4.お前が七王?
森の中で出会った妖精が、自分は七王だと言いだした。
どうやら俺は、頭のおかしな妖精と話をしていたらしい。
「アハハッ、何言ってんだよ。お前が七王? そんなもの、14年前に王国と一緒に無くなったんだぞ」
「ムキーッ。あんた、この私が嘘ついてるって言うの?」
嘘も何も、とても信じられるような話じゃない。
たしかに14年前までこの地には国があり、そこには七王と呼ばれる存在がいたそうだ。
エルフの王が築いたその国の名前は、エウレンディア王国だ。
そしてその王家には代々、”七王の盾”という神器が継承されていた。
その盾には精霊王に匹敵する強力な精霊たち、すなわち”七王”が宿っており、初代エウレンディア王はその力を借りて王国を築いたと言われている。
その建国は、人類社会が発展するためのきっかけともなった。
王国の西には昔から、”ボルガ大魔境”と呼ばれる魔物の巣窟が存在していた。
この魔境はパイロー山脈と呼ばれる山々に囲まれた盆地状の地域で、人跡未踏の秘境だ。
しかしパイロー山脈の一部には、切れ目が存在した。
”竜の咢”と呼ばれるその切れ目は、魔物が魔境から移動する格好の抜け道だ。
そしてそこから出てくる魔物には狂暴なものが多く、人類社会の悩みの種となっていた。
しかしおよそ千年前に、初代エウレンディア王がその”竜の咢”を塞いだ。
これにより魔物の流出が圧倒的に減り、魔物の脅威が薄れる。
強大な戦力を持つエウレンディア王国が、自らを咢の蓋となしたのだ。
その結果、魔物の脅威が激減した人類社会は、生活の向上に精力を傾けられるようになり、人口が増大した。
当然、エウレンディア王国は人類社会から感謝され、尊敬された。
しかし人間とは愚かなものだ。
14年前に隣国のアルデリア帝国が何をとち狂ったのか、王国へ牙をむいたのだ。
詳しいことは知らないが、エウレンディア王国はあっさりと攻め滅ぼされ、王族ともども七王の盾は失われたと聞く。
なのに目の前の妖精は、自分がその七王だと言うのだ。
妄想癖のある妖精がいるなんて、今まで知らなかった。
いや、妖精なんて本来、そんなものかもしれないな。
「いきなり伝説の精霊だなんて言われても、信じられるわけないだろ。悔しけりゃ、証拠を見せろってんだ」
「いいわよ。それなら証拠を見せてやるから、待ってなさいよっ!」
そう言いながら妖精は、さっき出てきた木の穴へ戻った。
そして何かを抱えて、それを引っ張り出そうとしている。
「うんしょ、うんしょ……ちょっとあんた、手伝いなさいよ」
妖精は、灰色の何か板のような物を抱えていた。
しかしさすがに重いのか、俺に手伝えと言う。
仕方ないので手を伸ばして、その何かを取り出してやる。
「なんだ、これ?」
それは金属質の輝きを持つ、細長い箱のようなものだった。
長さはちょうど前腕部ぐらいで、幅は腕より少し広い。
よく見ると下の方に湾曲がついていて、前腕部を覆う防具みたいに見えなくもない。
何気なく俺は、それを左腕に置いてみた。
するとふいに、それが光りだしたのだ。
「ええ~っ、あんた何したのよ? なんで七王の盾が反応してんのよ?」
「七王の盾だって? うわっ!」
その瞬間、箱が俺の前腕に吸いついた。
それは長袖のシャツの上から腕に張りつき、2ヶ所のベルトで固定される。
やがて光が治まると箱状の部分がガシャッと広がり、盾のようになった。
幅は腕の4倍くらいで、手首側にも尖った部分が伸びている。
ちょうど拳を握ると、それより少し突き出すぐらいだ。
「おい、取れないぞ。なんだよこれ?」
「だから七王の盾だって言ってるじゃないっ!…………だけど何? 何が起こってるの? 落ち着け、私。フーッ、フーッ」
妖精が頭を抱えながら、深呼吸を始めた。
固唾をのんで見守っていると、やがて落ち着いた妖精から質問があった。
「あんた、ワルドって言ったわよね?」
「ああ、そうだ」
「歳はいくつ?」
「もうじき15になる。正確な誕生日は知らないけどな」
「……ひょっとして、こいつが?」
妖精は顎に手をやりながら、俺の周りを飛び回った。
ブツブツ言いながら俺を見てるので、こちらから話しかける。
「おい、ひとりで納得してないで、説明してくれよ。これは取れるんだよな?」
「ん? ええ、簡単に取れるわよ。そう念じてみなさい」
「本当か?……あ、取れた」
”取れろ”と念じたら、盾がガシャッと閉じて、左腕から離れた。
不思議なことに、盾を支えていた2ヶ所のベルトは消えている。
これはひょっとして、魔道具ってやつだろうか?
いや、こいつは”七王の盾”だと言っていた。
「これって、本当に”七王の盾”なのか?」
「そうよ。そして私は七王の1柱たる光王」
ムンッと胸を張りながら、妖精がまた名乗る。
今度は俺が途方に暮れ、頭を抱えてしまう。
「……マジで? なんでそんな物がここに?」
「だから、さっきから言ってるじゃない。私の主となる人を探しに来たって」
「えーっと…………つまりそれが、俺だったってこと?」
「どうやらそのようね」
「ええーーーっ! なんで俺が?」
思わず大声で聞き返した俺に、衝撃の事実が告げられる。
「それはね、あなたがエウレンディア王家の生き残りだからよ」
なん、だと?
俺が、王族?