表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/105

幕間:帝国の闇剣

 暗撃のハムニバル。

 ”帝国の7剣”インペリアルセブンの1人として知られる、帝国の暗殺者である。

 彼はその名のとおり、今までに何十人も、帝国の敵を排除してきた。


 ハムニバルは単人族ヒュマナスの男性で、茶色の髪に青い瞳の地味な人物だ。

 少し色が黒いことを除けば、良くも悪くも普通の顔だちをしている。

 そして公の場に出る時は、仮面で顔を隠しているので、その素顔を知る者はとても少ない。

 故に彼は、いまだに帝国最高の暗殺者だ。


 しかし彼の有能さは、その暗殺術のみに留まらない。

 何十人もの配下を使い、情報を集めて陰謀を巡らす才にも長けていた。

 むしろ帝国に対する貢献としては、そちらの方が大きいだろう。


 それでいて暗撃と呼ばれる所以ゆえんは、若い頃の働きもあるが、ひとえに彼が人殺しを好むからだ。

 彼は明確な殺人嗜好者であり、一種の狂人である。

 しかしその腕は確かで、証拠も残さない。

 そんな恐るべき、帝国の闇の剣なのだ。


 本来なら彼のような存在が公になることはないが、インペリアルセブンの宣伝に使われている。

 その悪名を利用して、インペリアルセブンの恐怖を高めたのだ。

 おかげで彼の悪名は、近隣諸国に鳴り響いている。

 しかし当然ながら、その正体を知る者は少なく、彼は闇の中に生きている。


 そんな彼にある日、衝撃的な情報がもたらされた。


「エウレンディアが再興されただと?」

「はっ、真偽は不明ですが、旧エウレンディア領の都市が制圧され、新生エウレンディア王国の建国が宣言されたとのことです」

「ふむ、情報源は?」

「旧エウレンディア領に潜ませていた諜報員です」

「ああ、一応、送り込んであったな。ということは、ただの噂ではないのか」

「はい、反乱軍を率いるのはエウレンディアの王族で、それをガルドラ・エウレリアスや、グラーフ・ティレンドンが支えているとの情報もあります」


 それを聞いたハムニバルが、目をみはる。


「ガルドラはのがしたが、グラーフは捕らえて奴隷にしたのではなかったか?」

「はい、それは間違いありません。なので、別人が成りすましている可能性は高いでしょう」

「おそらくそうだろうな……しかし、ガルドラか。あの男が裏で糸を引いているとなると、一筋縄ではいかんな」

「そうなのでしょうか?」


 部下の問いかけに、ハムニバルはため息をつく。


「ハァ……お前が知らないのも無理はない。もう20年近く前だからな。しかし彼奴きゃつが宰相として舵を取っていたエウレンディアは、手強かった。だからいろいろと手を打って、玉座から遠のけたのだ。まあ、先代王が間抜けだったので、わりと簡単に実現したがな」

「はあ……」

「それで、情報収集の手はずは?」

「はい、すでに3名を旧エウレンディア領へ向かわせております。じきに伝書バトで続報が届けられるでしょう」

「そうか……しかし事が事だ。万全を期す必要があるので、儂も出よう」


 そう言うハムニバルに、部下が動揺する。


「ちょ、長官自ら出向くのですか? そこまでしなくても……」

「何、最近は儂も前線に出ていないからな。ちょっとした肩慣らしだ」

「はあ……くれぐれもお気をつけを」


 そう言われてハムニバルは、部下をにらみつけた。

 こいつは一体、自分を誰だと思っているのか、と。

 しかし彼は冷静な人間なので、それ以上とがめることもしない。

 それよりも彼は、久しぶりに腕の振るいがいのありそうな事件に、高揚していた。


 ハムニバルは雑事を片付けると、馬でカルガノ砦へ向かった。

 何頭も馬を乗り継ぐことで、3日で砦へ到着する。

 常人にはまねのできない強行軍だ。


 彼の秘密は、魔力による身体強化にある。

 彼は闇系の偽装魔法や、身体強化しかできないが、その魔力は膨大だ。

 そして磨き抜かれた暗殺術によって、彼はのし上がってきた。


 カルガノ砦へ着いてもほとんど休まず、すぐに旧エウレンディア領へ向かう。

 途中でテッセの町を通過したが、大した情報もなかったので、すぐに旧王都へ向かった。

 そこで彼は目を疑う光景を、目の当たりにしたのだ。


「なんだこれは? 王城は完全に破壊されたはずではなかったか……」


 旧王都に人があふれているのは、まだ分かる。

 新生エウレンディアを名乗る国の建国で、旧国民が流れ込んでいるのだろう。

 しかし、王城跡に立ち並ぶ建造物は、異常だった。


 15年前に破壊し尽くされたはずの王城が、復活している。

 それはたしかに王城と呼ぶには貧相だったが、大勢の兵士や官僚を入れるだけの機能を持っていた。

 そして王城、ひいては王都全隊に活気が満ち、機能しはじめているのだ。


 たかだか1週間や2週間前に建国を宣言した国とは、信じられない光景だ。

 ハムニバルはその謎を解くため、王城へ潜入した。

 たとえ昼間でも、彼お得意の闇魔法を使えば、見つかることもない。


 そして兵士に紛れ込んで情報を探ると、さらに驚愕させられた。

 すでに”竜の咢”が封鎖され、領内の大型魔物も駆逐されているというのだ。

 帝国の力を持ってしても、どうにもならなかった存在だというのに。


 さらに情報を集めると、その中心にはやはりエウレンディアの王族がいた。

 15年前にあれほど執拗に追い詰め、根絶したはずなのに。

 しかし七王の盾のことを聞いて、ハムニバルは認めざるを得なかった。


 七王の盾はエウレンディア王家の者にしか使えないし、それ無しにこの繁栄は、あり得ないからだ。

 しかしそれが事実であるならば、このままにはしておけない。

 ハムニバルはその新王を調べ、あわよくば暗殺することを決意する。


 しかし新王ワルデバルドの近くに寄るのは、至難の業であった。

 近づこうとすると、ハムニバルを何度も救ってきた勘がささやくのだ。

 それ以上近寄ってはならない、命を落とすぞ、と。




 そうして何日も無駄にしていたある日、とうとう新王が隙を見せた。

 人気のない庭に出てきて、女といちゃつき始めたのだ。

 明らかに警戒の緩んだ新王の近くに、忍び寄るハムニバル。


 そして彼は特製のクロスボウに、強力な毒を塗った矢をセットして、チャンスを待った。

 やがて臣下に呼ばれて後ろを向いた的に、必殺の矢を放つ。


「ガルドラ様がお話を――――ワルドっ!」


 しかし失敗した。

 驚くべきことに、獣人の臣下が体を張って新王を守ったのだ。

 なんたる強い忠誠心か。


 しかし、まあいい。

 必ずしも王をれるとは、思っていなかった。

 ここは欲張らずに退却し、貴重な情報を持ち帰るのだ。

 たかだか3万ばかりの兵力ならば、帝国軍の敵ではない。


 俺は暗撃のハムニバル。

 ただの暗殺者ではないところを、見せてやろう。


 彼は不敵な笑みを浮かべながら、闇の中へ消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもボチボチ投稿しています。

魔境探索は妖精と共に

魔大陸の英雄となった主人公が、新たな冒険で自身のルーツに迫ります。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ