表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/105

85.後始末

 テッサを巡る戦闘で、俺たちは見事に帝国軍を撃退してみせた。

 ”帝国の7剣”インペリアルセブンを前線に引きつけたうえで、ガルダに後方を攪乱かくらんさせ、敵を壊走させたのだ。

 さすがに夜戦だったので無理な追撃はせず、翌日になってから掃討部隊を出した。


「敵の状況は?」

「は、カルガノへ向けて散り散りに敗走中で、我が軍はさらに戦果を拡大中です」

「予定どおりだな。敵に与えた損害は、どれぐらいになりそう?」

「戦死、重傷者がおよそ2万で、生き残った捕虜が1万近くになります。捕虜は今後の展開で、もう少し増えるかもしれません」


 グラーフに状況を聞いていたら、師匠もそこへ加わる。


「敵の物資は確保できましたか?」

「はい、ガルダ様が集積地を制圧してくれたため、ほとんど無傷で手に入れることができました。10万の軍を、1週間食わせる分はあるかと」

「それは何よりですね。捕虜を養う負担が減ります」


 師匠が安堵の息を洩らすが、これも事前に備えておいたおかげだ。

 ガルダに後方を攪乱させたのは、敵の動揺を誘うだけでなく、物資を横取りするためでもあった。

 そのため殲滅力の高いアグニより、ガルダに任せたのだ。


 彼の風魔法は火事を起こす心配がなく、逆に消化も可能だ。

 その配慮のおかげで、膨大な物資を手に入れることができた。

 捕虜が1万人いても、2ヶ月は食わせられるだろう。


「今後は態勢を整えてから、カルガノ方面へ向けて進軍します。また忙しくなりますな」

「ああ、だけど味方の士気は高いんでしょ?」

「ええ、信じられないほどの大勝利に、沸きかえっております。帝都まで攻め寄せる、と息巻く者もいるくらいです」

「それはいくらなんでも、浮かれすぎだね」

「これだけの大勝利を収めれば、それも致し方ないかと。しかしまずは、国境線を固めるのが先決です。しっかりと手綱を引き締めて、事に当たりましょう」


 これから軍を進める俺たちだが、帝国領を攻めるつもりは、これっぽっちもない。

 まずはカルガノの手前に砦を築き、敵の再侵攻に備えるのだ。

 基本的に大軍が通れるような道は、ここからカルガノまでの街道しかないので、そこを押さえればいい。


 普通なら何ヵ月も掛かる築城も、俺たちの土魔法に掛かれば1日だ。

 数千人が籠れるような砦を街道沿いにいくつか築けば、帝国軍はそこへ釘づけになる。

 その間に国内を立て直して、継戦能力を上げるのが、当面の方針だ。

 もちろん、受け身だけでいるつもりもないが。





 それから1週間後には、カルガノからそう遠くない場所に砦を建設していた。

 敵がカルガノの守りを固めているうちに、速攻で砦を3つ建設してやった。

 帝国軍の奴ら、驚いているだろうな。


 砦には合計で2万の兵士を駐屯させ、敵に備えている。

 先の戦いで3割の戦力を失って混乱している帝国軍に、ここを抜く力は当面ないだろう。

 そのうえで俺たちは、帝国に勝利宣言と賠償請求を突きつけてやった。

 そのおおまかな内容は、こんな感じだ。



ひとつ、新生エウレンディア王国は、10万の帝国軍を撃退し、国土を守った。

    また我が国は、約1万の帝国兵を捕虜としている。


ひとつ、我が国はアルデリア帝国に対し、15年前の侵攻の賠償金として金貨250万枚と、捕虜の返還を要求する。

    捕虜については、交換も考慮する。


ひとつ、もしも、帝国が要求に応じない場合は、我が国は断固たる処置を実行する。


 そしてこの宣言は、自由都市同盟やヴィッタイト、さらには他の国へも告知してある。

 帝国の恥を天下に知らしめてやったわけだが、はたしてどのような反応があるか?





 しかしそれから1週間経っても、帝国からの反応はなかった。


「あいつら、外交とかする気、ないのかねえ?」

「まあ、十分に予想できたことです。いまだに帝国にとって、我らはただの叛徒に過ぎないのでしょう」

「ここはやはり、さらなる力を示すしかないな。いよいよ帝都襲撃を実行するか」

「まさか本拠地を攻められるなど、敵も考えてはいないでしょうが、本当に可能なのでしょうか?」


 そんなグラーフの疑問に、師匠が答える。


「敵もそう思っているからこそ、やりやすいのですよ。なにしろ帝都には、15年前に捕虜となった国民の多くが奴隷とされています。すでに私の調査で、およそ2百人の所在が掴めているので、一気に奪還を図れば、最大限の効果が得られるでしょう」

「しかし帝都は国境からはるか遠くです。たどり着くのも至難なのに、同胞を連れ帰るなど……」


 いまだに心配そうなグラーフが、言いよどむ。


「夢のまた夢、か?……しかしグラーフ、最初から諦めていては、何もできないぞ」

「しかし陛下、あまりに無謀な計画は――」

「落ち着きなさい、将軍。私も陛下も、ただ無謀なことをするつもりはありません」

「宰相殿。それでは何か勝算があると?」

「もちろんです」


 師匠が落ち着き払った態度で、帝国領の地図を広げる。


「ご存知のように、現状はこの国境付近に大軍が張りついています。そして帝国は威信に掛けても、再侵攻を図るでしょう。おそらく、数万の兵士が、さらに増強されるはずです」

「まあ、それはそうでしょうな。しかしだからといって」

「帝国軍も他の国境付近の軍は動かしにくいでしょう。つまり帝国の中心部、とくに帝都の守りは薄くなります」

「そこが付け目だと言うのですな? しかし、2百もの捕虜を動かすなど……」


 それは不可能だと言いたげなグラーフに、今度は俺が声を掛ける。


「そんなに心配するなって。俺たちには七王がいるじゃないか」

「しかし七王といえど、万能ではありませんぞ」

「もちろん万能じゃないさ。だけど、ガルダとアグニ、ナーガは空を飛べるんだぜ」

「それは存じておりますが……まさか、彼らに捕虜を運ばせるのですか?」

「そのまさかさ。ここはひとつ、奴らの度肝を抜いてやろうじゃないか」


 俺はこれから、1人でも多くの同胞を取り戻す。

 そのためにできることは、なんでもやってやる。

 見てろよ、帝国め。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもボチボチ投稿しています。

魔境探索は妖精と共に

魔大陸の英雄となった主人公が、新たな冒険で自身のルーツに迫ります。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ