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46.ナリム村再建2

 ひょんなことから村をひとつ再建することになり、スラム街で移住者を募った。

 仕事にあぶれてる住民はけっこういるもので、俺たちは百人ほどの希望者を連れて、ナリム村跡へ向けて出発した。

 目的地までは歩いて3日ほどの距離だが、幸いにも冒険者を護衛として20人ほど雇えたので、なんとか犠牲を出さずにたどり着くことができた。


 たどり着いた場所は、川沿いに位置していて、近くに森もある便利そうな所だった。

 しかし当然ながら、村自体はかなり荒れ果てている。


「うわ~、予想以上にひどいな」

「そうか? 14年も放置されていたなら、こんなものだろう」


 門は完全にぶっ壊れてるし、防壁も所々破損している。

 防壁内の家も全く使い物にならず、こんなんでどうすんだって感じだ。

 しかしじっちゃんの感覚からすると、これでもおんの字らしい。


「まあ、防壁は少し手を入れれば使えるかな。だけど建物の方は全滅だね」

「ああ、しばらくは野宿せざるをえんか」


 するとアフィが盾の中から飛び出してきて、とんでもないことを言いだした。


「それだったらワルド、あなたが建てればいいのよ」

「はあ? そんなの俺、やったことないぞ」


 そんなやりとりをする横で、”妖精持ち? 精霊術師か?”なんて声が聞こえてくる。

 普段、一般人には見えないはずのアフィが、今日はわざと姿を現しているらしい。

 一般に妖精を従える者は精霊術師としての適性が高く、強力な術師になり得ると認識されている。

 もちろんアフィは普通の妖精などではないが、彼女のせいで俺への注目度が一気に高まったことになる。


「おい、アフィ。何、姿を現してんだよ。目立つだろ?」

「まあまあ。ここは旧王都から離れてるんだし、雇った人たちも信用できるんでしょ?」

「それはそうだと思うけど……」

「だったらワルドの力を見せつけて、仲間に引き入れましょうよ。いずれにしろ、建物は必要なんだし」

「う~ん……そんなの、どうやってやるんだよ?」


 渋々俺が同意すると、アフィは土魔法の使い方を教えてくれた。

 土王ソーマと意識を同調させながら、頭の中に描いた家を土魔法で建設するんだそうだ。

 建てたい家の絵を地面に描き、アフィやじっちゃんと議論していたら、イメージが湧いてきた。


 そこで俺は適当な場所を選び、周りに声を掛けた。


「それじゃあ、今からここに家を建てるので、少し離れてください」

「はあ? 家って、あんた……」


 戸惑う人々をよそに腰を下ろし、地面に手のひらを当てると、盾の中のソーマに念話で話しかける。


(やれるか? ソーマ)

(やれる)


 最低限の言葉しか使わないソーマと精神を同調させると、家の姿を思い浮かべながら魔力を流す。

 すると目の前の地面から、石の壁がせり上がってきた。


 それはみるみるうちに形を取り、俺の倍ぐらいの高さで、四方がそれぞれ60歩ほどの家ができあがった。

 その一角には人がすれ違える程度の入り口がひとつあり、内部は土間と座敷を分けてある。

 土間は全体の1割くらいの広さで、座敷は膝ほどの高さにある。

 さらに俺は中に入って何ヶ所か窓の穴を開けて、そこに水晶をはめ込んだ。

 ついでに換気用の空気穴もいくつか開けると、とりあえずの完成だ。


「うん、こんなもんだろう。みんな、今日はここに泊まってくださ~い」


 自分の仕事に満足して周りを見渡すと、誰もが凍りついていた。

 彼らを代表して、じっちゃんが呆れたように言う。


「ワルド、これはやり過ぎだろう」

「いやいや、これぐらいじゃないと、みんな一緒に休めないでしょ。いずれは村の集会所とかにしちゃえばいいんだしさ」

「そういう問題ではない。並みの精霊術師なら、10人がかりでやるようなものだぞ。目立ちすぎだ」


 するとアフィが、じっちゃんをなだめてくれた。


「まあまあ、アハルド。これぐらい、いいじゃないの。どうせワルドの力を見せないと、村の再建も進まないんだから」

「しかしなあ……」


 そんなやり取りを見ていたハーフエルフのカイルが、恐る恐る質問する。


「わ、ワルドさん、あなた一体、何者なんですか?」

「何者って、ただの冒険者さ。だけどこの妖精も含めて、ちょっとした加護を受けてるけどね」


 アフィのことも含め、即興で作り話をでっちあげた。

 それを聞いた周囲の冒険者たちが、ざわざわと口を開く。


「妖精の加護を持つ精霊術師だと? 一体どれほどの力を……」

「さっきの土魔法は第3階梯に相当するんじゃないのか?」

「そんな馬鹿な……」

「いや、しかし……」


 そんな騒ぎを尻目に、俺は移住者の入居を始めた。

 カイルを始めとするリーダーに指揮を執らせ、各人が寝る場所を決めていく。

 そしてまた土魔法で外に釜を作り、料理の準備も始める。


 料理をしてもらっている間、俺は魔物が入ってこれないよう、壊れた門を土壁で塞ぎ、防壁に開いている穴も埋めて歩いた。

 それが終わった頃には日も暮れ、料理もできてきたので、みんなで火を囲む。

 もちろん見張りは立ててあるし、交代で警戒をするようにもしてある。


 そしたら飯を食う前に、俺の言葉を求められた。

 凄い魔法を見せつけたので、リーダー認定されたってとこか。


「えーと、それではダリウスさんの代理としてひと言。みんな、ここまでご苦労様でした。しかし実際にはたどり着いただけで、村の再建作業は明日からです。今日はしっかり体を休め、また明日からがんばってください。それじゃあ、乾杯!」

「「「かんぱ~い!」」」


 少ないが酒も振る舞われ、みんなが杯を交わす。

 そのままにぎやかな食事が始まると、何人かが俺の周りに集まってきた。


「なあ、あんた、一体どこから来たんだ? あんな魔法を使う冒険者なんて、聞いたことがないぞ」


 虎人族ティグラスの冒険者が、興味津々で話しかける。

 周りの人間も同じような顔をしていた。


「最近、成人して、森の方から出てきたんだ」

「森の方ってことは、旧エウレンディアの人間か。やっぱりエルフには、凄い術師が多いんだな」

「いや、必ずしもそうじゃないよ。なにしろ精霊が少ないおかげで、術師自体が生まれにくいんだ」

「ああ、それは噂で聞いたことがある。だけど、あんたみたいな人だっているんだろ?」


 今度は狐人族フォクサスの若者に話しかけられた。


「俺はたまたま、森の中で妖精を拾っただけさ。運が良かったんだよ」

「いや、妖精に好かれるってのは、元々才能があったんだろう。とにかくあんな魔法は初めて見た。あれなら村の再建作業もはかどるだろうから、この仕事も早く終わりそうだな」

「おお、期待してるぜ」

「そうだそうだ」

「ワルドさんに乾杯だ!」


 ほとんど知らない人々から持ち上げられるのは、ひどくこそばゆかった。

 つい最近まで、無能とさげすまれていたってのにな。

 しかし素直に力を認められるってのは、悪くない気分だ。

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