表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/105

52.新たな仲間たち

「ワルドさん、あなたは一体、何者ですか?」


 オーク撃退後の報告会で、ハーフエルフのカイルが問いを放った。

 ただし彼は問い詰めているのではなく、純粋に知りたいという雰囲気だ。


「何者って、駆けだしの冒険者ですけど」

「オークリーダーに率いられた群れを撃退し、瀕死ひんしの重傷が3日で治るような人が、ただの冒険者のはず、ないですよね?」

「えーっと、それはですね……」


 回答に困ってじっちゃんにすがろうとしたら、横に首を振られた。

 えっ、助けてくれないの?


「ワルドさん、私は別に責めるつもりはないんです。ただ純粋に、我々を救ってくれたのは誰なのか、それを知りたいんです」


 真摯しんしに問いかけてくる彼をごまかすのは、少し難しそうだ。

 しかし他の耳目もある中で、どこまで言ってよいものか。

 少し悩んでいたら、獅子人族ライアスの男が口を挟む。


「冒険者が手の内を明かしたくないってのは、よく分かる。しかし俺らはすでに、見ちまったんだ」

「見たって、何をですか?」

「オークと戦っていた使役獣さ。あれは七王ななおうだろ?」


 その言葉にギクリとしたが、なんとか平静を装ってその場を取りつくろおうとする。


「七王って、なんのことですか?」


 するとライアスがため息をついて、さらに続ける。


「俺とここにいる2人は、旧エウレンディア王国の兵士だったんだ。閲兵えっぺいの際に、七王の姿を拝見したことがある。エウレンディア王の左腕に光っていた盾もな」

「いや、これはただの籠手こてですよ。ちょっと変わった形のね」


 苦しい言い訳でごまかそうとしたら、彼は笑って話を合わせてくれた。


「そうか。それならそういうことにしとこう。しかしいずれにしろ、あんたは俺たちの命を救ってくれた。その恩義に報いる覚悟があることは、知っておいて欲しい」

「それは……ありがとうございます」


 その申し出をどう受け取っていいか迷っていると、ダリウスとバシルがニヤニヤしているのが見えた。

 目線で説明を求めると、ダリウスが楽しそうに教えてくれた。


「元々、この国に来ている冒険者やギルド関係者には、エウレンディアに関わりのある者が多いのです。その中から特に信用できそうな連中が、この村に集まっております。当然、このバシルもですな」

「そうです。私だって、旧エウレンディア国民だったのですよ。だから七王の盾が再び現れたらいいな、とか普通に思ってます」

「は、はあ……」


 たしかにこの国に冒険者ギルドを招致した際、ダリウスが関わっていたと聞く。

 その過程で親エウレンディアの人間が集まったとしても、不思議はないだろう。

 それらの話を聞いて、”そろそろぶっちゃけるか”と覚悟したところで、アフィから念話が入った。


(待って、ワルド。まだ誰もが信用できると決まったわけじゃないわ。私に確かめさせて)

(確かめるって、何をだよ?)

(今から話すことを他には漏らさないと約束できるかって、聞いてくれればいいわ。その時に盾の上面を出席者に向けて)

(まあ、それくらいなら……)


 俺は咳払いをするように左腕を上げ、盾を前に向けながら質問を放った。


「コホン、実は重要なことをお話したいんですが、皆さんは秘密を守れますか?」

「さっき言ったとおり、あんたには命を預けるつもりだ」

「当然じゃな」

「当然です」


 皆が口々に秘密厳守を誓うのを見て、俺は信用できるんじゃないかと思った。

 するとアフィがふいに盾から飛び出してきて、1人の猫人族リンクスの前まで飛んだ。


「ウワッ、なんだこいつ?」

「ワルドさんの妖精じゃねえか。一体、どうしたんだ?」


 リンクスの男が大げさに驚くのとは対照的に、周りの人間は平然としていた。

 すでに俺の妖精として認識されているのもあるが、彼らにはやましいところもないのだろう。

 慌てるリンクスの男に、アフィが話しかける。


「ねえ、あなた。秘密を守るつもりがないのに、なぜ嘘をつくの?」

「なっ、なに言ってんだよ。俺は嘘なんてついてねえ」

「へえ~、妖精の前でそんな話、通じると思う?」


 間近でアフィの金色の瞳に見つめられ、リンクスの男の顔が青くなった。

 妖精は人の嘘を見抜くってのは俗説だが、広く信じられている。

 そして実際に彼だけが、アフィの嘘センサーに引っかかったようだ。


 するとライアスの男が、リンクスの男を取り成そうとする。


「おいおい、それはどういうことなんだよ? ネリーだって、エウレンディアの出身だぜ」

「エウレンディアの出身だからって、必ずしも信用できるわけじゃないってことですよ。すみませんが、彼は別室で拘束しておいてもらえませんか」

「ふむ、妖精は人の嘘を見抜くというからな。バシル、彼を拘束してくれ」

「あ、ああ、分かった」


 俺の要望に、ダリウスとバシルが動いてくれた。

 バシルが呼んだ配下が、ネリーと呼ばれる男を連れて下がる。


 再び部屋の中に落ち着きが戻ると、ダリウスが切りだした。


「さて、皆の者。だいたい察しているとは思うが、真実を話そう。ここにおられるお方こそ、前王ヴィレルハイト様の嫡子、ワルデバルド殿下だ」

「ワルデバルド、殿下?」

「……やっぱりか」

「まさか本当に王族が生き残っていたとはな……」


 ダリウスの言葉に、皆がそれぞれの反応を示す。

 しかしこれまでの流れで七王の存在はほぼ明らかだったので、大きな驚きもなかった。


 するとギルド支部長のバシルが、ワクワクした顔で騒ぎだす。


「凄い凄い! 今まではダリウスと一緒に、少しでもエウレンディアの民を救う相談をしていたのに、本当の王族が出てくるなんて! 殿下がいれば、王国の再興も夢ではないですよね?」

「これこれ、落ち着かんか、バシル」

「これが落ち着いていられるかい。しかし殿下は、なぜ今まで隠れておられたのですか?」

「隠れてたっていうより、俺もつい最近まで、自分が王族だなんて知らなかったんだ」


 それについては正直にこれまでの経緯を話した。

 ガルドラに保護された俺は、何も知らずに隠れ里で成長し、最近七王の盾を手に入れたことまでを語る。


「なるほど。七王の盾が殿下の成人を待っていたのですか。さらに殿下は王都で、盾の力を解放した、と」

「それだけではないぞ。森林地帯の中では、すでに王国再興に向けて準備が進んでおる。あのガルドラ様が指揮を執ってな」

「それは実に心強い。そうなるとこの村の再建も、偶然ではありませんね?」

「当然じゃ。殿下が領土を奪還するための拠点とするのよ」


 ダリウスが得意そうに事情を説明すると、ライアスの冒険者も話に乗ってきた。


「そいつはまた、楽しそうな話じゃねえか。ぜひ俺たちにも噛ませてもらいたいもんだ。これからどう動きゃいい?」


 子供のように目を輝かせる彼に、とりあえずできることを伝えた。


「とりあえずはこの村の防御を固めるのと、同志集めかな。信頼できる冒険者たちに声を掛けて、この村に呼んでくれないかな?」

「うーん、ある程度は集まるだろうが、他の町も人手不足だ。この村にだけ集めるってのは難しいな。それぐらいなら他の町でも親エウレンディアの地下組織を作って、蜂起に備えた方がいいだろう」

「う~ん、そっちの方がいいかな。その辺はダリウスさんと相談してもらえる? それとカイルさん、ハーフエルフの人たちって、もっと集まらないかな?」


 ふいに話を振ると、カイルが怪訝けげんな顔で返す。


「さらにハーフエルフを集めたいとおっしゃるのですか? 我々は無力で、どこでもつまはじきにされているのに……」

「なに言ってんだい。カイルさんたちはもう、無力じゃないだろ? 精霊魔術があれば、ハーフエルフにだって魔法が使えるんだよ。片親がエルフなら、基本的にエウレンディアの縁者なんだ。一緒に王国を再興しようよ」


 それを聞いた彼が、ハラハラと涙を流しはじめた。


「わ、私たちも、仲間として扱ってもらえるんですか? 常にけ者にされてきた、私たちに……」

「もちろんさ。その代わり、バッチリ働いてもらうけどね」


 冗談めかして言うと、彼は涙をぬぐいながら答えた。


「は、はいっ、精一杯やります」


 今日ここに、王国再興へ向けて新たな仲間たちが加わった。

 これでまた夢に1歩、近づいただろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもボチボチ投稿しています。

魔境探索は妖精と共に

魔大陸の英雄となった主人公が、新たな冒険で自身のルーツに迫ります。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ