表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/105

62.王との謁見

 アニキスとグラーフを保護してしばらくは、彼らのリハビリとギルドの依頼をこなして過ごしていた。


 ギルドの依頼にレングスたちも連れてってやったら、妙に懐かれた。

 明らかに俺より年上なのに、俺のことを兄貴と呼びやがる。

 どうやら奴らは、冒険者の基本を習ってなかったせいで、伸び悩んでいたらしい。

 いろいろアドバイスしたり、魔法でサポートしてやったら、なんか自信が付いたとかで、すっかり俺の舎弟気分だ。


 しかし、それ以上に驚かされたのはグラーフだった。

 手を治した翌日には、早くも剣を振っていた。

 そして次の日には俺たちについてきて、魔物と戦ってみせたのだ。

 ついこの間までケガ人だったとは、とても思えないような剣筋の鋭さに、元兵団長の実力の片鱗を見た。





 そして前回の書記官との面談から5日後、王政府から連絡が届いた。

 それで翌日には、指示に従って王城へ出頭する。

 竜人族ドラグナスのメダルを提示すると、すんなりと謁見えっけんの間に通された。


 大して待たないうちに、王の一行が現れる。

 先頭を切って歩いてきたのがこの国の王、クライブ・ジークムンド・ヴィッタイトだ。

 虎人族ティグラスとしても大柄なその体には、みっちりと筋肉が付いてる。

 黄色の髪に緑色の目を持つ顔は武骨だが、どこか憎めない雰囲気があった。


 そんな彼が、楽しそうに話しかけてきた。


「おう、おめーらか、ドラグナスとエルフの使者ってのは?」

「陛下、もう少していねいな言葉をお使いください」

「いいじゃねえか。相手も正式な使者じゃねえんだから。な、そうだよな?」


 ざっくばらんなその問いかけに、師匠がにこやかに応える。


「はい、非公式な使節なので、それほどお気になさらず。初めましてクライブ陛下。こちらがドラグナスの族長候補のご令嬢、サツキ様です。私の名はガルドラ、そして弟子のワルドになります」

「おう、わざわざ遠いところをご苦労さん。それで、今日は嬢ちゃんがあいさつしてくれるのかい?」


 そう言ってクライブはサツキの前でしゃがみ、彼女の顔をのぞき込んだ。

 その眼力に押されてサツキが泣きそうになるが、なんとかこらえた。


「は、初めまして、クライブ陛下。私は次期族長候補のイッシン・トウドウが娘、サツキと申します。父上からは貴国に対して敬愛の念を伝えると共に、陛下の為人ひととなりを感じてくるよう、申しつけられて参りました」

「おう、これはごていねいにどうも。イッシン殿には、俺がよろしく言っていたと伝えてくれ」

「はい、うけたまわりました」


 サツキの返事にニヤリと笑うと、クライブは立ち上がって師匠の前に立った。


「それで、あんたがガルドラ・エウレリアスか?」

「はい、陛下。よくご存じで」

「ドラグナスの令嬢を連れて、支援を要請にくるようなエルフが他にいるかよ? 昔は賢者とか、エウレンディア最強の宰相なんて、呼ばれてたらしいな」

「過分な評価、紅顔こうがんの至りです」

「フフン、ずいぶんと謙虚なこって。それでお前ら、何をやるつもりなんだ?」

「ですから、魔物の討伐でございます」


 するとクライブはくるりときびすを返して、玉座に腰を下ろした。

 そして師匠に厳しい目を向けながら、問いただす。


「なんで帝国が領有を宣言しているとこに、うちの支援を望むんだよ?」

「たしかに、本来は帝国に話を持っていくべきなのでしょう。しかし”竜のあぎと”を持て余した帝国軍は、自領に引きこもって出てまいりません」

「だからって他の国を頼るなよ!」

「しかし森林地帯は貴国とも境を接する場所です。なにとぞ、ご配慮を願えませんでしょうか?」


 師匠がへりくだった対応をしていると、クライブの顔が不機嫌になってきた。


「まったく、食えねえ野郎だな。いずれにしろ帝国と揉め事を起こすつもりはないから、支援はできねえ。まあ、冒険者ギルドへの依頼までは止めねえから、好きにしな」

「そうですか。残念ですが、その方向で検討させていただきます」

「おう。ところで、わざわざあんたが出てきたってのは、エウレンディアに何かあったのかい?」

「いいえ、すでに国を失って14年も過ぎております。多少、政治に関わったことのある私が、駆り出されただけのことでございます。できれば隠居したいのですが……」

「そんな年には見えねえがな」

「こう見えても120歳ですよ」


 そう言う師匠はたしかに若く見える。

 エルフは200年以上も生きる者が多く、特に魔力が強い者ほど長生きする。

 しかも外見は若いままで保たれやすいので、師匠の見た目は30歳ほどにしか見えない。


「全然、そうは見えねーな……おい、せっかくだから、俺と手合わせしようぜ」

「このような非力な老人が陛下と手合わせなど、とんでもない。平にご容赦を」

「そう言うなよ。ガルドラと言えば、精霊術師としても有名だ。ちょっとだけでいいからさ」


 強引なクライブの誘いに師匠がため息をついたと思ったら、とんでもないことを言いだした。


「それではここにいるワルドに、お相手をさせましょう」

「ちょっ、師匠、何言ってんの!」

「おおー、弟子が相手をしてくれんのか。よし、中庭へ行こう」


 俺の抗議もむなしく、クライブは嬉々として移動を始めた。

 その道すがら、俺は師匠を問いただす。


「師匠、何のつもりだよ?」

「まあまあ、ワルド。せっかくですから、陛下の胸を借りてきなさい。おそらく、なんらか相手をしないと、収まりがつきませんからね」

「だったら師匠がやればいいじゃん!」

「嫌ですよ、私は肉体労働には向かないんですから。それにあなたにとっても、いい経験になりますよ」


 そんな話をしているうちに中庭へ着き、木剣を選ばされる。

 俺は片手で扱えるくらいの木剣を選んだが、クライブは背丈ほどもあるでかいのを選んでいた。


「ちょっと手合わせするだけですからね! あまりハードなのも無しですよ!」

「分かってるよ、さっさと構えろよ、っと」


 そう言いざま、クライブが俺に打ちかかってきた。

 けっこう離れてたのに一瞬で距離を詰められ、木剣が俺に迫る。

 それを自分の剣で受け流しながら、俺はなんとか避けた。

 クライブの木剣が地面を叩いたところで、後ろに飛びのいて距離を取る。


「ほおー、思ったよりいい動きするじゃねえか。これは楽しめそうだな」

「ちょ、へーか、今の普通なら死んでますよ。家臣の人たちも、止めてくださいよ!」


 俺が必死に訴えても、家臣団は額を押さえたり、肩をすくめて首を振るだけで何もしない。

 おい~、仕事しろよ、お前ら!


 再びクライブが俺に迫り、木剣をガンガンと叩きつけてくる。

 さっきよりは軽い打ち込みなので、なんとか俺も受けているが、反撃の余地がない。

 そのとめどない攻撃を受けてはかわし、受けてはかわしを、しばらく繰り返した。


 激しい攻撃にもかかわらず、クライブは軽く汗をかいてるだけなのに対し、俺は汗まみれで激しく息を切らせていた。

 そろそろヤバい、そう覚悟したところで、ようやくクライブがひと息入れる。


「フーーーッ、俺の剣をこれだけ受け続けるとは、なかなかやるじゃねえか…………だけどお前、まだ何か隠してるな? 行動の端々はしばしに、何かやらかしそうな気配を感じるぜ」


 さすがは獣人王、鋭い勘だ。

 俺の本来の戦い方は、剣と魔法を組み合わせたスタイルだ。

 今回は魔法抜きでやってるから、そのぎこちなさを見抜かれたようだ。


 しかし無詠唱の魔法を披露するのはまずいと思っていたら、師匠から指示が飛んだ。


「ワルド、あなたの全力を見せて差し上げなさい」


 おいおい、正気か?

 しかしこうなったら、もう一段上を見せなければ、収まらないだろう。

 俺は魔法を使うことを決意して、改めてクライブに向き直った。


 それを見た奴が、面白そうな顔をして待ち受ける。

 少し息を整えてから、今度は俺から斬りかかった。

 しかしクライブはそれを軽くはねのけ、木剣を切り返して一撃当てようとする。


 そこで俺は左手を剣から離し、風弾エアーを放った。

 それはダメージを与えるほどではないが、予想外の攻撃にクライブの動きが止まる。

 ここですかさず剣を当てにいったのだが、軽く切り返されて距離を取られた。


「おいおい、今のは何だよ? やけに実戦的な魔法が使えんじゃねえか」


 多少は肝を冷やしておとなしくなるかと期待したが、それは間違いだった。

 奴がニヤリと笑って構えなおすと、その気配がガラリと変わったのだ。

 どうやら彼を、本気にさせてしまったらしい。


 その後は怒涛どとうの攻撃にさらされ、防戦一方になった。

 こちらは魔法も駆使して辛うじて致命傷を免れたものの、たちまち俺は打ち身だらけになる。


 ”殺される”、そう覚悟した瞬間、周囲に水が降り注いだ。


「ブハー、ペッペッ! 何しやがる、ガルドラ!」

「陛下、それ以上は外交問題になりますので、なにとぞご容赦を」


 俺たちに向けて水弾ウォーターを放った師匠が、クライブを制止する。


「……お、おう、そうだな。ちょっと熱くなり過ぎたみたいだ。よく止めてくれた」


 熱くなってた自覚があるのか、バツが悪そうに奴が答えた。

 その言葉に安心してへたり込んだ俺に、サツキが駆け寄ってくる。


「ワルド、大丈夫か? ケガ、無いか?」

「あ、ああ、なんとかな」


 ボロボロになった俺を見て、サツキがクライブをキッとにらんだ。


「非公式とはいえ、他国の使者に対するこの仕打ち、ひど過ぎるっ! これが貴国の礼儀かっ?」

「い、いや、違うんだ。これはワルド殿を一人前の戦士と認めた結果であってな…………その、すまん」

「よせ、サツキ。俺も覚悟の上だ……陛下、良い経験をさせてもらいました」


 俺はなんとか立ち上がって、2人の間をとりなした。

 そして何事もなかったように歩いてみせ、サツキを安心させる。


 体中メチャクチャ痛いんだけどね。

 あのクソ陛下、いつか仕返ししてやろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもボチボチ投稿しています。

魔境探索は妖精と共に

魔大陸の英雄となった主人公が、新たな冒険で自身のルーツに迫ります。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ