53.自由都市同盟へ
すみません、投稿忘れてました。
面目ありません。
次回は明日投稿します。
ちなみにブクマが100を超えました。
評価、ブクマありがとうございます。
新たに多くの仲間を手に入れた俺は、嘘をついた猫人族の男を尋問してみた。
幸いにもこちらには、アフィという嘘発見器がある。
さして手間も掛からずに、男の素性が割れた。
「帝国の間諜だったか」
「いや、スパイっていうほど、しっかりしたもんじゃないと思うぞ。本当のスパイは別にいるんだよ。こいつはただの情報源だ」
「しかし、そんなスパイがいるってことは、帝国がそれだけ警戒してるってことなのか? こんな、何もない所を?」
背景を推測する支部長のバシルに、獅子人族の男が問う。
ちなみに彼はグリッツという名で、冒険者のリーダー的存在だ。
「当たり前だろうが。ほとんど管理できてない土地に、どこの誰かも分からない人間が集まってるんだぞ。帝国が警戒してないはずがない。今のところ、魔物の脅威が強くて帝国の支援なしではやっていけないから、それほど心配されてないだけだ」
推測に沿ってリンクスの男を問い詰めると、ほぼそのとおりだった。
どやら旧エウレンディア領の町を回って、情報収集をしている男がいるらしい。
たまに酒場でそいつに会うと、噂話と引き換えに酒をおごってもらうそうだ。
今回のようなネタを持ち込めば、確実に金貨が手に入るとか。
「なるほど。やっぱそういうの、いるんだな……よし、こいつを使っておびきよせて、始末しようぜ」
「馬鹿を言うな。急にスパイが消えたら、それこそ怪しまれるだろうが。しばらくは泳がせておくんだよ」
安直にスパイを排除しようとするグリッツを、バシルがたしなめる。
たしかにここでスパイを排除すれば、旧エウレンディア領で変化が起こっていると、帝国に知らせるようなものだ。
それぐらいなら泳がせておいて、いざという時に利用した方がいい。
「俺も支部長の案に賛成ですね。逆にそんなスパイがいるんなら、オーク素材の売却も、小出しにした方がいいかな?」
「それもそうだな。リーダーに率いられたオークの群れを撃退したなんて言えば、大きく目立ってしまう。まずは数匹ずつ討伐したことにして、リーダーはいずれ、か」
「ちょっともったいないが、そうするか」
それから素材売却の手順を相談して、会議はお開きになった。
オークの素材については、まず5匹分を旧王都で売り、村の再建資金に充てる。
その後も定期的に売り続け、2、3ヶ月あとでオークリーダーも売ることで話がまとまった。
そして各都市で地下組織作りを進めることと、信用できる冒険者を村へ呼び寄せ、徐々に同志を増やすことも決まった。
秘密を打ち明ける場合は、アフィの確認を必ず通すことも周知される。
ちなみに情報を売ろうとしてたリンクスの男は、しばらくこの村に置いて様子を見ることになった。
いずれまたアフィに確かめさせて、ダメならチョン、かな?
そんなスパイ騒動の後、俺は師匠に呼び出されてバラスへ戻った。
「今戻ったよ、師匠」
「お帰りなさい、ワルド。元気そうで何よりです。しかし今回は、ムチャをしたようですね」
「……ま、まあ、ちょっとね」
到着するやいなや、いきなり説教だ。
俺が対オーク戦で突出して大ケガをしたことは、すでに通信用魔道具で知らされている。
師匠のアイスブルーの瞳に射すくめられながら、淡々とお叱りを受けた。
今回は俺の失態なので、おとなしく叱られておいた。
その後、ようやく本題に入る。
「それでワルド、今度は国外へ行って欲しいのです。ただし外交が絡むので、今回は私が同行します」
「ああ、前から言ってたやつね。それなら、ダリウスの息子さんにも会いにいこうか」
「ダリウスから支店を任されている息子がいる、という話でしたね。もちろん、私もそのつもりです」
商人のダリウスには2人の息子がおり、ヴィッタイト王国と自由都市同盟で、それぞれ支店を任されてるそうだ。
一度、話を聞きにいこうと思っていたので、ダリウスには紹介状を頼んである。
今回はそれに合わせて、旧国民の動向を探るのと、あわよくば両国と外交的なつなぎを取ることを目的とする。
「了解。それじゃあ、明日にでも出かけられる?」
「ええ、構いませんよ。ガルダに乗れるのが、楽しみですね」
翌日はナリム村へ寄り道して、ダリウスの紹介状をもらってから、同盟へ向かった。
もちろん旅の足はガルダであり、後ろに師匠を乗せての空の旅だ。
さすがに師匠も空を飛ぶのは初めてだったらしく、ちょっと興奮していた。
いつもは冷静な師匠が子供みたいにはしゃぐのは、俺としても新鮮な感覚である。
そんな空の旅を経て、夕刻前には同盟の大都市マルケに到着した。
さすがにそのままでは入れないので、一旦降りてから徒歩で入場する。
すると、そこは噂にたがわぬ大都市で、とても賑わっていた。
町といえば旧王都か、森林都市ぐらいしか見たことのない俺にとって、その賑わいは驚愕のひと言だ。
とにかく人が多いし、人種も多彩で、商業も盛んなようだ。
そんな中を感心しながら歩いていた俺に、ぶつかってきた奴がいた。
俺の胸くらいまでの背丈で、小汚いフードを被った奴で、ぶつかっても何も言わずに去ろうとした。
しかも俺の財布をすってだ。
「ちょっと待て。それは置いてけ!」
すばやく財布を持った手をつかんで、引き留める。
すると、手を振りほどこうとして暴れたスリのフードがめくれて、顔が露わになった。
そいつは緑髪のショートカットに、青い目を持った子供だった。
ヒュマナスのようにも見えるが、髪の色が特殊だから、違うかもしれない。
「なんだよ、離せよ!」
歯をむいてにらむその顔立ちは、それなりにかわいいと思う。
男か女か分からないが、もっときれいにして笑えば、さぞ見映えすることだろう。
しかしだからといって、財布は渡せない。
「あいにくと、スリにやるような金はないんだよ」
「ちっ、見かけによらず鋭いな。分かったよ、ケチ」
さすがに敵わないと思ったのか、あっさり財布を諦めて立ち去ろうとするが、その後が良くなかった。
思いっきり走り出したところで、柄の悪い男にぶつかってすっころんだのだ。
「いてえじゃねえかっ! どこ見て歩いてんだこのガキっ!」
おまけにぶつかられた男がひどい奴で、転んだガキをいきなり蹴りはじめた。
その容赦のない蹴りに、ガキの顔が苦痛にゆがむ。
「おいおい、ちょっと待て。そいつは俺の財布をすろうとしたんだ。始末はこっちに任せてくれ」
「んだと、こら。てめえもいてえめに――」
逆上する男に銀貨を1枚握らせると、すぐにおとなしくなった。
「頼むよ。これで酒でも飲んでくれ」
「へっ、分かった、譲ってやらあ」
男はニヤニヤ笑いながら去っていった。
倒れたままのガキを抱き起こすと、そいつは気を失っていた。
「ワルド、そんな子供を拾ってどうするのですか?」
「えーと、とりあえず宿に連れてっちゃダメ?」
「ハア……好きにしなさい」
師匠はため息をつきながらも、許してくれた。
さすがにこんな小さな子供を、放り出してくわけにもいかない。
とはいえこのガキ、どうしようね?