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68.他国からの誘い

 新生エウレンディア王国のため、土魔法による拠点整備を始めた。

 しかし、アフィの提案で師匠やアニーを巻き込むと、より簡単に魔法が使えることが分かった。

 そこで彼らを巻き込んで、大々的に工事を始めることとなる。


「それじゃいくよ~」

「いいわよ~」

「ギュ~」


 俺たちは次々と瓦礫がれきの山を整地し、そこへ石造りの施設を建てていった。

 まず数百人が寝起きできるような建物をいくつか建て、とりあえずの兵舎とする。

 主力はすでに前線の都市テッセへ向けて出発しているので、当面はこれで十分だ。


 さらに中心部にはそこそこ立派な作戦本部、官僚が働く行政府、そして俺たちの居住区も造った。

 アニーたちに魔力を補助してもらうだけでも大助かりだったのだが、特に師匠の影響は大きかった。

 彼の構造把握能力によって、より複雑な建築ができるようになったからだ。

 さすがに美麗なお城とまではいかないが、王城跡にはそこそこ立派な石造りの建物が林立している。


 それを見ていた虎人族ティグラスのグラーフ将軍が、苦笑しながらぼやく。


「いやはや、七王の力がこれほどのものだったとは、想像を超えておりますな」

「いいえ、ただ七王がいればできるというものでもありませんよ。エウレンディアの歴史上、これほど大規模な作業は記録にありません。これはひとえに、陛下と彼女たちの力でしょう」


 歴史に詳しい師匠が、そんなことを言う。

 あまり自覚はないが、俺たちは凄いことをやっているのだろう。


「もちろん師匠の力も凄いけどね。でも、初代エウレンディア王には、4人の高位森林族ハイエルフが付いていたって話だよね? それだったら、これぐらいやってるんじゃない?」

「たしかに初代の頃はハイエルフもいたようですが、このようなことを成したとの記録はありませんよ。まあ、当時はそんな必要もなかったのでしょうが」

「そんなもんかね……いずれにしろ、これは帝国軍に対抗する、重要な武器になるよね」


 するとグラーフやじっちゃんが、力強くうなずく。


「はい、これほど迅速に入れ物ができるのであれば、国家としての基盤がそれだけ早く整います。奴らがこれを知れば、腰を抜かすでしょう」

「それで攻撃をためらってくれれば、さらにいいんだけど」

「ハハハッ、それはあり得ませんな。奴らが陛下の旗揚げを認識すれば、ただちに軍を差し向けてきます」

「まあ、そうなるだろうね。その辺の見通しについては、明日聞かせてくれる?」

「はい、陛下のおかげで王城の整備が早く済んだので、じっくり軍議ができます」

「了解。今日はゆっくり休めるね」


 こうして王城の設備を、非常識なほどの短時間で仕立てた俺たちは、その晩はのんびりさせてもらった。





 そして翌日、大臣級の官僚や、将軍級の人物を集めて会議を開いた。


「それでは新生エウレンディア王国として、初の正式な会議を開催します。まずは陛下、お言葉を」

「ああ、今日は今後の進め方を決める重要な場だが、そう委縮する必要はない。忌憚きたんのない意見を聞かせてくれ」


 軽い感じで言ったら、出席者が一斉に頭を下げた。

 まだちょっと硬いけど、まあいいか。


「それでは敵の兵力の配備状況について、軍部よりお願いします」

「はい、それについては私から報告いたします」


 師匠に振られて、グラーフの隣に座っていた単人族ヒュマナスが立ち上がった。

 そして卓上に地図を広げ、説明を始める。


「かねてより国境周辺に配置されている敵の兵力について、内偵を進めてまいりました。その結果、このカルガノを始めとする3つの砦には現在、2万の兵力がいることが判明しております」


 彼はそう言って、地図上の3点を次々と示す。

 それは旧エウレンディア王国と帝国の国境上に建設された砦だ。

 大魔境から湧き出してくる魔物を食い止めるためのものなので、砦というよりは兵力の駐屯地に近いらしい。


「兵力は真ん中のカルガノに1万、他の2点に5千ずつで、周辺に魔物が現れれば急行し、それを討伐するのが役目です」

「ふむ、それで敵の動きは?」

「はっ、カルガノに潜伏した密偵からの報告によれば、すでに我が国の異変は伝わっているようです。ただし、情報が錯綜さくそうしているらしく、まだ明確な動きは見られません。おそらく帝都へ使者を送り、指示を仰いでいるのではないかと思われます」


 その言葉に、出席者たちが安堵の声を洩らす。

 ある程度予想されていたとはいえ、敵の動きが遅ければ遅いほど、こちらには有利となるのだ。

 しかしそんな雰囲気に師匠が釘を刺した。


「予想の範囲内だからといって、油断は禁物ですよ。なんといっても我々は、領土を奪還しただけで、そこに住む民や生産力は、これから整えなければならないのです。それなくして、帝国との戦争などできませんよ」

「うむ、そうだったな」


 厳密には、俺たちはすでに南北の森林地帯に、ある程度の基盤を持っている。

 アフィに樹妖精ドリアードを招いてもらったので、ソライモなどの食料生産はそれなりの水準にある。

 国民もすでに20万近くいるし、鉱山都市オリンポスでは金属製品の生産も可能だ。

 しかし3万もの兵を養うとなれば、膨大な物資が必要になる。

 補給経路も長くなるので、この平野部での生産力や輸送力を高めるのが、喫緊きっきんの課題でもあるのだ。


「そのためには前線の都市の守りを固めつつ、領内の街道や都市の整備が必要だな」

「はい、そのとおりです。陛下が育て上げた精霊魔術部隊に、しっかりと働いてもらいましょう」

「いや、精霊魔術はレーネリアのお手柄だ。術師の育成もがんばってくれたからな」

「そ、そんな。私、大したことしてません」


 持ちあげられたレーネが謙遜けんそんしているが、その顔は嬉しそうだ。

 ちなみにこの場には、強力な魔法戦力としてレーネの他に、アニーも出席している。

 幸か不幸か、軍も官僚組織も人材が不足しているので、彼女たちも受け入れられている。

 それはそれで、頭の痛い話ではあるが。


 レーネだけ褒めたら、アニーが複雑そうな顔をしているのが目についた。

 彼女は隠そうとしているが、付き合いの長い俺にはお見通しだ。


「いや、レーネにしろアニーにしろ、術師の育成はがんばってくれている。2人がいなかったら、こんなに早く魔法戦力は調ととのわなかっただろうな」

「ええ、それは間違いありませんね。何しろ魔法戦力に関しては、かつての王国を上回っているのですから。それも2人のおかげですし、何よりあなたたちは誰よりも強力な戦力として、期待されています。今後もがんばってくださいね」

「は、はい、がんばります」

「ありがとうございます」


 すかさず師匠も俺の意図をくみ取り、2人を褒め上げる。

 さすが、できる男は違う。


 とりあえずアニーの機嫌も直ったようなので、話を進める。


「そういえば、ヴィッタイトと自由都市同盟の方はどうなっている?」


 するとエルフの男性が立ち上がった。


「その件については私から報告いたします。すでに両国に送った使者から、連絡が届いております。両国とも感触は悪くないようで、好意的中立を保つのは可能な見込みです。ただし……」


 彼が何か言いよどむ。


「何があった?」

「は、はあ……それが両国とも、陛下と直接話したいと言ってきているようなのです。このような時期に非常識だとは思うのですが、かなり強い要望らしく。ヴィッタイトなどは、クライブ王が直接出てきたとか……」


 訳が分からないといった表情で、彼が報告する。

 それを聞いて、俺はピンときた。


「どう思う? ガルドラ」

「フフフッ、クライブ王にしろ、アーシム議長にしろ、あの時の少年が陛下だと気づいているのでしょう。上手くすれば、好意的中立以上のものが引き出せるかもしれません」


 師匠が楽しそうに答える。

 現実主義の師匠にしては、楽観的な考えだ。

 しかし、どちらも直接、顔を合わせた仲ではある。


「ふむ、具体的にはどんなことを考えてる?」

「この際ですから、同盟には物資の援助をお願いしましょう。そうすれば街道の整備も、おおっぴらにできます」


 現状、森林地帯の中に、同盟向けの街道を整備しつつある。

 魔法で路面を硬くした街道は、従来の倍以上の速度で馬車を走らせられる。

 ただし、さすがに馬鹿正直に道を伸ばすわけにもいかないので、途中からは獣道みたいなものになっているが。


「そんなに上手いこと、いくかな?」

「それは交渉次第ですが、可能性は高いと思いますよ。利を示せば乗ってくるでしょう」

「ふむ、ヴィッタイトはどうする?」

「あそこには我々が立つことを、正式に伝えます。表立った援助は要求しませんが、戦後を見据えれば関係は作っておいた方がいいでしょう。逆にクライブ王には、ちゃんと話しておかないと、後ですねますよ」

「あ~、ありそうだな……」


 奴とは剣で立ち合った仲だ。

 あの暑苦しさからすると、話を通しておくに越したことはない。

 いずれにしろ、師匠は会ってもいいと思っているみたいなので、今後の情勢を有利にするためにも、骨を折る価値はあるだろう。


 またクライブと、ケンカにならなきゃいいんだけどな。

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