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63.決起前夜

 クライブとのキチガイじみた立ち合いの後、中庭の東屋あずまやで茶をもらうことになった。

 しかしサツキはずっとクライブをにらんだままで、雰囲気が悪い。


「いやー、ワルド殿はまこと精強なる戦士よ。ついつい俺も本気になってしまったわ、ワハハハハ、ハ、ハ…………」


 クライブが俺を持ち上げてごまかそうとしたが、家臣からも非難の目を向けられて、押し黙った。

 師匠が止めてくれなければ、大ケガしてたかもしれないんだから、それも当然だ。

 1国の王が、外交使節に対してするようなことではないよな、絶対。


「お褒めにあずかり光栄です。ワルドも最近、腕を上げて増長気味だったので、良い薬になったでしょう」


 すると師匠がその軽口に応じやがった。

 あんたの指示で、俺は死にかけたんですがねえ。


「おお、そうであったか。たしかに、あれだけの体術に無詠唱の魔法を組み合わせられては、普通の者では敵わないであろう。剣術もなかなか堂に入ったものであったし、良い師匠に鍛えられたのであろうな」

「さすがは陛下。ご慧眼けいがん、恐れ入ります。彼は旧エウレンディアでも、有数の戦士に師事しておりました。それにしても、活気に満ちたこの王都を見ていると、陛下のご威光が行き届いている様が、よくうかがえますね」


 今度は師匠がクライブを持ち上げると、彼が身を乗り出してきた。


「ワハハハ、そうであろう、そうであろう。最近は帝国がおとなしいのでな、国内の治安改善に取り組んだのだ。そしたら流通は盛んになるわ、税収は増えるわで、ウハウハだ」

「まさに名君の行いかと。帝国との関係も良好なのでしょうねえ?」


 するとクライブは、ちょっと嫌そうな顔になった。


「いや、小競り合いはちょくちょくあるぞ。どうやら帝国は中央の統制が利いておらんようでな、地方領主がけっこう勝手をしておるのだ。まあ、大規模な戦闘にはならないから、あまり神経質にはなっておらんがな」

「なるほど、帝国は中央の統制が利いていないのですか……ところで、もし旧エウレンディア領で何か変事が起きた場合、貴国はどのように対応されますか?」


 師匠が話題を変えると、クライブも軽く応じる。


「何もするつもりはないぞ。旧エウレンディア領とは険しい森林地帯で隔てられてるから、何もできない、というのが正しいかな」

「例えば我々が帝国と争うことになっても、ですか?」

「だから、何もできねえって言ってんだろうが! それにワルド殿とは剣を交わした仲だ。少なくとも、敵対することだけはない」


 師匠の探るような言葉に、クライブが軽くキレる。

 しかし師匠はそれを平然と受け流した。


「陛下のお言葉、非常にありがたく存じます」

「うむ、ワルド殿は肉体で語り合った強敵ともだからな。ひょっとして、これを狙ってたのか? だとしたら見事に一本取られたわけだ、ワハハハハハッ」


 その後は軽い世間話だけをして、謁見はお開きとなった。




 宿へ戻ってきてすぐに、俺はアフィの治療を受けた。


「ハアーッ、やっと楽になった~。アフィ、ありがとな。それにしても師匠、今日の立ち合いは必要だったのかよ?」

「たぶん誰かが相手をしなければ、収まりませんでしたからね。それにワルドを認めてくれたようなので、良かったではありませんか」

「いやいや、それにしたってあれは無いわぁ。マジで死ぬかと思ったよ」

「まあ、想像以上に過熱したのは誤算でしたね。しかし世の中、上には上がいることを、肌身で知るのは良いことです。最近のワルドはちょっと増長してましたからね」

「いやいや、増長なんかしてないよ」


 するとアフィが、面白そうな顔で口を出す。


「たしかに最近負け知らずだったから、少し大胆になってたかもね」

「そうかぁ?」

「でも今日のワルド、凄かった。あんなにやられても諦めてなかったし」


 サツキだけが俺を褒めてくれる。

 俺は彼女の頭を撫でながら、礼を言う。


「ありがとうな。今日は俺の替わりに怒ってくれて」


 すると彼女がくすぐったそうに、微笑んだ。


 いずれにしろ、ヴィッタイト王国訪問の目的は十分果たされた。

 俺たちが戦争をしても、帝国側に付くことはないと、王自らが宣言したのだ。

 それは信頼に値する言葉だと、俺たちは考えている。





 こうして目的を達した俺たちは、ヴィッタイト王国を後にした。

 もちろん俺と師匠、サツキは空路で戻ったのだが、グラーフとアニキスを連れてはいけない。

 そこで冒険者のレングスとドルガに金を渡し、エウレンディアの旧王都まで連れてきてもらうよう頼んだ。

 ぶっちゃけ、グラーフの方が奴らより強いので、護衛というよりは世話係って感じだけどな。

 アニキスの体調がまだ不安定なので、ゆっくり来るように言ってある。





 その日のうちにバラスへ戻ると、翌日から改めて祖国奪還へ向けて動きはじめた。

 まずは同盟とヴィッタイトに落ち延びた旧国民に声を掛け、森林地帯へ迎え入れる。

 そのうえで各集落で募兵・訓練、魔法戦力の育成、物資の備蓄といった細々とした事柄を、精力的に進めた。


 もちろんそれをするために、魔物の討伐も積極的に行った。

 おかげで森林地帯がより安全になり、住民の生活に余裕ができて、軍備増強が可能となったのだ。

 さらに各集落や、農場をつなぐ街道の整備にも取り組んだ。

 主要な道を馬車も通れる街道に整備することで、物流量が飛躍的に上昇した。



 これら森林地帯の整備と並行して、ナリム村の増強も進んでいた。

 元々、3百人くらいだった集落が、今では千人規模の村に変わっている。

 これは旧王都のスラム街と、南森林からの移住者が増えた結果だ。


 南森林からの移住者には、エウレンディア領の情報収集と資金稼ぎを命じてある。

 魔物を倒すことで戦闘経験も積めるし、お金も稼げるのだからやらない手は無い。

 帝国側にばれないよう、やり過ぎには注意しているが、かつてない資金が動くほどには稼いでいる。


 それからハーフエルフもけっこう増えた。

 帝国領にも声を掛けたおかげで今では3百人ほどが集まっており、ヴィッタイトで拾ったアニキスもそこに加わっている。

 彼らにはレーネとアフィが精霊魔術を仕込み、ナリム村の魔法部隊もさらに増強された。





 こうしてアテナイで最初に首長会議を開いてから約1年後、再び首長が集まっていた。

 今回は北森林代表のスウェインも、俺がガルダで連れてきている。


「それでは出席者も揃ったので、会議を始めます。まずは殿下、ひと言お願いいたします」


 師匠に促されて、俺は立ち上がる。


「みんな、今日は集まってくれてありがとう。知ってのとおり、今日は俺たちが立ち上がる前の、最後の集まりだ。1年前に決起することを決めてから今まで、みんな懸命に取り組んでくれたことを、とても嬉しく思う。今日はその成果を確認したうえで、いよいよ俺たちは立ち上がる。悔いを残さないよう、存分に意見を交わしてくれ」


 出席者の拍手を受けて腰を下ろすと、師匠が準備状況を淡々と報告しはじめた。


 まず訓練の完了した戦闘部隊が南に1万5千人、北に1万人ほど揃った。

 さらに戦闘に使える魔法部隊が南に4千人、北に2千人だ。

 これとは別に未熟な魔法使いがその半分ほどおり、彼らは後方支援に回る。

 この魔法部隊の半分が精霊魔術師であり、精霊魔術の発明が大いに役立っていた。


「北と南の分担ですが、北軍はグラーフ将軍の指揮で、北側の諸都市を鎮圧してもらいます」


 ヴィッタイト王国で拾ったグラーフには、帰国早々に将軍職を与え、北森林で指揮を執らせている。

 彼には北側の都市を押さえてもらい、早急に領内を掌握する予定だ。


「そして殿下直卒の精鋭部隊が”竜の咢”を制圧後、領内の大型魔物を掃討します。それと並行して南軍主力は南側の都市を制圧し、その後は王都で合流。そしてエウレンディア王国の再建を宣言すると共に守りを固め、帝国軍を迎え撃ちます」


 最大の問題は帝国から派遣されるであろう鎮圧軍だが、これは最大で10万人の兵力が予想される。

 そうなると3倍以上の敵を迎えることになるが、その程度なら撃退できる策を準備してある。

 まあ、その策は師匠の頭の中にあるので、俺もよく知らないんだけどね。


 こうして全体の流れと準備状況が詳しく報告され、いくつか懸念点も指摘された。

 しかしそれは全て師匠の想定内であり、彼からの説明や修正がなされ、意見は出尽くした。


「それでは明日、このアテナイで殿下の戴冠式を行い、8日後に軍を動かします。よろしいですね、殿下?」

「ああ、承認する……それでは諸君、国を取り戻しに行こう」


 その言葉で、会場に歓喜の叫びが爆発した。

 いよいよ戦争の準備は整った。

 あとは祖国を取り戻し、同胞を救い出すのみだ。

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