78.進化した七王
じっちゃんの魂がシヴァと融合したことにより、七王の盾は進化の条件を満たした。
そしてアフィの指示に従って王城地下の迷宮で儀式をすると、七王が眩い光に包まれた。
やがて光の中から、進化した七王が姿を現す。
「どう? ワルド」
そう問いかけるアフィは、さっきよりも少し大きくなっていて、頭部に白銀の宝冠を戴いていた。
服装も青いミニドレスから、豪奢な刺繍の入ったドレスに変わっている。
その姿はまるで、女王のようだ。
「あ、ああ、なんか立派になったよ。その冠とか、ドレスとか、似合ってるな」
「エヘヘへ~、そうでしょ。実は私、妖精女王になったのよ」
彼女が空中でクルクル回りながら、いろいろなポーズを取る。
「フェアリークイーンって、妖精の女王ってことだよな?」
「そうよ。妖精だけじゃなくて、全精霊の頂点でもあるわ。今の私なら、上位精霊にも指示を出せるはず」
「えっ、ということは、アニーたちも上位精霊と契約できるのか?」
「ええっ、本当に?」
「上位精霊と?」
思わぬ情報に、アニーとレーネも色めき立つ。
アフィの話によると、七王は本当に精霊王に並び立つ存在になったらしい。
元々、精霊王に近い存在だとは言われていたが、今回の進化で完全に同格になった。
そして精霊王はこの世界には出てこないから、現世では事実上、彼女がトップになるらしい。
おかげで今後は上位精霊の紹介も可能になるし、治癒魔法の能力も向上しているようだ。
さらに嬉しいことに、七王の盾の中にある空間に、ある程度の荷物を収納できるようにもなったとか。
その収容能力は俺の魔力に依存するらしいが、いざというときに身軽に動けるのはありがたい。
相変わらず戦闘能力は皆無な彼女だが、とても心強い存在になった。
「我が王よ、我らも進化しております」
そう言ってひざまずいたのは、生まれ代わったシヴァだ。
すでに暗黒騎士に進化していた彼だが、とうとう喋れるようになった。
彼は暗黒鋼の鎧をまとって飛躍的に防御力が上がったうえに、じっちゃんの技と経験を取り込んで、攻撃力も倍増している。
さらに闇魔法も使えるので、攻守ともにとても頼もしい。
(我輩はフライングタイガーに進化したニャ)
インドラは天駆虎となり、空気を足場にして跳び回れるようになったとか。
ガルダに比べれば限定的な飛行能力だが、彼の攻撃力を大幅に向上させてくれるだろう。
さらに雷魔法の威力が向上しているし、体の周りに風の障壁をまとえるようにもなっている。
その体格は従来の2割増しとなり、黒の縦縞が入った白銀の毛並みは、まさに王者の風格だ。
(俺はエルダーグリフォンだ)
ガルダは上位鷲頭獅子に進化した。
その体格は3割増しで、頭部に冠羽が付いてより立派な風貌となっている。
当然、風魔法の威力は格段に増しており、インドラと同じように見えない障壁を周囲にまとっているそうだ。
元々あった飛行能力にも磨きが掛かり、速度も搭載能力も格段に向上しているとか。
(私はウォータードラゴンです)
白い蛇だったナーガは、水竜に進化した。
俺の10倍にもなるその全身は白銀のウロコに包まれ、小さな手足を備えている。
当然ながら水魔法は凶悪なほどにレベルアップし、さらに飛行能力まで手に入れた。
飛ぶ速さはせいぜい馬の駆け足程度だが、従来よりも格段に速いし、どこにでも行ける能力は得がたいものがある。
(俺、アースドラゴン)
でかいモグラだったソーマは、大地竜に進化した。
外見は少し太ったトカゲみたいな感じで、全長は俺の5倍程度。
さらに全身は黒茶の硬い鱗に覆われていて、強固な防御力を感じさせる。
飛行能力こそないものの、土魔法を駆使して地中を潜る速度は、馬の全速力を凌駕するとか。
土魔法も大きく強化されていて、一瞬で高い壁を構築したり、人間大の石槍をバンバン撃ち出せるそうだ。
(我はあまり変わらないな)
最初から火竜だったアグニの姿形はあまり変わらないが、より大きくなった。
頭の高さは俺の倍ほどにもなり、尻尾を含めた全長は7倍はあるだろうか。
その巨体はたくましい四肢に支えられ、大きな翼で空を自由に飛び回る。
飛行速度こそガルダに1歩譲るものの、強靭な肉体と火炎ブレス、そして強力な火魔法によって随一の攻撃力を誇る。
「凄い、わね」
「これだけで帝国軍に勝てるんじゃない?」
アニーとレーネから、感嘆の声が上がる。
しかし、それほど甘くもないだろう。
「う~ん、”帝国の7剣”とかいるから、そうはいかないと思うけどな」
「そうね。10万の軍を相手にするには、ちょっと力不足かしら。だけど、1体で千人ぐらいは、相手できると思うわよ。もちろん私は除いてね」
「なるほど、一騎当千てわけか。これからもよろしく頼むな、みんな」
「御意」
(了解だニャ)
(おう)
(承知しましたわ)
(了解)
(心得た)
こうして俺は、さらなる力を手に入れた。
じっちゃんの命と引き換えにってのが辛いところだが、彼の望みを叶えるのにも役立つだろう。
1日も早く戦争を終わらせ、平和な世の中にしたいものだ。
それから3日もすると、とうとう帝国軍に動きがあった。
「ようやく敵がカルガノを出たって?」
「はい、とりあえず先遣隊だけで1万。さらに後続も控えており、やはり10万規模になると思われます」
「まあ、予想どおりだな……それで、テッサの守りは?」
「はい、城壁の補強、物資の運び込みも終わり、部隊も集結済みです」
前線の都市テッサではグラーフが指揮を執り、防衛準備が整えられていた。
その兵力は約2万5千。
「敵の4分の1だけで、対抗できるかな?」
「我が軍は都市の防壁を頼りにできますし、魔法戦力も豊富です。十分に対抗できるでしょう」
「そうだね……問題はインペリアルセブンか」
「はい、しかしそれほど心配はないでしょう。七王もさらに強化されたのですよね?」
「それはそうだけど、あいつらって人外なんでしょ?」
「そうですが、しょせん人間ですよ。七王の敵ではないでしょう」
「師匠にしては珍しく、楽観的だね?」
すると彼が不敵に笑う。
「当然ですよ。この日のためにできる限りの準備をしてきましたから。この戦はただ勝つだけではなく、いかに味方の損害を少なくして勝つかが焦点です」
「そうだね。圧勝するぐらいじゃないと、その先はおぼつかなくなる」
「ええ、せっかく帝国軍が出てきてくれるのです。見事に粉砕してやりましょう」
そう言う師匠の表情は、どこか獰猛だった。
まるで牙を研ぐ獣のように。