48.オーク来襲1
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励みになります。
ナリム村のハーフエルフの中から、魔法適正のある者を選出してみた。
12歳以上の男女を少しずつ集めて、アフィに適性を見てもらったのだ。
すると150人ほどの中から、3割近い者が精霊との契約に成功した。
予想を超える成果だ。
契約できた者には順次、レーネが精霊魔術を手解きしていく。
教師が1人だけなのが辛いところだったが、後進が育ってそれも解消しつつある。
なんと言っても、みんなやる気があるから、成長が著しい。
おかげで2週間ほどで、ほとんどの者が第2階梯魔法を使えるようになった。
これが村中に知れ渡ると、ハーフエルフを見る目が変わった。
元々この村にいる獣人たちはスラム街の隣人だったから、理解はある方だった。
しかし肉体的に貧弱なハーフエルフは、どうしても下に見られる。
それが魔法を使えるとなれば対等、それどころか頼もしい存在となるのだ。
今までのハーフエルフには考えられなかったことだ。
これを機会に、この村にいる冒険者や獣人種に、魔法との連携を提案してみた。
それは魔法の支援を前提にした戦術をみんなで考えよう、ということだ。
最初は懐疑的だった戦士たちも、実際にハーフエルフの魔法を見せられると、まじめに考えるようになる。
魔法は弓矢よりも強力だから、戦術に幅ができるのだ。
その一方で、精霊と契約できなかったハーフエルフたちも、弓や剣の訓練に打ち込んでいる。
ハーフエルフだってやれるんだということが、彼らの発奮材料になったらしい。
その陰には、リーダー役のカイルの奮闘があったとも聞く。
いずれにしろ、来たばかりの時よりも村全体に活気があって、いい雰囲気になったと思う。
しかし世の中、いいことばかりではない。
「西へ3日ほど行った所で、大豚鬼が目撃された」
冒険者たちがギルドに呼び出されたので、何事かと行ってみれば、その場でオークの目撃情報が報告されたのだ。
オークってのは豚みたいな顔をした2足歩行の魔物だ。
人間よりも背が高くて、横幅も倍以上ある。
オーク1匹なら、鋼鉄級の冒険者4、5人で倒せるといったところか。
ちなみにじっちゃんなら、単独で倒せるらしいぞ。
人間じゃねえな。
それはさておき、オークは群れを作りやすく、数十匹で行動することもある。
そうなるともう、討伐には大規模な軍隊が必要だ。
そんな危険な存在が、村から3日ほどの場所で目撃されたというのだ。
すかさず他の冒険者から質問が飛ぶ。
「何匹だ?」
「2匹いたそうだ。さすがに手に余るので、そのまま帰ってきたらしい」
「2匹か。微妙なとこだな……」
多くの者が、悩ましそうな顔をしている。
1匹ならはぐれだろうが、2匹以上だと斥候役の可能性がある。
やがてギルドの支部長が、用件を切りだした。
「皆も知ってのとおり、オークが群れを作っていると厄介だ。最悪、村を放棄せねばならない。そこで群れなのかどうかを、早急に探ってもらいたい」
「まあ、当然だな」
「ああ、それじゃあ、調査区域を割り振るか」
歴戦の冒険者たちの話し合いで、テキパキと担当区域が割り振られていく。
その中でもじっちゃんはトップクラスの戦力と認められているので、俺と一緒に危険な所を任された。
もちろん否はない。
他の5人のパーティに同行して、担当区域へ向かう。
その合間に俺は、こっそりとアアフィとインドラ、ガルダを呼び出した。
「西の方でオークが目撃されたらしいんだ。悪いけど、お前たちは先行して偵察してくれないか? 群れがいるのかどうかを知りたい」
「分かったわ」
(了解だニャ)
(いいよ~、ご主人)
こうしてアフィとガルダが空から、インドラが地上から偵察に出かけた。
その後、俺たちもオークの痕跡を探しながら進んでいると、ガルダから念話が入った。
(ご主人、オークの群れを見つけたよ~)
(やっぱりか。村からの距離はどれくらいだ? 数は何匹いる?)
(ん~……人が歩けば1日くらいかな。数は50匹ぐらい?)
最悪だ。
オークが50匹なんて、災厄以外の何ものでもない。
そしてそんな奴らが群れをなすということは……
(ガルダ、群れを率いるリーダーがいるかもしれない。見えるか?)
(あっ、よく分かったね~。群れの後方に、一際でっかいのがいるよ~)
(分かった。ガルダはそのまま監視だ。アフィとインドラは戻ってくれ)
(りょうか~い)
(分かったわ)
(分かったニャ~)
俺は暗澹たる思いで念話を打ち切ると、同行する冒険者に話しかけた。
「今、先行させてた妖精から、連絡が入りました。この先に1日ほど進んだ所に、50匹近いオークの群れがいるそうです」
「50匹だって! それは本当か?」
「間違いありません。しかも巨大な個体、つまり大豚鬼長もいるようです」
その言葉に誰もが凍りついた。
オークリーダーに率いられた50匹の群れ。
人はそれを災厄と呼ぶ。
出会った魔物や動物の全てを喰らい尽くしながら進む、破壊の権化だ。
やがてある男が、沈黙を破った。
「こうしちゃあいられないっ! 大至急、村へ戻って、住民を避難させよう」
「いや、奴らはここから1日ぐらいの所まで来ているんだ。今から帰って避難させても、餌食になるだけだと思う。それぐらいなら、防壁に籠って、迎撃した方がよくないかな?」
この調子なら明日にもオークの群れは村を襲うかもしれない。
女子供を連れた住人がそれから逃げおおせるとは、とても思えない。
そこで迎撃案を提案したのだが、猛反対された。
「馬鹿なっ! 冒険者の数は20人もいないんだぞ。どうしたって対抗できるはずがない」
「そのとおりだ。あんな防壁なんて、オークに掛かればイチコロだ。全滅するぞ」
じっちゃん以外は全て、強硬に反対した。
しかし、なまじオークの怖さを知っているだけに、冷静な判断ができていないようにも見える。
そんな空気を、じっちゃんが一喝する。
「落ち着けっ! 今ここで議論しても始まらない。まずは村へ情報を持ち帰るのだ。結論はそれからだ」
「そ、そうだな。おい、今から戻るぞ。他の方面の調査隊に、伝令を出せ」
「わ、分かった。北は俺が行く」
「なら俺は南だ」
こうして俺たちは、村へ引き返しはじめた。
せっかく村の再建が順調に進んでいるのに、とんでもない不運だ。
はたして俺たちは、生き残れるのだろうか?
いいや、なんとしても生き残るのだ。