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38.鉱山都市オリンポス

 行方不明になっていたアーネストの弟を捜索していたら、殺戮小竜キラーラプトルとの戦闘になった。

 最後には巨大なボスラプトルまで現れ、戦いは熾烈しれつを極めたが、俺たちは七王の力をもって勝利する。

 しかし、前例のない凶悪な魔物の出現に、なんらか対策の必要性を感じる戦いだった。


 そこで無事にアテナイへ戻ってから、皆で対策を話し合うことにした。


「今回のラプトル討伐へのご助力、本当にありがとうございました、殿下。おそらく我々だけでは、生きて帰れなかったでしょう」

「お礼の言葉はもういいよ。でもあんな魔物の出現が続くようなら、今後は困ったことになりそうだよね」

「はい、今回も腕利きの狩人を3人も失い、戦力不足はいなめません」


 それを聞いたゴルドーが、悲痛な顔をしていた。

 彼と一緒に行動していた仲間が、3人もラプトルの餌食えじきになったのだ。

 その心情は察してあまりある。


「どうやら大魔境から流れ出た魔物が、徐々に生息範囲を広げているようなのです。おかげで都市の戦士や狩人は、慢性的に不足している状況。このうえさらに強力な魔物が出てくるとなれば、都市の防衛体制が破たんするかもしれません」


 内政を取り仕切るサルディナが、アテナイの苦しい内情を語る。

 ここで師匠が対策案を提示した。


「それについては、隠れ里で育成中の精霊術師をこちらへ回しましょう。術師と連携すれば、戦力は格段に高まるはずです」

「そうしていただけると、非常に助かります。しかし都市外に存在する集落でも苦労していると聞きますので、そちらが気がかりです」

「ふむ、かといって術師の数も、さほど多くはありませんからね」


 ここで俺も改善案を出す。


「それならまず、遠話用の魔道具を主要な集落に置いて、警戒網を構築してみない? その情報に基づいて運用すれば、少ない戦力でも対応できるかもしれない」

「なるほど。今までバラバラにやってきた魔物対策に、協力して当たるんですね」

「そうそう。魔法戦力はアテナイに常駐させておいて、他の集落はもっぱら情報収集に専念するんだ。探知能力に優れた者で、偵察部隊を編成するのもいいんじゃないかな。高度な探知能力の有利さは、今日の戦闘で実証されたでしょ」

「殿下のおっしゃるとおりですな。我々も精一杯やっているつもりでしたが、まだまだやれることはありそうです」


 俺のことを褒めるアーネストに、サルディナが茶々を入れる。


「いつも強気一辺倒のアーネストにしては、ずいぶんと物分かりがいいですね」

「茶化すな、サルディナ。今日の殿下の戦いぶりを見れば、お前にも分かる」

「戦闘馬鹿のあなたにそこまで言わせるとは、さすがは殿下。それでは私の方で他の集落に使者を送り、防衛体制強化の打ち合わせを申し入れます。各種族の足並みを揃えるためにも、殿下のご臨席をたまわりたいと存じますが」

「俺はいいけど、日程はどうかな?」


 今後の予定が分からなかったので、師匠に振る。


「そうですね……オリンポスからは10日後に戻れると思いますから、それ以降であれば構いませんよ」

「分かりました。10日後以降で日程を調整します」


 期せずして、他の集落の首長との会議まで決まってしまった。

 ちょっと緊張するが、どうせいつかは通る道なので、一気に顔合わせをするのもいいかもしれない。





 それから3日後に俺たちは、鉱山都市オリンポスに着いていた。

 ここは南森林地帯の一角にある岩山に位置する、山人族ドワーフの町だ。

 主に鉄を産するその山を、彼らは採掘すると同時に自らの住居に作り替えたのだ。

 そしてほとんど外部と交流のない森林地帯の住民に、金属製品を供給している。


 王国滅亡時に大した道具を持ち出せなかったドワーフが、ここまでやれたのには理由わけがある。

 彼らの多くが、自身の魔力で金属製品を加工する鍛冶魔法を使いこなすからだ。

 その魔法で彼らは足りない道具を作り出し、とうとう大規模な採掘設備や製鉄設備を含む都市を作り上げたのだ。



 俺たちが応接室でしばらく待っていると、ドカドカと1人の男が入ってきた。

 いかにも現場帰りといった感じの薄汚れた作業着に、ヘルメットを引っかけた年配のドワーフだ。

 背丈は俺の肩ぐらいまでで、ぼさぼさの黒い髪に、ぎょろっとした黒い目を持っている。


「お待たせした。どこかの誰かに増産を指示されたおかげで、忙しくてかなわんわ」


 そう言って師匠をにらんだので、彼の指示なんだろう。


「それは申し訳ありませんね、ドゥーラン。しかしあなたたちが他国へも行かずここに留まったのは、この時のためではありませんか。こちらがエウレンディア王家の末裔、ワルデバルド殿下です」

「ほー、あんたが噂の王子さんかい? 儂がドワーフをまとめているドゥーランだ」

「はじめまして」


 差し出されたごつい手を握ってから、再び席に着く。


「それにしても、本当に生き残ってたんだな、王族が。しかしなんで今まで、黙ってたんだい?」

「七王の盾も持たない殿下は無力でしたからね。そんな状態で抗戦派に担ぎ出されないよう、隠していたのです」

「なるほど。言われてみればそうだな。しかしこうやって出てきたからには、手に入れたのかい? 例のモノ」

「ええ、成人と共に殿下の前に現れ、七王の解放も済ませてあります。殿下、彼に見せてあげてください」

「了解。出でよ、七王」


 いつものように左腕の盾を展開し、七王を召喚した。

 召喚の光と共に全ての王が出揃うと、ドゥーランが感嘆の声を上げる。

 そしてとても嬉しそうに笑った。


「ケヘヘ、長生きはするもんだなぁ。こうしてまた七王を見れるなんて、夢のようだ」


 それからひとしきりこれまでの流れを語り、さらに今後やるべきことを相談した。

 アテナイ周辺で偵察・魔法部隊を増強して、森林地帯の魔物を減らすこと。

 それによってできた余裕で食料を備蓄し、兵士を養うこと。

 そしてそのための装備を、オリンポスから供給して欲しいことなどだ。


「ふむ、それなりに考えてはいるみたいだな」

「とはいえ、まだごく一部の要人に話を通しているだけで、体制も整っていませんがね」

「そりゃあ、そうだろう。しかし、いつごろ蜂起できそうなんだ?」

「兵の集まり具合や、訓練の進捗次第ですが、およそ1年後には王国の復活を宣言するつもりです」

「1年後、か…………それまで殿下の存在は公にしないのか?」

「あまり早く公表しても勢いが持続しませんし、情報漏れが心配です。一応、王族が見つかったという噂は流してますが」

「ハハハ、いかにもガルドラが考えそうなことだな」

「必要なことですからね」


 その後、オリンポスの生産体制についても話を聞いた。

 主にアテナイ向けで細々と供給していた武器や防具の生産体制を、今後は10倍に引き上げる予定だそうだ。

 もっとも、鉱石の採掘から始めるので、こっちもそれなりに時間が掛かるらしい。


「そういえば、他国へ亡命した同胞とは連絡が取れますか?」


 14年前に発生した難民の多くが、ヴィッタイトや自由都市同盟へ亡命した。

 特に商業の盛んな同盟へは、ドワーフの民も多く逃げたらしい。

 そんな旧国民との連絡について、師匠が問う。


「亡命者か? まあごくたまに連絡が取れるくらいで、あまり多くはないな」

「そうですか。でも何人かは所在が分かるんですね?」

「ああ、分からんでもないが、亡命者を呼び寄せようって考えてるのか?」

「ええ、それもありますが、自由都市同盟の要人を紹介してもらえないかと思いまして」

「要人ってえと、何か外交交渉をするつもりかい。商人なんてのは油断ならねえから、あまりお勧めはしねえがなあ」


 そうは言っても、ある程度他国の支援は欲しいところだ。

 旧国民を呼び寄せるにしても、交渉は必要だろう。


「どの道、無関係ではいられませんから、相手の考えぐらいは知っておきたいのです。連絡の取れそうな人のリストと、紹介状をお願いします」

「それもそうだな。おい、情報を集めてガルドラに送ってやりな」

「了解しました」


 ドゥーランが秘書らしき男に指示を出した。

 これで自由都市同盟とのつながりができるといいのだが。

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