50.オーク来襲3
オークリーダーに率いられた50匹のオークが、ナリム村へ向かっている。
その事実を知った俺たちは住人を守るため、オークと対決する決心を固める。
そして突貫工事で防備を整えた俺たちの前に、本当にオークの群れが現れたのだ。
「ゴクッ……本当に現れやがった。生き残れるのか? 俺たち」
冒険者の1人がつぶやいた言葉が、皆の心境を代弁していた。
しかしここで諦めていては、勝てる戦も勝てなくなる。
「みんな、落ち着いて。今まで精一杯、準備を整えたんじゃないか。ここは自分たちの力を信じて、力の限り戦うんだ!」
「そ、そうだ。臆するんじゃない。みんなで力を合わせれば勝てるさっ!」
幸いにも別の冒険者が俺の話に乗ってくれた。
それで元気を取り戻した人々が声を掛け合うことで、士気が回復する。
しかし、それを聞きつけたオークたちが、進軍を開始した。
いよいよ奴らとの決戦だ。
やがて矢の届く位置に、オークがたどり着いた。
「弓隊、放て!」
じっちゃんの号令で、門の左右に設けてある櫓から矢が放たれる。
彼自身も弓を手に取って、攻撃に参加していた。
そして俺、アニー、レーネがそれぞれ魔法部隊に指示を出す。
「風魔法隊、放てっ!」
「水魔法隊、放て!」
「火魔法隊、放て!」
俺が風魔法、アニーが水魔法、レーネが火魔法を、それぞれ指揮していた。
土魔法使いは土木工事に忙しかったので、今は後方支援のみだ。
その他に弓を持たない人も、近くに来た敵に石をぶつける準備をしている。
迫りくるオークに矢と魔法が降り注ぐと、奴らから苦鳴が上がる。
しかしオークの硬い皮膚に矢はなかなか刺さらないし、魔法も遠くからでは効果が弱い。
それでも多少は危機感を抱いたのか、敵の動きが一旦止まった。
「グオ~~ッ!」
しかしそんなオークどもの背後から、怒号を上げながら大豚鬼長が現れたのだ。
重々しい足音を立てて現れたそいつは、並みのオークとは何もかもが違う。
普通のオークが灰色の皮膚を持つのに対し、リーダーの肌は赤銅色だ。
体格も他の2割増しほどもあって、ハンパじゃない威圧感を放っていた。
そんな化け物が、後方からオークどもを叱咤したのだ。
オークどもはすぐにヤケクソになって、進軍を再開する。
奴らは大人の足ほどもあるこん棒を振り回し、防壁に迫った。
さすがに距離が近づくと、矢や石も少し効くようになる。
さらにハーフエルフたちの魔法攻撃が降り注ぐと、脱落するオークが出はじめた。
しかし50匹ものオークが、簡単に殲滅できるはずもない。
たちまちのうちにオークは防壁に取りつき、ガンガンと防壁を殴る。
防壁は太ももほどの太さの丸太を地面にぶっさして、内側から横木で補強したものだ。
しかも土魔法で根元を固めてあるので、そう簡単に壊れるものでもない。
しかしオークの剛力の前に、いつまでも持つものではない。
防衛側の者は、みんな必死になって弓を射たり、上から石を落としたりしている。
魔法隊もよく戦っていた。
それを見てとった俺は、覚悟を決めた。
「じっちゃん、俺がオークリーダーを討ち取ってくるから、後を頼むよ」
「むう……やはり行くのか。あまり無理をするのではないぞ」
俺は魔法隊の指揮をカイルに任せると、地面へ下りてガルダを召喚した。
巨大なグリフォンの出現に小さな混乱が起こったが、そんなことはお構いなしに俺はその背に飛び乗る。
「ガルダ、頼む」
「クエ~」
軽やかに離陸したガルダが高く高く舞い上がってから、ふいにオークリーダーの後方へ舞い降りた。
そして俺が盾を展開して残りの王を召喚すると、その場に七王が勢ぞろいする。
いきなり現れた妖精、骸骨戦士、白虎、鷲頭獅子、大蛇、土竜、火竜の威容に、さすがのオークリーダーも警戒を強める。
俺は魔剣フェアリークローを掲げて、攻撃を命じた。
「オークリーダーを倒せ、七王っ!」
アフィ:「みんな、がんばって」
シヴァ:(了解で~す)
インドラ:(了解だニャ)
ガルダ:(やってやるぜ)
ナーガ:(了解ですわ)
ソーマ:(了解)
アグニ:(承知した)
シヴァたちが動きだすと、リーダーも咆哮しながら向かってきた。
「ヴォウウウウーーーーッ!」
真っ先に会敵したインドラが、敵とすれ違いざまに皮膚を引き裂いた。
続いてガルダが上空から舞い降りて、リーダーの頭部に爪を突き立てんとする。
さらにナーガが遠距離から水刃を浴びせれば、シヴァが剣で斬りかかる。
少し遅れて追いついたアグニは火炎を浴びせ、地に潜ったソーマは地下から敵の足を取ろうとしていた。
それぞれに強力な攻撃であり、並みのオークなら一撃で沈んでいただろう。
しかしオークリーダーの強靭な皮膚は、そのダメージを表面だけにとどめていた。
さらにリーダーがこん棒を振り回すと、さすがの七王も迂闊に近寄れない。
そのため七王は一旦距離を取り、今度は連携しながら交互に攻撃を仕掛けていった。
その入れ替わり立ち替わりの攻撃に、オークリーダーは苦戦していたものの、それでも敵はなかなか倒れなかった。
しかし奴が倒れるのも目前、そう思っていた矢先に異変が起こった。
「グガアアアアーーーーッ!」
リーダーが新たな咆哮を放った途端、村に取りついていたオークの動きが止まった。
そしてオークどもはおもむろに後ろを振り返ると、一斉に退却しはじめたのだ。
しかしそれはただの退却ではなく、リーダーへの加勢を意味していた。
いくらか欠けているが、それでも30匹を超えるオークが七王に迫る。
さすがに危機感を覚えたシヴァたちが、リーダーへの攻撃をやめて陣形を整える。
やがて勢揃いしたオーク軍団と七王が、少しの距離を置いて向かい合った。
そしてリーダーが手を振ると、オークどもが一斉に七王に襲いかかる。
対するシヴァは剣を振るい、インドラ、ガルダ、ソーマ、アグニはその手足と牙で敵を屠らんとする。
ナーガだけは少し後ろから、水刃を放っていた。
幸いにも七王はよく戦っている、そう思って油断した瞬間、新たな動きがあった。
オークリーダーがもの凄い勢いで、こん棒を俺に投げつけたのだ。
とんでもないスピードで飛来するそれを、俺は盾で受けるのが精一杯だった。
しかし盾で受けたからといって、その勢いを全て殺せるものでもない。
気がついたら俺は、地面に倒れていた。
しかも体が動かない。
「カヒュッ」
息をしようとしたら、喉から血が出る。
どうやら肋骨が折れて、肺に刺さってるらしい。
体の感覚もなくなって、どんどん冷えていくようだ。
こいつはひどくまずい状況だと、他人事のように思った。
ひょっとして俺は、このまま死んでしまうのだろうか。
まだ何もできてないってのに、こんなとこで?
イヤだ。
死にたく、ない……
各王のキャラクターというか話し方は、以下のように考えてます。
文中で表現できなくてすみません。
闇王 シヴァ:一応、敬語を使うが、軽い感じ
雷王 インドラ:語尾にニャが付く
風王 ガルダ:荒っぽい口調
水王 ナーガ:女性言葉
土王 ソーマ:片言で話す
火王 アグニ:堅苦しい武人風