43.魔法戦力の拡充
無事に北森林の住民の支持を取りつけた俺は、今後の準備について話し合った。
すでに南で進行していることを、北の事情に合わせて修正しながら指示を出すのだ。
ちなみに今回、遠話の魔道具を持ってきたので、これをマラカンに設置した。
この魔道具は一抱えもある木箱の中に収まっていて、蓋を開けると遠隔地の端末と通信できるというものだ。
かなり貴重な魔道具で、今まではバラスで埃をかぶっていたのだが、今後の連絡用に持ってきた。
これがあれば、北と南の連携も取りやすくなる。
こうしてある程度準備が整うと、再び南森林へ戻った。
バラスまでガルダでひとっ飛びすると、まず師匠の所へ報告に寄る。
「今戻ったよ、師匠」
「早かったですね、ワルド。さすが、空が飛べるというのは強い」
「まあね。指示されたとおり、マラカンで首長会議を開いたよ」
「それはご苦労様です。結果はどうでしたか?」
「北も全力で支援してくれるってさ。師匠が広めた例の文句を斉唱されて、逃げだしたくなったけど」
「フフフ、それぐらいで逃げたくなるようでは、いけませんねえ」
涼しい顔で書類仕事する師匠に、さらりと受け流されてしまった。
どうやら今後も恥ずかしい思いをするのは、止められないらしい。
その後もいくつか細かい話をしてから、今度はアニーたちに会いにいった。
「よっ、みんな。しっかりやってるか?」
術師の養成に駆り出されているアニー、レーネ、アフィが顔を揃えていた。
ちょうど休憩中だったらしい彼女たちが、俺を見て喜色をにじませる。
しかし最初に返ってきたのは、アフィの不満の声だった。
「何がしっかりやってるかよ~。毎日、大変なんだからぁ。久しぶりに盾の中で休んでこよっと」
「アハハ、お疲れさん」
ずいぶんとお疲れの様子のアフィが、フワリと飛んで盾の中へ消えていった。
やはり盾の中が一番落ち着くらしい。
「ワルド、お帰り。北の方はどうだった?」
「ああ、無事に住民の支持を取りつけたよ。今頃はあっちも準備に大忙しだ。こっちの進捗はどう?」
「まあまあ順調よ。術師の候補者に精霊と契約してもらって、精霊術の訓練を始めてるとこ。精霊魔術の方は、その後ね」
「そうか。術師の人数はどれくらいになってる?」
するとレーネが手元の書類を見ながら教えてくれた。
「えーっと、だいたい2千人てとこね。2万人の候補者からの選抜だから、ちょうど1割ぐらい」
「へー、凄いじゃないか……あれ、でも隠れ里では2百人ぐらいいたよな。比率的には半分か……」
「隠れ里は才能のある者を集めてたって話だから、その差じゃない? 精霊魔術も含めて、今後どこまで伸ばせるかが課題ね」
「そうだな。同じくらいの術師が出れば4千くらいは集まるか」
「それこそやってみないと分からないわ。だけどお師様も、それぐらいを期待してるみたいよ」
これは凄い話になってきた。
4千人も魔法使いが誕生すれば、エウレンディア王国の最盛期に匹敵する魔法戦力になる。
いや、待てよ。
北森林のダークエルフも入れたら、もっと多くなるんじゃないか?
ということで、その後は俺も一緒になって術師の選抜や、訓練に取り組んだ。
俺がいるとアフィも疲れにくいらしく、選抜は順調だった。
結果的に、4千人に少し足りないぐらいの術師が確保できた。
彼らの育成も順調だ。
先に選抜した隠れ里の術師の練度が高まってきたので、教育は彼らに任せてある。
そこで次は、北森林で魔法師を養成することになった。
俺はガルダにアニーとレーネを乗せ、北森林へ出向いた。
スウェインにはすでに、魔法師の候補者集めを頼んであるので、準備は整っているはずだ。
はたしてどれくらい集まっているか。
「これは殿下、はるばるご苦労様です」
「やあ、スウェイン。術師の候補者は集まってる?」
「はい、精霊との契約を望む者が、続々と集まっております。その数は1万を超えるかと」
「それは凄いね。それなら2千人ぐらいはいけるかな? 南ではすでに、4千人近い魔法師が誕生してるんだぜ」
「すばらしい。こちらでもがんばれば、敗戦前の王国に匹敵する魔法戦力になりますね」
14年前のエウレンディア王国は、七王の盾の恩恵で豊富な魔法戦力を有していた。
通常、戦闘に役立つほどの魔法使いなど、人口に対して千分の1も生まれないものだ。
帝国だと人口が1千万人だから、1万人程度だ。
しかし王国の精霊術師はその20倍の比率を誇り、30万人の人口で6千人はいた。
だいたいその半分が軍務に就いていたから、常時3千人の魔法戦力を有していたことになる。
この豊富な魔法戦力によって、王国は”竜の咢”を封鎖できていたのだ。
それが14年前の戦争で10分の1以下に激減し、新たな術師はほとんど生まれていない。
しかし七王の盾が戻った途端に戦前に戻るってんだから、どれだけ盾の恩恵が大きいか、分かろうというものだ。
「まだまだこんなものじゃないさ。じっくり術師を養成すれば、その倍も夢じゃない」
「おお、もしそれが叶えば、帝国に勝てるかもしれませんね」
「勝てるかもしれない、じゃなくて、勝つんだよ。紹介が遅れたけど、こちらが精霊との契約をサポートする光王のアフィ、そして魔法を指導するアニーとレーネだ」
「お久しぶりです、光王様。そちらのお嬢さん方は初めまして」
スウェインの挨拶に、アニーとレーネが会釈で応える。
そしてアフィは旧知のスウェインに、気安く話しかけた。
「久しぶりね、スウェイン。あんたも精霊術師なんだから、忙しくなるわよ」
「はい、精一杯やらせていただきます」
その後、マラカンに1週間とどまって術師を育成したところ、新たに2千人余りの精霊術師と精霊魔術師が誕生した。
北ではこれ以上の人材確保はすぐには難しかったので、ここで一旦、バラスへ戻った。
「ただいま、師匠」
「お帰りなさい、ワルド。成果はどうですか?」
「ヘヘヘ~ッ。北では新たに、2千人の術師が生まれたよ」
俺が自慢げに語ると、師匠も顔をほころばせた。
「それはすばらしい。これで魔法戦力には、目処がつきましたね」
「あとは白兵戦力だね。人員の受け入れ準備は、どんな感じ?」
「とりあえず現地を調査して、計画を立てたばかりです。今後、魔物の討伐と並行して進めていきます」
この計画とは、アフィが提案した食料増産計画のことだ。
まずはソライモを始めとする可食性の樹木の群生地に、樹妖精を呼び、成長を速めてもらう。
それをやるだけだと、地力が急速に衰えるので、肥料をやったり、間伐をしたりして環境も整える。
そのためには荷車が通れるような道も必要になるので、土魔法でそれを支援するのだ。
それと並行して国外に移住した旧国民を呼び寄せ、戦力の強化に努める。
もちろん人口は激増するから、そのための住居も必要になってくる。
そのための調査と計画が、ようやく終わったらしい。
「今のところは順調だね。それなら俺は旧王都へ戻って、また仲間を集めるよ」
「そうですね。今度は連絡用の魔道具を持っていってください」
「了解」
さて、次は平野部でも準備を整えないとな。