表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/105

5.汝の名はアプサラス

「それはあなたが、エウレンディア王家の生き残りだからよ」


 自分を七王だという妖精が、さらにとんでもないことを言った。

 俺が14年前に滅びた国、エウレンディア王国の王族だと言うのだ。


「そんな馬鹿な。俺は14年前の敗戦で親を亡くした、ただの孤児だぜ。しかもエルフのくせに、生活魔法すら使えない無能なんだ!」

「あ~、今まで魔法が使えなかったのは、まさに王族だからよ。七王の盾を使うことに特化してるから、盾がないと魔法も使えないの」

「マジかあぁぁぁぁ~っ! 俺の人生、返せぇぇぇ~っ!」


 今まで魔法が使えなかったことで、俺がどれだけ苦労してきたことか。

 ジョスたちだけじゃなく、ほとんど全てのエルフに馬鹿にされ続けてきたんだ。

 あの、ゴミでも見るような目つき、思いだすだけでも腹が立つ。

 さらに石を投げられたり、無能のお兄ちゃんとか呼ばれたりして、何度死にたいと思ったことか。


 そんな中でも俺がグレずにいられたのは、師匠とアニーのおかげだ。

 彼らだけは、俺を馬鹿にしなかったから。

 特にアニーは、俺の天使だ。


「キュン」


 するとカルが俺の顔を舐める。

 ああ、カルも俺の心を癒やしてくれたな。

 かわいいは正義だ。


 それにしても、俺が辛い思いをしたのが王族の血統のせいだったとは、なんて皮肉だろうか。

 だって王族ってのは本来、民に敬われるものじゃないか。

 それが自らの血統のせいで、無能と蔑まれていたなんて。


 あれ、なんで王族がただの孤児として育てられてたんだ?

 いかに敗戦で混乱してたからって、分からなくなるようなことか?


 そんなことを考えてたら、妖精が声を掛けてきた。


「ねえ、あんた、大丈夫? ひとりでブツブツ呟いちゃって、なんかヤバい奴みたいよ」

「ハッ……俺、なんか言ってたか?」

「うん、俺をゴミみたいに見やがってとか、何度も死にたくなったとか……」

「ウウッ……仕方ないだろ。それだけ俺は苦労したんだよ」


 恥ずかしい思考を聞かれたことに、思わず顔が赤くなる。

 そんな俺に、妖精が不思議そうな視線を向ける。


「ふーん……なんで王族のあんたが、そんなに苦労してるのよ?」

「俺にも分からないよ。周りには14年前に拾われた孤児、としか思われてない。誰も俺のこと、王族とは思ってないぜ」

「そうかしら?……そのじっちゃんて人、名前はなんていうの?」

「え? アハルドだけど」

「アハルド? ひょっとして狼人族ウルバスの偉丈夫?」

「そうだけど、知ってるのか? じっちゃんのこと」

「たぶんね……とりあえずその人に会って、事情を聴いてみましょ」

「あ、ああ、そうだな」


 俺は妖精に促されるまま、木から下りて歩きだした。

 妖精もふよふよと飛びながら、俺の後をついてくる。


「そういえば、名前はないのか? お前」

「私? 私は光王こうおうよ。昔からそう呼ばれてるわ」

「いや、でもそれってたぶん、称号だよな。光の王っていう」

「うーん、まあ、それはそうね…………それならさ、私に名前を付けてくれない?」

「俺なんかでいいのか?」

「何言ってんのよ。あんたはエウレンディア王家の生き残りなのよ。他の誰が私に、名前を付けられるっていうのよ」

「うーん、それもそうか? しかし名前っていってもなぁ……」


 歩きながら、名前を考えてみる。

 小さいからチビとか付けたら、怒るよな、絶対。

 他に何か……。


”アプサラス”


 ふいに誰かの声を聞いた気がして、思わず辺りを見回した。

 しかし、妖精以外には誰もいない。


「今、何か言った?」

「え? 何も言ってないわよ。それよりも私の名前は?」

「そうか。お前の名前だったよな……それじゃあ、”アプサラス”ってのはどうだ? 普段は縮めてアプ、アプィ……なんかかわいくないな。愛称はアフィでどうだ」


 すると妖精が、口の中で名前を繰り返す。


「アプサラス、アプサラス……アフィ、アフィ…………うん、いいわねその名前。もらったわ、ワルド」


 そう言って彼女が嬉しそうに笑った瞬間、光に包まれた。

 同時に俺は急激な眩暈めまいを覚え、膝を着いてしまう。


「ウウッ……な、なんだ? 何が起こった?」


 すぐに眩暈は治まったので、頭を振りながら立ち上がる。

 すると俺の周りを、何かが飛び回っていた。


「うっわ、凄いわ、凄いわ。体中に力がみなぎってる感じ。これってひょっとして、ワルドの魔力?」


 そう言いながら、アフィが空中をビュンビュンと飛び回る。

 しかしそれは、さっきまでの彼女ではなかった。

 12歳くらいの少女の見掛けだったのが、少し大人っぽくなった。

 だいたい15歳ぐらいだろうか。


「アフィ? アフィだよな? 何が起きた?」


 俺の問いかけに、アフィが立ち止まって考え込む。


「う~ん……どうやら名づけと同時に、魔力をもらって成長したみたいね。こんな効果があるなんて、私も知らなかったわ~」

「なるほど。ごっそりと何かが抜けたような感覚は、そのせいか……」


 やはり俺とアフィには、何か関係があるようだ。

今日はここまでです。

感想など聞かせてもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもボチボチ投稿しています。

魔境探索は妖精と共に

魔大陸の英雄となった主人公が、新たな冒険で自身のルーツに迫ります。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ