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異世界転生魔女日記  作者: 黒稲琴
第1章 おはよう世界
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おはよう6歳の私。

「ゆ、め......?」


なんだかひどく体が重い。

霞んだ視界では褐色肌の年若い娘がこの屋敷の主を呼んでいた。


頭がくらくらして思考がまだうまく纏まらない。

腕に力を入れて、天に伸ばす。



私の肌はこんなに白かったかな。


こんなに小さな手だったかな。


天井はこんなに高かったのかな。



いくつもの疑問が浮かんでは淡雪のように溶けて、霞んでしまう。



一瞬、意識が遠退き、伸ばした手は力が抜け、崩れ落ちそうになるが、温かく大きな手が包み、それを拒んだ。


「ファユ...!! 父は此処に、此処にいるぞ!!」


この温かく大きな手の主は父らしい。

日に焼けたような小麦色の肌。ぽかぽかと温かく、無条件で安心していいと思える声と体温。



眩しい朝日を浴びたときのように、私の意識は目覚め始める。


私はファユファナ・フェデリカ・ゴッディ。


愛称はファユ。


村の領主、ラウル・ゴッティの末娘だ。


私は6歳の誕生日を迎えた時、発熱し倒れた。

この世界では6歳を迎えた時、自身の魔力が開花し、属性や固有スキル等に目覚めるらしい。


その目覚めというものは体に大変負荷のかかるもので、体が目覚めに対応しきれない場合は所謂魂の石が砕け、死んでしまう。


それも、ごく稀に命を落とす。というものではなく、約50%の確率で命のふるいから落とされてしまうのだ。



生き返る事がささやかな願い。ではあるものの、スタート地点でこんな大博打が待ち受けているなんて......!!


どうやら私はこの『目覚め』の際に生まれる前の記憶も目覚めてしまったらしい。

猫人間や夢の中の事......生まれる前の出来事を思い出したが、ファユは猫好きのようだ。



大丈夫。トラウマにはなってない。


「あら、元気そうじゃないのファユファナ」



義母様(かあさま)......」



白いレースの扇をゆったりと扇ぎながらシンプルな黒いドレスに身を包んだ黒髪の女性が私の顔を覗く。


私の産みの母は私を産んだ次の年に流行り病で亡くなり、その2年後、森へ狩りに出掛けた父が見初めて連れ帰ったのがこの女性。リタリア。通称リタだ。


村の者の話では森の魔女とも呼ばれ畏れられて居るけれど、怖い人ではないのはファファユナである私がよく知っている。


皮肉めいた事を言っているが、目の下のクマは化粧では隠しきれず、恐らく私が倒れてからも傍で看病をしてくれていたのだろう。


細い体は今にも倒れてしまいそうだ。



「リタ様とお呼び......まったく、よりによって父親の前で目を覚ますなんて......可愛くない子だよ」



義母様の細く長い指が私の頬をつつき、優しく頭を撫でる。


「本当に良かった」と小さく呟くのを私も父も聞き逃すことはなかったけれど、それを指摘すれば機嫌が悪くなってしまうので、3人で顔を見合わせて微笑んだ。



良かった。今回の私の人生はとても幸せな愛に満ちている。



猫人間が言っていたオマケというのはもしかしたらこの事なのかもしれない。

人の顔色を伺わず、子供らしく振る舞える日常に時折泣きそうになる。

ずっとずっと、この幸せが続けばいいのに。



「旦那様、奥様、失礼致します。鑑定の準備が整いました」



褐色肌のメイドが細やかな細工の施された箱を手に再び戻り、義母様の元へ箱を差し出した。



「......本当はこの家の主人が鑑定をすべきなんだろうけれどね」



仕方ないったらないよ。と小言を言い義母様は箱を開け、銀で縁取られた鏡とルーペを取り出すとルーペを左目にあて、そっと鏡を膝の上に置く。



「意地悪を言わないでくれよ、リタ。どうも俺にはそういった魔法道具が向いていなくて何度壊した事か」



義母様の手を取り、優しい眼差しで見つめる父様に義母様は恋を覚えた少女のような表情を一瞬浮かべるも、直後に眉間にシワを寄せ、うんざり。と言いたげな顔をした。


「ええい、その野蛮な手をお離し!! ......まったく、ファユが母親似で本当に良かったとさえ思うよ!」


「ふふっあはははっ」


ペチペチ!と軽く父様の手を叩くリタとその態度を愛しく思う父様の姿に思わず吹き出してしまう。


この二人は本当に仲が良いのだ。

妹や弟が欲しいと以前ねだった事があったが「馬鹿を言うんじゃないよ!」と返された事がある。


もしかしたら、この『目覚め』が関係していたのかもしれない。


「コホン、いいかい?ファユファナ。 このルーペと鏡は魔法道具といって、これを使えばお前が私やお前の母親のような魔法に長けた人物か。父親のように魔力の才が無いか見極める事の出来る道具だよ」


鏡をそっと撫で、義母様はそっと指先で呪文を描く。

なんの力に目覚めるかは解らないけれど、義母様のような魔女になれたら......


うん、ちょっと格好いいかも。


「はい」



「それじゃあ、今からお前の能力を見せてもらうからゆっくり呼吸をしながら目を閉じなさい。いいわね?」



目を閉じて、ゆっくり、呼吸を整えるように深呼吸をする。


暗い視界の中で青紫色のクリスタルが姿を表した。



うん、やっぱり綺麗。



「魂の石が確認出来たのなら、目を開けて、鏡をみてごらん」


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