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異世界転生魔女日記  作者: 黒稲琴
第1章 おはよう世界
6/25

目が覚めると・ツェツェネル

長い夢を見ていたような気がする。


私は長い黒髪で、葉っぱが赤く染まる季節に、お気に入りのベレー帽を被って、可愛らしい薄手のカーディガンを着て、鉄の箱に入る夢。


目覚めの時と一緒に目覚めた記憶は不思議と徐々に薄れていく。

ハッキリと覚えているのは真夜中の庭園のような場所で、自称夜の神様と呼ばれる者達と親友の存在。


私は寝ぼけ眼で眼鏡をかけ、目の前に置かれた大きな鏡を見つめた。


青銀髪と言われる不思議な色の髪は背中まで伸びて、大きく緩やかな波を描いている。

少し垂れ勝ちな大きな瞳は、碧い海の輝きを映したような青緑色。


目覚めたときはこの姿に驚いたけれど......


これが、私。 ツェツェネル・ユエハだ。


親しい者からはネルと呼ばれている。


「あら、お嬢様。おはようございます」


鏡越しに、丸みを帯びた体の中年女性がにこやかに挨拶をする。

お手伝いのクレアだ。

クレアが押すワゴンの上にはタマゴサンドと暖かい紅茶、綺麗な緑色のサラダが輝いて見えた。


「クレア、おはようございます」


私がいわゆる、異世界転生。というものをしてから1年が経った。


この世界では6歳を迎える際、魔法の力というものに目覚めるのだけれど、その目覚めの際、二人に一人の確率で命を落としてしまうという。


運良く私は生き残る事が出来たのだけれど......



極鑑定(ク・ライブラリ)




◆名前◆


ツェツェネル・ユエハ


◆性別◆



◆種族◆


人間


◆年齢◆



◆体力◆


12


◆魔力◆


677


◆攻撃力◆



◆防御力◆



◆敏捷◆



◆スキル◆


マジックバック


◆固有スキル◆


極鑑定(ク・ライブラリ)

ピアニシモ


{転生者}


毎朝、鏡に映る自分を確認するように、スキル名を唱える。

昨日と同じであまり大差はなさそうだ。



異世界転生モノの話を割りと読んで来たから、なんとなくだけれどスキルの使い道というか、使い方は割りと早いうちに理解出来たと思う。


まず、スキルとよばれる項目は


『自分に合ったものなら、覚えることが出来るもの』


というものらしく、炎の魔法だとか、触らずに物を動かす魔法だとかでは無い限り、大抵のものはスキル屋さんに行けば手に入れる事が出来るらしい。


アイテムバックというのが一般的に知られているスキルの中で、ちょっと珍しいスキル。という認識。

容量は人によって違うけれど、私の場合は前世住んでいたお家一軒分の要領がありそう。

どうやら容量は自分の魔力によって左右されるらしい。


「スキルとして購入するのなら大きな屋敷が一軒買えますよ!お嬢様すごい!」


と去年の目覚めの時にクレアがはしゃいでいたっけ。


スキルが魔法と違うのは、魔法は適正があれば学べば学ぶだけ身に付き、覚えられる。というもので、逆に言えば、適正がなければ覚えることがとても難しい。とも言える。


どんなに魔法の適正が無い人でも、生活魔法と呼ばれるものの一部......火を着けたり、小さな風を起こしてゴミを吸ったり、掃き掃除をしたり。というものは使えるらしい。


らしい。というのは私はまだ幼く、一人で街も歩けないし、()()()()()()()()()()()()()()

この世界の常識は家にある本やお手伝いのクレアが教えてくれた。


続いて、固有スキル。これは


『その人個人の所有するスキルであり、譲渡のできないもの』


というものらしい。

この、譲渡のできないもの。となっているのは、通常のスキルは売り買いが出来るから。


お金に困った人が自分のスキルを売るだけでなく、珍しいスキルを持った者を誘拐し、強奪する。という事案もある為、珍しいスキルを持つ身としては、少々恐ろしくもある。


しかし、世の中というのはきちんと考えられているようで、通常の鑑定スキルを持っている者は、魔法道具を使用しなければ、相手のステータスを見ることが出来ない。

魔法道具を使用せず、相手のステータスを見ることが出来るスキルが、私の極鑑定(ク・ライブラリ)というもの。


極、とつくからには普通のものよりも、すごいのだとおもう。

今では名前を思い出すことが出来ないが、共に(目覚めで死んでなければ)異世界転生をしたあの子がやっていたゲームの強いモンスターは名前の前に極が付いていたと思う。


普通のものよりもすごい!とはいうものの、実際は見るつもりが無いのに目に映る人総てのステータス、性癖、経歴などがまるっとすべてお見通しになってしまうあたり、現在、7歳の少女である故に制御が出来ない事が多々ある。



文字列と情報の海に溺れて酔うだなんて経験は初めてだったし、クレアが夜のお仕事としてSMの女王様になっていた経歴も知りたくなかった。


なにも知らなければ気の良いおばちゃん。として接することが出来たのに。

クレアを見ると黒皮のボンテージスーツと鞭がセットで頭に浮かんでしまう。


私のおめめよ、鎮まりなさい。


......とまぁ、そういった事を防ぐためにも、私は拘束具の効果のある眼鏡が欠かせないの。

生まれつき視力が弱いのもあるんだけれど、こういった情報って視力でみるのではなくて魔力でみるものだというのも理解する事が出来た。


多分だけれど、魔力の宿った眼鏡を作り出す事ができたら、盲目の人に景色を与えることが出来るのかもしれないとさえ思う。


若干7歳にして我ながら中々の着眼点だ。


いいこいいこ。このツェツェネルちゃんはとても優秀なのだな、と思う。


そしてもうひとつ。


ピアニシモというスキル。


このスキルはアイテムバックや極鑑定よりも珍しいもので、何十万分の1という割合で現れるという。



スキル効果は


『総ての魔法の無効化』


この言い方には少し語弊があるかも。

もう少し丁寧に言うのなら、ピアニシモというスキル自体はかけられた魔法を()()()()()()()()()()()()()()するもの。


つまり、私にはどんな魔法も効かない。


猫人間の言っていたオマケって、この事?とさえ思えてくる。


どんな魔法も効かないなんて最高じゃない!無敵だわ!

そう喜べるものならいいけれど、逆に言えば


『どんな怪我をしても、回復魔法が効かない』


つまり。ささやかな願い事として、生き返る事が通用する世界で、仮に蘇生方法が魔法だったら、私は生き返る事が出来なくなる。


悲しい事に1年前に目覚めてから外に出たのは一度だけ。

その一度も情報の海に溺れて具合が悪くなってしまったから、正直良い思い出とは言えない。


このピアニシモというスキルの存在は、医者である両親を不安にさせた。


「事故に遭うかもしれない、怪我をするかもしれない!」


そう焦った両親は私に小さな屋敷を与える事にした。


目覚めを終えた子供は目覚めに体力をかなり使う為、1年間体を休ませる期間が必要になるからね。


そして、私はこの1年間、本とクレアとたまに来る両親としか会話をしていない。



そして、7歳になろうとしていたある日、両親は簡単な魔法を私に教える事にした。


初歩魔法の火炎球(ファイヤーボール)を。


その何気ない。ごくごく一般の家庭が行うような。


例えるなら、自転車の練習をするのと同様の光景になるのだけれど。

その魔法の練習の最中、父と母はあることに気がついた。



魔力はたっぷりあるものの、魔法が発動しないのだ。

炎は適正が無いのかもしれないと、水や氷、風や土など様々な魔法も試したけれど、全くと言って良いほど発動しなかった。


自分の中で魔力が大きなうねりとなり、抜け出していく。


が、放出する寸前でその魔力は徐々に失速していき、なんとかして出たのは炎蜥蜴(サラマンダー)のおならのような僅かな炎が一瞬生ずる。といったもの。


果たしてこれはピアニシモの効果なのか、そもそも私に魔法の才能が無いのか判断がつかない。

魔力はたっぷりある。平均以上はあるから使い方の差も出てくるのかもしれないのだけれど。


もしかしたら、固有スキル 転生者の効果とか?


その辺りがちょっとよく解らない。



そして、7歳になった時、両親はこう言った。


「魔法の扱いに長けた知り合いがいるから、その人の元で修行なさい」


と。


どうやらこの世界では7歳になったら師匠なるものを見つけ、弟子入りする。というのが一般的なようだ。



よそ行きの服に着替え、探偵帽によく似たキャスケットを被る。


眼鏡の予備もしっかりと確認し、父のお下がりのドクターバッグへ納める。


アイテムバックがあるのに何故?とクレアは怪訝な顔をしてみせるけれど、強引にスキルが引き剥がせるこの世界。


なにもない宙から色々な物を取り出す子供は目立つし、お腹をすかせた肉食獣の部屋に美味しそうな草食動物を放つようなものだと父から説明を受け、口の広いドクターバッグの中でアイテムバックを発動させ、物の出し入れを行う事にした。


鞄の重さは空の鞄と同じくらい。

仮に盗まれても私が開けない限り空の鞄とおなじなのでその辺りも大丈夫だろう。


アイテムバックの存在だけでも充分すぎるチートだと思うのだけれど、もしかしたら便利な能力を1つ付ける代わりに少々困った事も付け加えないといけないのかもしれない。


物事には対価が必要だと人魚姫の映画でタコの人魚が言っていたもの。



答えがでない物に対してひとつの仮定が出たところで車の準備が出来たらしい。



よし、行こう。



進んでみないことにはこの先どうなるかわからないし、単純に見たことの無い景色を見るのが楽しみだ。





そうして私はクレアの用意した朝御飯を鞄にいれると、この小さな屋敷をあとにした。




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