表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/105

67.共同作業

 意外にあっさりと王都を掌握した俺は、久しぶりに拠点へ戻った。

 すると留守を守るリムルと、その母ルーザが出迎えてくれる。


「お帰りなさい、ワルドさん!」


 開口一番、リムルが抱き着いてきた。

 その大胆な行動に面食らう俺を差し置いて、彼女が俺の胸に顔を押しつける。


「おいおい、どうしたんだよ? リムルちゃん」

「だってワルドさん、全然帰ってきてくれないし、とうとう王様になっちゃったって聞いたから、不安になって……」


 するとルーザが申し訳なさそうに、彼女をたしなめる。


「これ、リムル。ワルドさんはもう陛下と呼ばれる立場なのですよ。そのようにして困らせてはなりません。申し訳ありません、陛下」

「ああ、なるほど。俺が遠い存在になるのを恐れてるのか。まあ、身内だけなら、今までどおりでいいから、そんなに心配するなよ」


 ポンポンとリムルの頭を叩きながら言うと、彼女が唇をとがらせた。


「もう、子供扱いしないでください。私、もう遠慮するのはやめたんです。これからもっともっと、ワルドさんの役に立つよう、がんばりますから」

「……あ~、そうか。うん、まあ、がんばれ」


 どうも面倒なことになりそうだったので、その場はそれでごまかした。


 その後、汗を流してから、サイモンの自宅へ向かう。

 彼の家では、サイモンがはりきって歓迎してくれた。

 さっそくテーブルに着くと、次から次へと料理が運ばれてくる。


「さて、それでは陛下にひと言、お願いできますかな?」


 準備が整ったところで、サイモンから言葉をせがまれる。

 そこで俺はワイングラスを手に取り、言葉を紡いだ。


「今日は手厚い歓迎に感謝する。そして無事に王都を掌握してくれたこと、何よりも嬉しく思う。明日からは新たな戦いが始まるが、今日はゆっくり楽しもう。乾杯」

「「「乾杯」」」


 出席者がグラスを掲げ、乾杯する。

 その誰もが、顔を希望に輝かせていた。


 やがて食事を取りながら、情勢を確認する。


「帝国の動きはどんな感じ?」

「そうですな。まだ事が公になって数日です。ようやく国境線の砦に情報が伝わったかどうか、というところでしょう」


 サイモンの報告に、師匠が言葉を添える。


「砦に潜んでいる部下からも、同様の報告が来ています。何か動きがあれば伝書バトで知らせてくれるので、都度、ご報告いたします」

「おお、さすがはガルドラ様ですな。よろしく頼みますぞ」

「うん、頼むよ。それにしても、帝国は実際にどう動くかな?」


 そんな疑問を口にしたら、出席者の顔が曇った。

 皆、陽気に振る舞ってはいても、内心は不安なのだ。


「間違いなく全力で叩き潰しにくるでしょうが、どの程度の時間が掛かるか、それは分かりませんね……何、帝国も1枚岩ではないのです。七王の盾を取り戻した我々なら、十分に対抗できるはずです。しかしそんな話は、また明日以降にしましょう。今日はめでたい日です」

「ああ、そうだね。今日は気楽にやろう」


 師匠の提案に、即座に同意する。

 今ここで悩んでも、なんにもなりはしないのだ。

 しっかり情報を集めて、軍議の席で話し合えばいいことだ。


 その後はみんな、気楽な世間話に花を咲かせた。





 翌日は朝早くから、王城跡へ出掛けた。

 今は廃墟の王城跡へ、いろいろな施設を建設するためだ。


「さ~て、どこから始めようかね」

「まずは陛下の土魔法が、どの程度のものか拝見させてもらえますか? それによって、やり方は考えましょう」

「了解。それじゃあ、まずはここを更地さらちにしようか。出てこい、ソーマ」

「ギュ~」


 召喚に応じて巨大モグラの土王ソーマが現れた。

 彼は嬉しそうに俺にすり寄り、鼻先をこすり付けてくる。


「こら、くすぐったいぞ。それじゃあ、今からここを整地するから、手伝ってくれ、ソーマ」

(了解)


 俺はソーマの体に左手を当て、魔法行使後の整地イメージを伝える。

 別にこの距離ならば接触の必要もないのだが、やはりこっちの方がよいように思える。

 そして十分にイメージを共有した時点で、2人の魔力を解放した。


 俺たちの足元から、バキバキと音を立てて、地面がならされていく。

 それはまるで波のように広がり、壊れた石垣や草木を飲み込んでいった。

 やがて百歩四方ほどの土地がすっかり平坦になって、ようやく止まる。


「フウッ、初めてにしては、上手くできたかな」

「ギュ~」


 額に浮かんだ汗をぬぐいながら、周りを見ると、皆があっけに取られていた。

 やがて気を取り直した師匠が、感想を漏らす。


「コホン、これはまた、想像以上ですね。私が同じことをやろうとしても、2、3日は掛かる仕事です」

「えっ、そんなに掛かるの? 師匠ならこれぐらいやれると思ってた」

「ご冗談はおよしください。私が契約している精霊は、せいぜい中位の存在。精霊王に匹敵する七王とは、比べ物にならないのですから」

「ふ~ん、そんなものなんだ。逆に上位の精霊と契約すれば、もっと大きな魔法も使えるってこと?」

「まあ、理論的にはそうですね。しかし上位の精霊など、そう簡単に会えるものではありませんよ」


 はなから諦めてる師匠を見て、少し疑問が湧いた。

 俺は近くにいたアフィに顔を向け、聞いてみる。


「なあ、アフィになら、上位精霊も紹介できるんじゃないのか?」

「う~ん、そんな簡単じゃないわよ。上位精霊ってのは数が少ないから、そうホイホイ呼べるもんでもないの」


 何を馬鹿なことを、て感じで否定されてしまった。

 しかしその話だと、可能性がないこともないはずだ。


「でも可能性はあるんだろ? なら普段から探しておいて、紹介してくれてもいいじゃないか」

「う~ん、それはたしかにそうだけど、上位精霊ともなると、気難しくて面倒なのよね~。少なくとも、今の私じゃ無理ね」

「今のってことは、可能性はあるんだな? 俺がもっと多くの国民を集めて、盾の力を強化すればいいのか?」

「まあそんなとこね。でもそれには時間も掛かるし、いつできるかなんて分からないわ」

「そっか。でもいつかできそうだったら、教えてくれよ」

「ええ、その時はね」


 そんな俺たちのやり取りを見ていた師匠が、残念そうに言う。


「ひょっとして上位精霊との契約が可能かと期待したのですが、そう簡単ではないようですね。残念です」

「ほんとにね。もし契約できたら、もっとワルドを手伝おうと思ったのに」

「そうね、また誰かさんが死にそうになったら、助けてあげられるのに」


 アニーとレーネもそれに同意する。

 まあ、レーネの言い方は素直じゃないが。


 そんな彼らに、アフィが新たな提案をする。


「それだったら、ガルドラたちもワルドを手伝えばいいじゃない」

「そんなことが可能なのですか?」

「ええ、最初から私を視認できたあなたたちなら、ワルドと同調が可能だと思うの。盾を媒介にして同時に魔法を行使するのよ。試しにやってみたら?」

「ふむ、興味深いですね」

「ええ、やってみましょうよ」


 それからお互いのイメージをすり合わせ、実際にやってみた。

 俺は右手でソーマに触りつつ、左腕の盾を前に掲げる。

 そしてそこへ師匠、アニー、レーネが手を重ね、意志の疎通を試みた。


「あっ、本当だ。なんとなくみんなの考えが分かる」

「本当ですね。これなら成功しそうです」

「なんか気持ち悪~い」

「何が気持ち悪いんだよ? レーネ。ソーマもいいか?」

「ギュー」


 また別の場所を整地するイメージを共有しながら、魔力を解放した。

 するとさっきよりも簡単に、大地に魔法が作用する感覚を得る。

 実際に時間も短く、しかも魔力の消費が少ない状態で、さっきの倍以上の土地がならされる。


「うん、さっきよりずいぶんと楽になった」

「なるほど、これが七王の力ですか」

「うわ~、凄いわね~」

「フ、フン。私が手伝えば、こんなものよ」


 これなら思っていたよりも早く、土木作業は終わりそうだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもボチボチ投稿しています。

魔境探索は妖精と共に

魔大陸の英雄となった主人公が、新たな冒険で自身のルーツに迫ります。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ