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79.テッサ防衛戦

 とうとう帝国が鎮圧軍を出動させた。

 すでに新生エウレンディアの建国を宣言してあるにもかかわらず、帝国は完全にそれを無視したうえでだ。

 そして問答無用で、俺たちを鎮圧しようとしている。

 しかしそれはあらかじめ予想されていたことだし、撃退してやる気も満々だ。


「連中の配備状況は?」

「ハッ、全方位への配置が完了し、明日にでも本格的な攻撃に入ると思われます」


 帝国軍出動の報から1週間後、俺はテッサへ移動した。

 すでに町の周りは帝国軍に囲まれているため、ガルダに乗って空からの入場だ。

 おかげで昨日まで、王都でしっかりと仕事ができた。


 ちなみにガルダには人が乗れるカゴを運んでもらい、師匠を始めとする部下も何人か連れてきた。

 そしてその中には、魔法戦力としてのアニーとレーネもいる。

 本当は王都に残ってもらいたかったのだが、一緒に戦うといって聞かないのだ。

 まあ、負ける気はさらさらないから、そう危険もないとは思うが。


「今までに交戦は?」

「ハッ、何回か我々をおびき出そうと、小規模な攻撃がありました。しかしこちらは相手にせず、城壁に取りついた敵を追い返すに留めております」

「うん、それでいい。兵士の士気はどう?」

「元々、軒昂けんこうではありましたが、陛下の参陣でさらに上がっております」

「それはよかった」


 たしかに俺がガルダで乗り込んだ時に、目ざとく見つけた兵士たちが騒いでいた。

 それだけで士気が上がるというなら、俺の人気もまんざらではないな。


 ここで師匠が確認する。


「敵の陣容はどうですか?」

「はい。およそ10万の兵力に加え、”帝国の7剣”インペリアルセブンの旗が、6本立っております」

「6本も……かなり気合いが入っていますね」


 師匠が意外そうな顔でつぶやく。

 旗が6本立っているということは、インペリアルセブンが6人も参陣しているということで、これは予想よりも多い。


「参陣していない奴は?」

「爆炎のジュードです」

「ふむ、火魔法使いのみ、非常時の抑えとして帝都に詰めているのか。しかし……」


 ブツブツ言いながら何か考えている師匠に、気になったことを聞いてみる。


「暗撃のハムニバルってのは、暗殺が得意なんだよね? なのに旗を立てて、所在を明らかにしたりするかな?」

「たしかにそうですが、彼は軍略家としても名を知られています。あえて旗を立てることで、士気の高揚を狙っているのでしょう。必ずしも旗の下にいる必要もありませんしね」

「ふ~ん、そんなもんかな」


 すると師匠が心配そうな目で、俺を牽制する。


「陛下、いくら憎い敵とはいえ、無闇に突っ込んだりはしないでくださいよ。陛下をおびき寄せる作戦かもしれませんからね」

「分かってるよ。俺もそこまで短気じゃない……」


 実際にじっちゃんのことを考えると、頭に血が上りそうになる。

 しかし帝国軍の撃退こそが、敵にとって最大の打撃になるのだから、今はそれに集中する。

 いずれ、ハムニバルは仕留めるけどな。


 その後もいくつか確認をして、軍議はお開きになった。





 明けて翌日、予想どおりに帝国軍が動いた。

 朝飯が済んだ頃から複数の部隊が動きだし、城壁に迫ったのだ。


――ワー、ワー、ワー!


 総勢10万にもなる兵士の多くが、城壁へ攻め寄せる。

 まずは盾を構えて城壁ににじり寄り、ハシゴを掛けて壁を越えようとする。

 他に2つある城門にも、それを打ち破らんと敵は迫っていた。


 もちろんこちらも弓矢や投石で迎え撃つ。

 後方には魔法部隊も控えているが、まだ危機的な状況ではないので温存だ。

 それでもこっちは城壁の上から攻撃するので、圧倒的に有利ではある。

 敵兵がバタバタと倒れて、死骸が積み上がっていく。

 戦争とは、実に残酷なものである。


 俺たちは作戦室に詰めて、戦の状況を確認していた。

 ひっきりなしに入る報告を聞いていて、ふと疑問が湧く。


「帝国の連中、どういうつもりだろ?」

「何がですか? 陛下」

「あまりにも攻め方に芸が無いよね? 帝国軍といえば、どこよりも戦慣れした国のはずだ。将校の質は高く、兵士も良く訓練されてるってのに、こうも力攻めばかりするかな?」


 目の前の情報から感じる違和感を、口に出してみる。

 しかし彼は、あまり気にしていないようだ。


「たしかに、ちょっと強引さが目立つかもしれませんね……しかし、本来の城攻めとはこんなものですよ。今回は攻城兵器を伴っていないようなので、なおさら力攻めになるのでしょう」

「う~ん、そうかな……なんか胸騒ぎがするんだけど」

「それでは念のため、警戒を強めるように言っておきましょう」

「うん、頼むよ。空からの偵察も、強化しよう」


 攻城戦ってのは、壁を越えたり、門を破るだけじゃない。

 城壁の下に穴を掘ったり、水路から侵入したり、逆に水源を止めたりなど、いろいろなからめ手もあるのだ。

 当然、そういう弱点には、いろいろと対策をしてある。

 城壁の周辺は土魔法で固めてあるし、水路も封印した。

 水については魔法で出せるから、水源も問題ない。


 さらに2名の兵士をガルダの背中に載せ、周囲の偵察もさせている。

 これにより、戦場に影響を与えるような伏兵がいれば、察知できるはずだ。

 ここまでやっていれば、不覚を取ることはないと思うのだが、何かモヤモヤしたものは、その後も消えなかった。





 翌日も、その翌日も、同じような展開が続く。

 帝国軍は飽きもせずに押し寄せては退き、退いてはまた押し寄せた。

 多少は考えているようだが、基本的な動きは一緒なので、こちらはそれを迎え撃つだけだ。


 こちらから討って出ることも考えたが、意外に隙が無いため、なかなかつけ込めないでいる。

 しかし帝国軍兵力の損害は増え続け、その数は1万を超えているようだ。

 その一方で味方の損害は数十人しかないので、こちらの兵力をすり潰すにしてはあまりにお粗末。

 いったい何を考えているのかと頭をひねっていた矢先、変化が起きた。





 戦闘が始まって4日目の朝、日が昇って戦場が露わになると、そこには今までに無いものが存在していた。

 何か白っぽいものが、まるで薪のように山積みにされていたのだ。

 多くの荷車が見えることから、夜の内に運び込んだのだろう。

 それらは様々な形をしており、大きさもまちまちだ。

 そんな異様なものを前にして、帝国軍が何か作業をしているようだ。


「あれって、なんだと思う?」

「分かりません。非常に大きな動物、いえ魔物の骨のように見えますね。そんなものを一体、どうするのか……」


 魔物の骨と聞いたので、アフィを呼び出して聞いてみる。


「アフィ、帝国軍がでかい骨を集めて、何かしてるみたいなんだけど、何か分からないか?」

「う~ん、特に心当たりはないわね。でも何か、魔術的なことをやろうとしてるみたい……なんだか凄く悪い予感がするわ」

「かといって、城を出て突っ込むわけにもいかないからなぁ」


 帝国軍はガッチリと陣列を整えて、防御態勢を取っていた。

 ただ単に俺たちを誘っているのか、それとも何か企んでいるのか?


「いずれにしろ、ろくなことになりそうにないから、こっちも防御を固めよう。いざとなったら七王を出す」

「はっ、陛下のご指示を伝えます」


 そうして警戒を強めていたら、敵陣に変化が生じた。

 10人ほどのエルフが、骨の山の前に引き出されてきたのだ。

 彼らは手足にかせを付けられ、家畜のように扱われている。

 おそらく帝国から連れてきた奴隷だろうが、嫌な予感しかしない。


 そして案の定、彼らはその場にひざまずかされ、次々と切り殺されていった。

 それを見た味方から非難の声が上がったが、帝国軍がそれを気にするはずもない。

 俺も残酷な行為に激怒していたが、同時に戸惑ってもいた。


 奴らは何がやりたいのだろうか?

 敵の同胞を目の前で処刑して、こちらの怒りを誘う。

 それ自体はよくある戦法だが、場当たり的な感覚がぬぐえない。


 いったい何を狙っているのか、そう考えていた矢先、新たな異変が生じた。

 骨の山がにわかに揺れ始め、カタカタと骨が触れ合う音が聞こえてきたのだ。

 それと同時に骨に向かって風が吹き始め、骨の山が灰色の渦に包まれる。

 まるで戦場から何かが集まり、形を成そうとしているかのようだ。


 そのまま固唾かたずをのんで見守っていると、やがて灰色の渦の中で骨が浮かび上がり、形を取りはじめる。

 次第に明確になってきたそれは、4本の足に長い首と尻尾を持つ、巨大な何かだった。

 それはどこか見覚えのある姿でもある。


「分かったわ、ワルド。あれは死霊魔術よ。この世のことわりにそむく、おぞましいもの……」


 そう言って急に、アフィが苦しみだした。

 その顔色は真っ青で、油汗を流している。

 しかも死霊魔術だって?

 とんでもないのが出てきたな。

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