ヒモの飼い主
私は駄目な人が大好きだ。
「ひーくん、ご飯だよ」
「……腕上げるの面倒だから食べさせてくれ」
「ふふ、しょうがないなあ」
私が今一緒に暮らしているヒモのひーくんは、まさに私の理想形。
一人じゃ何も出来ない彼が私に人生相談をしてきた時、内心全力でガッツポーズを取っていた。
学生時代から彼のことは気に入っていたものの、彼は腐っても貴族の子。
私のようなぽっと出の商家の娘が言い寄ったところで相手にされるはずもない。
一晩の遊び相手が精々だと思う。
なにより顔だけは良かったから、その手の話には困っていない様子だった。
なんとか友人関係は築けたものの、そこ止まり。
だから学生が終わってしまったら、きっとこの関係も消えるんだろうなと思っていた。
それが今では彼を養っているのだから人生わからないものだ。
幸い、私の家にはお金がたくさんあった。
そしてお金を増やす才能が私にはあった。
二人で暮らしていくには十分以上の金銭を私は手にした。
勿論、順風満帆であったわけじゃない。
トラブルだって沢山あった。
だが、その度に彼の笑顔に癒やされた。
ダメダメだと思っていた彼は、どうやらヒモの才能はあったらしかった。
……唯一の才能が、ヒモ。
私はそれに気がついた晩、彼の顔を見るたび笑いが止まらなかった。
愛が深まったともいえる。
そんな彼が、どうやら私を裏切ろうとしているらしいと気がついたのはある休みの日のことだった。
たまたま魔力切れで充電してあった彼のケータイ。
ぐーすか寝ているひーくん。
ちょっとした出来心で、ケータイを盗み見てみると、そこにある女からチャットが来ていたのだ。
『この間はご飯楽しかったね♪ 今度、もっと良いものいっぱい食べさせてあげる!』
まあ、そういうこともあるのだろう。
私は駄目な人間が大好きだ。
そういうところも含めてひーくんを愛してる。
ただ、彼のヒモの才能によって私はとっくにひーくんに依存しきっていた。
独占欲が芽生えだしていた私は無言でそのメッセージを削除した。
「……ぐー」
のんびり寝こけている彼をどうしてくれようかとも考えたが、そんな有様を見せれば彼はきっと私から離れていってしまうかもしれない。
私は一計を案じた。
……。
…………。
「? 消えた、どこ、どこいったの……! ねえ、ねえ、ねえええええええええ!!!!」
絶叫しながら、ヤンデレが遠ざかっていく。
それにしても随分と熱の籠もった演技だ。
依頼したのは私とはいえ、その叫び声に思わず身体が震える。
……そう。
彼女を彼にけしかけたのは私で、あの子は舞台女優だ。
若手の舞台女優はお金に困っている子が多く、一も二もなく話に乗ってくれた。
彼は私の思惑通りに動き、彼女と仲良くなり、そして別れた。
それ以来、彼女のことがトラウマになったのか今では私以外の女の子に手を出す素振りはみられない。
グリングリンと頭を撫でられながら心底ほっとしている彼を、私は心の底から愛おしいと思う。
「ひーくん」
「んあ?」
「大好きだよ?」
「おお、俺も俺も。愛してるぜ」
「ふふっ」
彼は私の独占欲を多分知らない。
だからきっと、捨てられたときのことを考えてるに違いない。
だけど、ふふふ、大丈夫だよ。
私が貴方を捨てることは絶対にないから。
だからずっとずっと、私のペットでいてね、ひーくん?