47.ナリム村再建3
ナリム村でひと晩過ごした俺たちは、翌日から村の再建に取りかかった。
まずは傷んだ防壁と門を修理し、魔物の襲撃を防がねばならない。
そのために再建団は総出で木を切り出し、それを村まで運んだ。
「フウッ、とりあえずこれぐらいあれば、防壁の修理はできるかな」
「ああ、これぐらいあれば、防壁は足りるだろう。その後の家の建設には、また魔法を使うのか?」
「いや、もうひとつかふたつ、大きいのを造るけど、個別の家は徐々に建ててもらうよ。まずは生活基盤を築くのが先だからね」
ここにはすでに百人ほどの移住者が来ているが、その家族を含んだ第2陣が、旧王都で準備を進めている。
第2陣のためにも仮の宿舎を魔法で造ったら、あとは自前でやってもらう。
家は個人の財産になるからな。
5日ほどで防壁と門の修復が終わると、俺は護衛の一部を率いて王都へ舞い戻った。
「こんにちは、ダリウスさん。ナリム村の準備が整ったので、第2陣を出してもらえますか」
「おお、ワルドさん。思ったより早かったですな。もっと長く掛かると思っていましたが」
「実は住む所を魔法で造ったので、早くなったんですよ。すでに防壁と門は修理してあるので、魔物対策もバッチリです」
「ほほう、そうなのですか。なんとも便利な魔法があるものですなあ」
第2陣の状況を確認すると、すでに準備は整っていた。
周知の時間を考慮して、翌々日に出発することが決まる。
そして翌々日の朝、予定どおりに第2陣は出発した。
第1陣の家族や護衛を合わせると、総勢で2百人を超える。
その中には出資者であるダリウスの他に、冒険者ギルドの職員やアニーとレーネも混じっていた。
彼女たちの到着によって、いよいよハーフエルフ術師の養成が始まるのだ。
第2陣は前回以上の物資を積み込んだ荷車と共に、女子供を連れていたので足は遅かった。
それでも無事に4日でナリム村へたどり着くことができ、俺たちもホッと胸をなで下ろす。
「お帰りなさい、ワルドさん」
「今戻りました、カイルさん」
ハーフエルフのカイルが、俺たちを出迎える。
彼はまだ若いが調整能力に長けており、早くも住民のまとめ役になりつつあるようだ。
留守中は特に問題もなく、村の再建が進んでいるとのことだ。
さっそく俺が新しい建物を魔法で造ると、住民たちが驚きながらも入居を始める。
しばらくは不便もあるだろうが、きちんと雨風がしのげ、食料にも困らない村の生活を、移住者は喜んでいるようだ。
そして夜になると、歓迎の宴が始まった。
まずは出資者のダリウスが、乾杯の音頭を取る。
「それでは儂からひと言。今日ここにナリム村の再建を祝えることを、嬉しく思う。儂はただ金を出しただけだが、皆の協力で予想外に早く再建が進んでいる。今後も力を合わせて、村を盛り上げていこうではないか。それでは乾杯!」
「「「かんぱ~い!」」」
冒険者と移住者たちが、嬉しそうに酒を飲んでいる。
さらに冒険者たちが仕留めてきた狂暴野牛の肉が振る舞われると、みんな嬉しそうに食べていた。
魔物に囲まれた生活は過酷だろうが、皆それぞれに希望を感じているようだ。
そんな彼らの生活を守り、やがて王国の再興にもつなげたいと思う。
その晩は俺も、楽しく酒を飲むことができた。
翌日からまた、村の再建作業に取り組んだ。
最優先だったのは、冒険者ギルドの支部を作ることだった。
支部ができれば冒険者が立ち寄りやすくなり、村としても栄える。
そういうことで、俺はまたもや土魔法で建物を造ることになった。
事前に相談しておいた構造を思い浮かべながら、俺は土魔法を行使する。
あれよあれよという間にでき上がった支部を見て、ギルド職員や冒険者から驚きの声が上がった。
それは2階建ての石造りの建物で、人力で建てれば何ヵ月も掛かるようなものだ。
ギルド職員から専属にならないかと誘われたが、ダリウスに雇われていると言って断った。
よけいなことをやってる暇なんて、ないからな。
しかしギルド支部ができたことで、ナリム村はその後、急速に発展することとなる。
そしてこれにより少し余裕ができたので、ハーフエルフ術師の養成を開始した。
まずはリーダー役のカイルに声を掛け、数人の候補者を呼んでもらう。
「それでは皆さん。今からこの妖精が、魔法の適性を調べます。もし適正があれば、精霊と契約してもらってから、術師として訓練を積んでもらうことになります」
しかし事前に説明してあるにもかかわらず、カイルたちはなおも疑わし気だった。
「し、しかしワルドさん。俺たちはハンパ者として知られるハーフエルフだ。とても魔法の才能があるとは思えないんだが……」
「そ、そうだよ。聞けば最近は、エルフだって精霊と契約できないらしいじゃないか。最初から可能性がないようなことなら、やらない方がマシなんじゃ……」
駄目だこいつら。
すっかり負け犬根性が染みついてやがる。
それ以上聞くのは耐えられなかったので、証拠を見せることにした。
「レーネ、彼らにお前の力を見せてやってくれ」
「ええ、分かったわ」
レーネが魔法を披露できるよう、場所を空けさせる。
そしてレーネが精神を集中してから、精霊魔術を行使した。
「『開扉』……我が意志に従いて、かの敵を打て。炎弾!」
レーネの手から火の玉が飛びだし、的にした岩を炎に包み込むと、驚きの声が上がる。
そしてそれまで負け犬のような目をしていた男たちが、瞳に期待の光を宿したのだ。
「皆さん、見てのとおり、ハーフエルフのレーネは魔法を使えます。もちろん誰にでもできることじゃないけど、皆さんにも可能性はあるんです。ちょっと特殊な魔法だけど、この妖精とレーネがいれば実現するかもしれない。思いきって試してみないか?」
すると俺と同じくらいの少年が、進み出た。
「俺たちにも魔法が使えるかもしれないなんて、夢みたいだ。今までずっと馬鹿にされ続けてきたのに……頼む、俺に試させてくれ!」
「君の名前は?」
「アベルだ」
「分かった、アベル。こっちへ来てくれ」
彼を進み出ると、アフィが彼の額に触れる。
しばらく調べていた彼女が、やがてニッコリ笑った。
「この子、才能あるわよ。土属性が合ってるみたいだから、土精霊と契約させるわね」
「ほ、本当か?」
飛び上がらんばかりに喜ぶアベルをなだめ、無事に契約を成立させる。
もちろんまだ術を使うには程遠いが、画期的な出来事だ。
その事実を知った候補者が、我も我もとアフィの前に並ぶ。
10人ほどの候補をひととおり調べると、アベルを含めて4人の契約が成立した。
まとめ役のカイルも成功している。
その分、失敗したハーフエルフたちの落胆はひどかったが、俺はそんな彼らを励ました。
「今回は失敗したけど、諦めちゃいけない。剣とか弓とか、他にも役立てることがあるじゃないか。ハーフエルフだって、やれるんだってことを見せてやるんだ」
その言葉で元気を取り戻す者もいれば、腐ったままの者もいた。
自分が無能だと思い知らされるのは、本当につらい。
だけど諦めなければ開ける道もあるのだと、彼らにも知って欲しいと思う。