81.7剣との遭遇
「それじゃいくわよ。名づけて神聖矢弾!」
アフィが作り出した光の矢が、骨ギガントへ向かって放たれた。
聖属性をまとうその矢は、敵の胸部に突き刺さり、深く食い込む。
さらに少し間をおいてから爆散し、胸部をごっそりとえぐりとった。
やはり死霊魔術の対極にある聖属性は、良く効くようだ。
「やったぜ、アフィ。みんな、あそこへ集中攻撃だっ!」
ここが勝機と感じた俺は、アフィが開けた大穴へ全力攻撃を指示する。
するとシヴァの闇矢、インドラの雷撃、ガルダの風刃、ナーガの水刃、ソーマの石槍、そしてアグニの火炎ブレスが、骨ギガントの胸部に集中する。
全ての攻撃が一点に集中した次の瞬間、眩い爆発光が生まれ、少し遅れて爆音と爆風が押し寄せた。
やがて煙が治まって視界がクリアになってくると、バラバラになった骨が広く散らばっているのが確認できた。
さすがにあそこまでやれば、もう復活できないだろう。
俺は右手の魔剣を頭上に掲げて、勝利を宣言する。
「帝国の死霊魔術、打ち破ったり!」
すると周辺で戦っていた味方から、歓声が鳴り響く。
こうなったら、この勢いに乗って敵を掃討するか?
そう思った矢先、敵陣から数騎の騎馬が走りだした。
そいつらは俺から少し離れた所まで駆け寄り、馬から飛び降りる。
「フハハハハッ、我らがボーンドラゴンを倒したお手並み、見事だった。俺はインペリアルセブンが一角、剛剣のジードレン」
真っ先に名乗ったのは、大剣を背負った大男だった。
赤い髪に薄い青の瞳を持った、ごつい奴だ。
「我は雷槍のヴェンデル。失礼ながら、貴殿がエウレンディアの新王か?」
続いて名乗ったのは、青黒い髪に黒い目の大男だ。
その手には、重厚な槍を持っている。
「ふん、反乱軍が王を名乗るなど、片腹痛い。この閃光のアルガスが討ち取ってやろう」
こいつは金髪に青い目の、やや小柄な男だ。
腰の左右に1本ずつ、小ぶりな剣をはいている。
「まだまだ若い子供じゃあないかい。この氷雪のマディラが、かわいがってやるよ」
最後は茶髪に青い目の、おばさんだった。
他の野郎どもが豪華な鎧を着ているのに比べ、派手なローブだけの軽装だ。
その顔の造りはけして悪くないのだが、ゴテゴテした化粧で台無しだ。
もうかなりな歳だろうに、無理な若作りが見苦しい。
「ハッ、厚塗りの婆さんなんか、お断りだね」
「あんだって? 殺すぞっ、このガキ!」
俺の挑発に、マディラ婆さんがキレて鬼の形相になった。
今にも魔法をぶっぱなしそうな婆さんを抑えて、ジードレンたちが言葉を続ける。
「フハハッ、ずいぶんと威勢がよいではないか。我らを前にして、そこまで堂々としているとは」
「しかし王自ら、1人で出てくるとは、無謀もいいところ」
「フン、その若さでは、我らのことなど知らぬだろう。哀れなことよ」
「チッ、じきに手足を切り取って、礼儀を叩き込んでやる……」
そんな奴らに、俺は肩をすくめて応えた。
「大層な自信だねえ、あんたらも。ところで、あとの3人は?」
「貴様ら反乱軍など、我ら4人だけで十分よ。ヴードゥレイはちょっと油断したようだがな」
「ヴードゥレイって、さっきの骨ギガントを生み出した奴? 今、どうしてるの?」
「さすがに魔力を消耗したので、今は休んでおるわ」
いかにも大したことないように言ってるが、その表情は忌々しそうだ。
おそらく術を破られたショックで動けなくなってるとか、そんなんだろう。
「そうかい……しかし、いいのか? こっちは俺だけじゃなく、七王がいるんだぜ」
「フンッ、たかが畜生の集まり、何ほどのことがあろうか。インペリアルセブンの力、見せてやるわ」
そう言いながらジードレンが大剣を抜き放つと、ヴェンデルとアルガスも武器を構える。
待ち構えていたマディラ婆さんも、杖を掲げて詠唱に入った。
しかも予想以上に早いタイミングで、氷魔法をぶっ放してきやがった。
「食らいなっ、百塵雹」
婆さんの掛け声と共に、俺に無数の雹が降り注ぐ。
しかし、そんなものはシヴァのシールドで防がれた。
「そんなの通じるかってえの。みんな、相手してやりな」
(((了解)))
アフィとシヴァ以外の七王が襲いかかったが、さすがはインペリアルセブン。
奴らは正面からそれに対抗してきた。
「フハハハハッ、しからばお相手いたそう」
まずジードレンがアグニと接触した。
無造作に振られた大剣をアグニが避けると、ドゴンという音を立てて地面が陥没する。
凄まじい破壊力だ。
続いてヴェンデルと対峙したソーマに、槍の雨が降り注ぐ。
ソーマの装甲は強固だが、敵の手数の多さに反撃を封じられている。
アルガスに向かったインドラも、無数の双剣攻撃に手を焼いていた。
インドラも爪で反撃しようとするも、完全に後手だ。
ナーガは婆さんと距離をおいて、遠距離攻撃を応酬しあっていた。
彼女と婆さんの間に、無数の水刃や氷の塊が行き来している。
そんな中、ガルダは空中から仲間を支援していた。
ひらりひらりと宙を舞いながら、ジードレンやヴェンデルたちにちょっかいを出してはまた離れる。
しかしそんな上空からの攻撃にさえ対応してみせるのだから、インペリアルセブンの名前は伊達じゃない。
一騎当千の七王たちが、決定打を打てずに翻弄されている。
俺はそんな様子を、シヴァに守られながら観戦していた。
やがてアフィから念話が入る。
(ワルド、やっぱり来たわよ)
(予想どおりだな。俺にも見せてくれるか?)
(いいわよ)
すると俺の視界に色がつき、魔力の流れが見えるようになった。
そして右手からするすると、近づいてくる何かが見える。
そいつは俺の背後に回り込んでいった。
思わず首を回したくなるのを我慢して、気づかないふりをする。
そして次の瞬間、俺の周りにシヴァのシールドが発生し、何かが弾かれた。
「今だっ、やれ、ガルダ」
(おう、死ねや~)
すかさずガルダに指示を出すと、上空から彼が急降下した。
そして俺から少し離れた場所に飛びかかると、そこから何かが転がり出てきた。
「グアッ、なぜだ」
黒ずくめの男が肩を押さえながら、声を上げた。
「何回も同じ手が通じると思うなよ、ハムニバル」
奴こそがじっちゃん殺しの犯人、暗撃のハムニバルだ。