ⋯⋯!欲しい⋯⋯ッ!!」
「守銭奴のちづちゃんならそう言ってくれると思ったよ」
「欲望で人を釣る⋯、この男やっぱり悪魔だったわ⋯」
「ふん、チャンスは一回だけだ!答えて見せろ!!」
「待って⋯、考える時間をちょうだい⋯」
「三分間待ってやる」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。いいわよ、答えは出たわ⋯」
「いいだろう、答えを聞こう!」
「偉そうに⋯!聞いてから私のセンスに脱糞するんじゃないわよ」
「それを言うなら『脱帽』ね」
「わざとに決まってるでしょ」
「それはそれで悪質だよ」
「じゃあ、言ってもいいかしら?」
「それではお答え願おうか」
「⋯⋯備中千鶴美、発表致します」
「⋯⋯⋯⋯ゴクリ!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯まず最初に」
「⋯⋯⋯⋯まず最初に?」
「江口くんの手首を掻っ切ります」
「はい、メントスコーラ決定!!!!!!お疲れ様でした!!それでは次回をお楽しみに!!」
「おのれ許さん!最後まで聞いてくれてもいいじゃない!!」