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6.初めての魔法

 森で会った妖精に、アプサラスと名づけてやったら、俺の魔力を吸って成長しやがった。

 本人は大喜びで、俺の周りを飛び回っている。


「さすがはエウレンディアの末裔ね~、こんなことができるなんて。今の私、絶好調よ」

「そいつは良かった。その力で、何か俺にしてくれたりしないのか?」

「うーん、そうね……とりあえず光の魔法は使えるんじゃないかしら」

「へー、試しに見せてくれよ」


 それを聞いたアフィが、呆れたように言う。


「違うわよ。私が使えるのはもちろんだけど、あなたが使えるようになるの」

「へーー…………マジかっ?」

「ちょ、痛い、痛いわよ」


 思わぬ発言に、アフィを手で掴んでしまった。


「あ、ごめん。だけど、本当に俺が魔法を使えんの?」

「嘘だと思うなら、やってみればいいじゃない。とりあえず指を掲げて、”灯火ライト”と唱えてみなさい」

「こ、こうか? ゴクリ…………”灯火ライト”……ほ、本当だ。今まで何回やってもできなかったのに……」


 右手の人差指を目の前に掲げて呪文を唱えると、本当に指先が光りはじめた。

 光属性の生活魔法 ”灯火ライト”だ。

 それは最も基本的な魔法で、エルフなら5歳児でもできるにもかかわらず、今までの俺にはできなかった。


 しかしそれだけにこの成功は、俺を心底感動させた。

 今までは、どんなに願っても実現できなかったのに。

 涙を流して光に見入る俺を見て、アフィが呆れる。


「たかが”灯火ライト”でこんなに感動する人、初めて見たわ。まあでも、今までできなかったんだから、仕方ないか。初魔法の成功、おめでとう、ワルド」


 輝くような笑顔とともに送られた祝福に、俺は再び涙した。


「グスッ……ありがとう。俺、本当に嬉しいよ」

「もう泣くのはやめなさいよ。あんたはこれから、もっと凄い魔法使いになるんだから」

「凄いって、どれぐらい?」

「七王が全部揃えば、複数の第4階梯魔法も夢じゃないわね」

「複数の第4階梯って、伝説の世界だぞ!」


 地形変化すら起こす第4階梯魔法を複数種類って、それはもう人間じゃない。


「そう。まさに伝説級の存在よ。ただしそれには、私以外の七王を解放しなきゃいけないの」

「マジかよ……それなら俺、やるよ。それで、他の王はどこにいるの?」

「王都の地下迷宮よ。今はどうなってるか知らないけど」

「王都って、旧エウレンディアの王都のことか? 今はずいぶんと寂れて、人も少ないって聞くけど」


 14年前にアルデリア帝国に滅ぼされたエウレンディアの王都は、いまだに廃墟同然の状態と聞く。

 普通なら帝国の連中が支配してるはずだが、奴らはそれができていない。

 なぜなら”竜の咢”を守っていた王国守備隊の消滅により、魔物を封じ込められなくなったからだ。

 おかげで旧エウレンディア領には強力な魔物が跋扈ばっこし、まともな生産活動ができない。

 今ではごく一部の城塞に守られた都市以外、平野部に人は住んでいない。


 城塞都市に住んでるのも、冒険者が中心らしい。

 冒険者ってのは、魔物を倒してその魔石や素材をはぎ取ることを、主な生業なりわいにする者たちだ。

 その冒険者とそれを支える関係者、さらには行くあてのない貧民が、都市に住み着いてるらしい。


 俺はそんな話をしながら、里へ向かっていた。


「そうなの? 帝国の連中は一体、何がしたかったのかしらね? せっかく攻め取った領地を放棄するなんて」

「分かんないよ。一説には魔物をどうにかする目算があったのに、それに失敗したって話だけど…………さて、里に着いたぞ」

「ようやくね。ふーん、里に結界を張ってあるのね」

「さすが七王っていうだけあって、そういうの分かるんだな? とにかく、我が里へようこそ」


 俺はいつもどおり、呪文を唱えて里へ入った。

 幸い今日は、ジョスたちにも遭遇しない。


 また配給所へ向かう途中で、あることに気がついた。


「アフィの姿って、他の人には見えてないのか?」

「ええ、そうよ。姿を現すこともできるけど、普段はワルドぐらいにしか見えないわ」

「へー、そうなんだ。便利なもんだな」


 しかしアニーの登場により、その前提は崩れ去る。

 彼女が俺に近づきながら、こう言ったのだ。


「ワルド。その妖精みたいなのは何?」

「ええっ、アニーには見えるのか?」

「そんなの当然……でもないのかしら? 周りの人は気にしてないわね」


 アニーが戸惑った様子で周囲を見回している。

 俺は説明を求めて、アフィに目をやった。

 すると感心したような様子で、とんでもないことを言いやがった。


「この状態で私を認識できるなんて、凄いわね。ワルドの恋人?」

「ブッフウゥゥーー! ばばば、馬鹿なこと言ってんじゃねーよ。アニーは……とと、友達だ」


 思わぬ恋人発言に、盛大に吹き出した。

 その後のフォローも、動揺してどもってしまう。


「キャハハハハッ、そんなに動揺しなくてもいいじゃない。ねえ、アニー?」

「え、そ、そうね。ところで、あなたはだ~れ?」


 なぜかアニーも動揺しつつ、アフィに問いかける。


「私? 私はねえ、アプサラスっていうの。ワルドが付けてくれたのよ。フフ~ン」


 アフィが空中で恰好をつけながら、胸を張って名を名乗る。


「へ~、そうなんだ…………ちょっと、ワルド。一体何があったのよ?」


 そんなアフィに驚きつつ、アニーが俺に小声で話しかけてきた。

 俺はどう言っていいものか悩み、とりあえずごまかした。


「……ちょっとややこしくてさ。あとで説明するよ。ところで、じっちゃんを見なかった?」

「ちゃんと説明してよね。アハルドさんなら、配給所の近くにいたわよ」

「それは好都合だ。とりあえず行こうか」


 俺はそのままアニーを伴い、配給所へ向かった。

 しばらく歩くと配給所が見えてきて、見慣れた人影も目に入る。

 昨日と同じように、じっちゃんと師匠が話していたのだ。


 俺たちが近づくと、まずじっちゃんが俺に気づいた。

 そしてじっちゃんに続いて振り返った師匠の顔が、驚愕にこわばる。

 しかも師匠の視線は、空中に向けられているのだ。


 そんな師匠に、アフィが声を掛ける。


「やっぱり、あなただったのね? ガルドラ・エウレリアス」

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