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37.猛禽の宴2

 アーネストの弟を助けにいったら、殺戮竜キラーラプトルという魔物の群れに囲まれてしまった。

 俺たちを取り囲んだラプトルが鳥のような声を上げながら、草むらや木の陰から飛び出してくる。


「コカカカカカカッ!」


 ラプトルは多少の差はあれど、人間と似たような体格で、2本の足で歩くトカゲのような魔物だ。

 体は深緑色の鱗に覆われ、所々に赤やら黄色の模様が浮き出ている。

 その強靭そうな後ろ足と小ぶりな前足には、ナイフのような爪が生えていた。

 突き出た口にもビッシリと牙が並び、狡猾こうかつそうな黄色の目が、俺たちをめつける。


 奴らの攻撃に備えて、シヴァ、ガルダ、ナーガ、アグニを新たに召喚した。

 シヴァとナーガは護衛に残して、あとは独自に攻撃させる。

 インドラ、アグニ、ソーマが地を走り、ガルダが空へ舞い上がっていった。


 俺も魔剣フェアリークローを引き抜いて、戦闘態勢を整える。

 魔剣の使い方は、すでに練習済みだ。

 石飛礫ストーンブレットをイメージしながら魔剣に魔力を送り込むと、魔法が準備される。

 こうしておけば、好きな時にすんなりと魔法が撃てるのだ。


「師匠は手近な奴を頼むよ。アーネストたちは、近寄ってきた奴を防いでくれ」


 ここでラプトルに目をやると、すでにインドラたちと交戦していた。

 圧倒的に強者な七王がラプトルの群れに突っ込み、手当たり次第になぎ倒そうとと暴れ回る。

 しかし敵もさるもの、少々やられても致命傷にはならず、すぐに体勢を建て直して立ち向かっていく。

 数が多いことも相まって、なかなかとどめを刺すには至らない。


 やがて5匹のラプトルが分かれ、こちらへ向かってきた。


「来たぞ。俺たちは耐えればいいんだから、無理するな。石飛礫ストーンブレット


 魔剣を振り下ろして魔法を発動すると、多数の石つぶてが飛んでいった。

 そのいくつかはラプトルに当たって動きを止めたが、ダメージは少ない。


石飛槍ストーンジャベリン


 しかし、少し動きの止まった敵に、師匠の魔法が炸裂した。

 石の槍に貫かれたラプトルが、断末魔の声を上げる。

 さすがは師匠、実戦経験が豊富なだけあって、狙いが正確だ。


 しかし仲間がやられてもなお、他のラプトルが俺たちに迫る。

 そのうちの1匹をシヴァが前に出て足止めすると、ナーガも長い尻尾しっぽを振って牽制する。

 するとその守りをすり抜けて、2匹が俺たちに迫った。


「フンッ!」


 ここでアーネストたち、アテナイの戦士がラプトルを止めた。

 盾と剣を持つ5人が前に出てラプトルを牽制けんせいし、残りが弓矢で攻撃する。

 もちろん強靭なラプトルを仕留めるには至らないが、敵を防ぐくらいはできる。


 その隙に俺は魔剣に意識を集中し、石飛槍ストーンジャベリンを準備した。

 その剣をシヴァと戦うラプトルに向けて振り下ろすと、石の槍が敵に突き刺さった。


「グギャーッ!」


 さらにシヴァがとどめを刺すと、ラプトルが息絶えた。

 ナーガが牽制していた2匹にも、俺と師匠で石の槍をお見舞いして片付ける。

 やがてアーネストたちも2匹を仕留め、こちらは片がついた。


「フウッ、インドラたちも順調みたいだな」


 巨大な虎のインドラ、グリフォンのガルダ、地竜のソーマに火竜のアグニが、ラプトルたちを圧倒しつつあった。

 15匹もいたラプトルが、次々と彼らの牙や爪に掛かって、命を落としていく。

 この調子ならもう大丈夫、そう気をゆるめかけたところへ、アフィから警告が入った。


「ワルド、まだ何かいるわよっ!」


 次の瞬間、アフィの指した藪の中から、巨大なラプトルが立ち上がった。


「グロロロロォォッ!」


 頭の高さが俺の倍以上もありそうなラプトルが、凄まじい咆哮ほうこうを放つ。

 体積なら並みの20匹分はありそうなその巨体が、ズシンズシンと足音を響かせながら進み出てくる。

 その登場によって、崩れかけていたラプトルが息を吹き返した。

 おそらくこいつが群れのボスなのだろう。


「な、なんだあれはっ! でかすぎるぞっ!」


 予想外のボスの出現に、アーネストたちが狼狽ろうばいする。

 たしかに奴は、七王の中でも最大の火竜アグニと比べても、倍以上ある。

 その猛烈な殺気に正面から向き合えば、並みの人間では誰も動けないだろう。

 しかし周りを見ると、師匠も戦意を保ってるし、アーネストたちも大丈夫そうだ。


「あの親玉は俺たちでなんとかするから、アーネストたちは周りの雑魚ざこを頼む」

「殿下、おやめください! ここは我らが引きつけますから、その間にご退避を――」

「ダメだっ! みんなで生きて帰るには俺がやるしかない。シヴァとナーガは彼らを援護してやってくれ」

「クッ……王国再興の前に死ぬなんて、なしですよ」

(了解)

(了解です、主様)


 そう言い残して、アーネストが雑魚ラプトルに向かう。

 もう5匹くらいしか残っていないので、彼らでもなんとかなるだろう。

 それにしても問題は、目の前のボスラプトルだ。


 俺から20歩ほど離れた場所で停止したボスが、低い唸り声を上げながら、爬虫類独特の縦長の瞳でこちらを見てくる。

 やがてインドラ、ガルダ、ソーマ、アグニが奴の周囲に陣取り、俺も魔法を準備した剣を構えた。

 そして互いに隙をうかがっていたら、ふいにボスラプトルが前に跳んだ。


 俺はすかさず剣を振るい、奴に向けて炎弾ファイヤーを放つ。

 しかしそれは、ギリギリでかわされた。

 一応わずかにかすってダメージは与えたようだが、奴はお構いなしに突っ込んでくる。


 するとインドラ、ソーマ、アグニ、ガルダが前進を阻み、そのまま乱戦になった。

 ボスラプトルは尻尾や牙を振るい、インドラたちも爪や牙を敵に突き立てようと、暴れ回る。

 体格的にはボスラプトルの方が優勢だったが、インドラたちはすばやい動きと数で不利を補っていた。


 しかしボスラプトルの攻撃も凄まじく、七王の体から血が流れはじめた。

 普通の刃なら簡単にはね返す彼らの装甲を貫通するとは、凄まじい攻撃力だ。

 その一方でボスラプトルも、間断なく攻められて徐々に傷が増えていた。


 そんな混戦が続く横で、俺は何をするべきか考え、チャンスを待っていた。

 やがてまとまった作戦に従い、魔剣に魔法を準備してから、インドラたちに念話で指示を送る。

 やがてボスラプトルに若干の疲れが見えてきた頃、俺は罠を発動させた。


 インドラ、ガルダ、アグニの一斉攻撃を避けて、ボスラプトルが後ろに跳び退いた瞬間、奴の足元が大きく陥没した。

 それは単独で混戦から離れ、地下に潜っていたソーマの仕業しわざだ。

 そのままボスの体の半分が土に埋もれ、一瞬だけ奴の動きが止まる。

 そこへ目がけ、俺は全力の火弾ファイヤーをボスラプトルに叩きつけた。

 人の頭ほどもある炎の塊が命中すると、そのまま弾けて敵の頭部を炎で包み込んだ。


「グアアーーッ、グアアーーッ、グアァッ……」


 激しく叫んでいたボスラプトルが、やがて力尽きたように倒れ込んだ。

 しばしけいれんしていた奴が、とうとう動かなくなる。


 しかし俺は、奴の動きに違和感を覚えていた。

 たしかに頭部はひどく焼けただれているが、さほど深い傷はない。

 俺は念のため、インドラに確認を頼んだ。


「インドラ、本当に死んでるかどうか、確かめてくれ。慎重にな」

(分かったニャ)


 満身創痍のインドラが、ボスラプトルにゆっくりと近づく。

 そしてあと1歩、という所まで近づいた瞬間、奴が再び牙をむいた。

 グワッと起き上がって、インドラの前足に食らいつこうとしたのだ。


 しかしインドラはそれを軽やかにかわし、右の前足を叩き込んだ。

 さらにインドラ特有の雷撃魔法を放つと、バリバリという音がしてボスラプトルの頭部が焼かれる。

 やがて何度かのけいれんの後、ボスラプトルの頭が落ちて、二度と動かなくなった。


(今度は完全に死んだニャ)


 前足でツンツンしたインドラが、念話で教えてくれた。

 それを聞くと俺は、一気に力が抜けてへたり込んでしまう。

 どうやら相当緊張していたようだ。


 余裕ができて周りを見渡すと、雑魚の掃討も終わりかけていた。

 シヴァとナーガも応援に入ったアーネストたちが、次々とラプトルを屠っていく。

 ボスを失って再び統制の取れなくなったラプトルに、すでに抗う力はない。

 そしてとうとう最後のラプトルが倒れ、動かなくなった。


「みんな、大丈夫か?」

「ハア、ハア。少し、ケガ人は、出ましたが、命に、別状は、ありません」


 自身もケガを負いながら、疲労困憊ひろうこんぱいのアーネストが報告をする。


「そうか、こっちもなんとか倒したよ。恐ろしい強敵だった」

「さすがは、殿下。しかし、あのような、魔物、初めて、見ました」

「魔物の分布に変化が出てるのかもしれない。被害が広がらないうちに手を打たないと」

「おっしゃるとおりです。しかし今は、休ませてください」

「ああ、なにはともあれ、生き残ったことを喜ぼうか」


 こうして俺たちは、アーネストの仲間の救出に成功したのだ。

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