表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/105

36.猛禽の宴1

 アーネストから魔剣”妖精の爪”フェアリークローを譲り受けた翌日、俺はアテナイの要人と顔を合わせた。

 10人ほどの出席者が揃ったところで、アーネストが俺の素性を告げる。


「喜べ諸君、根絶されたはずのエウレンディア王家に、生存者が見つかった。こちらが亡きヴィレルハイト王の継嗣、ワルデバルド殿下だ」


 いろいろとすっ飛ばしたアーネストの説明に、要人の1人が困惑気味に言葉を返す。


「……いきなり王族が見つかったと言われても、わけが分からないのですが」

「む、だからこちらにおわすお方が、唯一の王族ということだ」


 相変わらず言葉が足りず、なおも出席者が混乱していると、師匠が助け舟を出した。


「少し私から補足させてもらいましょう。実は王都が陥落した14年前、ワルデバルド殿下は近衛戦士長のアハルドに救出され、隠れ里に避難していました」

「……それならばなぜ、今まで隠されていたのでしょうか?」

「皆さんが不審に思うのも当然ですが、当時の殿下はなんの力もないただの赤子。抗戦派に担ぎ出されでもして、帝国にその存在を知られれば、本当に王族の血は絶えていたでしょう。そこで我々は、殿下をただの戦災孤児として育てることにしたのです。そして殿下は成人して七王の盾を手に入れ、さらに盾の力も解放したため、このようにお披露目をしている次第です」

「なんと、七王の盾を取り返したのですか?」

「王国の守護神が再び我らの手に……」


 その場の人々が、それぞれに喜びを露わにする。

 ここで師匠が目配せしてきたので、俺が前に出た。


「皆さん、私がワルデバルド・アル・エウレンディアです。残念ながら私に王国の記憶はありませんが、このように七王の盾を手に入れることができました」


 一旦言葉を切って盾を展開し、さらに七王を召喚した。

 眩い光と共に現れた七王たちの姿に、会場がどよめく。


「しかし七王の盾を取り戻したというだけで、王国を再興することは叶いません。そのためにもぜひ、皆さんの力を貸して欲しいのです」


 するとその場の全てが次々と臣下の礼を取り、アーネストが高らかに声を上げた。


「我らエウレンディアの民、心より殿下のご帰還を喜び、王国再興に全力を尽くす所存です。ワルド殿下万歳」

「「ワルド殿下万歳!」」


 全面的な支持を取りつけた後は、彼らと今後の方針を話し合ったり、親睦を深めたりした。





 そして翌朝はオリンポスに旅立つ予定だったのだが、朝食の間に何やらアーネストの周辺が騒がしくなった。


「なんだと? ゴルドーたちが戻っていない? すぐに捜索隊を編成しろ。私も出る」

「ハッ、ただちに」


 アーネストの部下が、足早に去っていく。


「何かトラブルでもあったの?」

「ええ、昨日、狩りに出た者が、いまだに戻っていないとの報告がありました。なに、すぐ見つかるでしょう」


 しかし、そう言うアーネストの表情には余裕がない。

 そこで俺は、思いきって提案してみた。


「それなら俺も捜索に協力しようか? 七王の力を借りれば、捜索も楽になるはずだ」

「い、いえ、殿下にそんなことをしていただくわけにはまいりません。予定どおり、オリンポスへお向かいください」

「別に2,3日遅れても平気だよね? 師匠」

「ええ、問題ありませんよ。アーネスト、ここに殿下が居合わせたのも何かの縁です。人命を優先するためにも、殿下の力をお借りしなさい」


 それでもアーネストは迷っていたが、言い合いをしている時間が惜しかったのだろう。

 渋々とそれを受け入れた。


「分かりました。お手数ですが殿下、力をお貸しください」

「任せてよ。譲ってもらった剣の借りぐらいは返すから」


 その後、アニーとレーネは町に残し、俺と師匠は10人ほどの捜索隊と共に出発した。

 行方不明の狩人たちが向かったと思われる狩場に向かいながら、事情を聞く。


 ゴルドーという人はアーネストの弟で、アテナイでも屈指の狩人らしい。

 その彼と4人の仲間が昨日から行方ゆくえが知れず、今朝になってようやく情報が上がってきたそうだ。

 まあ、アーネストは俺を接待中だったし、下手に情報を伝えれば夜中でも出ていきかねない男なので、その判断は正しいだろう。


 半刻ほどで目当ての狩場に着くと、俺はインドラとソーマに周辺を探らせた。

 インドラはその鼻と耳で周囲を探り、ソーマは地下に潜って地上の気配を探る。

 しばらくは手がかりも見つからなかったが、やがてインドラが血の臭いを嗅ぎつけた。

 臭いを頼りに捜索を進めると、無残な遺体が見つかった。

 すでに散々食い散らかされたようで、ほとんど骨と衣服の残骸しか残っていない。


「少なくとも1人はここでやられたようだな。それにしても、見たことのない足跡だ」

「そうだね。ちょっと巨足鳥ビッグフットに似てるけど、同じじゃない」


 足跡からすると、ビッグフットのように2本足で歩く魔物のようだ。

 さらにインドラの案内で血の臭いをたどっていると、彼から念話が入った。


(どうやらこの先に、生存者がいるようだニャ。ただし得体の知れない魔物もその場にいるニャ)


 その情報をアーネストに伝える。


「どうやらこの先に、生存者がいるらしい」

「なんですと! すぐに救出に向かいましょう」

「待って、どうやら魔物に囲まれてるみたいだ。このまま進むのは危険だから、アフィは様子を見てきてくれないか?」

「いいわよ。ちょっと偵察してくるわね~」


 気配を断ったアフィが、魔物の方へ飛んでいく。

 やがて彼女が戻ってきて、状況を教えてくれた。


「インドラの言うように、2人のエルフが木に登ってたわ。2人とも魔物に追い詰められて、木の上で夜を越したみたい」

「そうか、ゴルドーは生きていたか……」


 それを聞いたアーネストが、ホッと息をつく。


「よかったな、アーネスト。それでアフィ、魔物はどんなのだった?」

「えっとね、たしか殺戮小竜キラーラプトルって呼ばれる魔物で、2本足で歩くトカゲみたいなやつ。背丈はワルドぐらいだけど、鋭い爪と牙を持ってるわよ」

「キラーラプトルとは、かなり厄介な魔物ですね」

「師匠、知ってるの?」

「ええ、昔、軍にいた時に見たことがあります。狂暴なわりに知能も高く、非常に危険な魔物です。何匹いましたか? アフィさん」

「10匹くらいはいたわ」


 そんなのが10匹もいるなんて、大変な話だ。

 これは油断してられないな。


「アーネスト、キラーラプトルがいると分かった以上、肉弾戦は危険だ。なので前に出るのは七王だけにして、俺たちの護衛に当たって欲しい。俺と師匠は魔法で攻撃をするから」

「はい、この身に代えてでも、殿下をお守りいたします」

「頼むよ。それじゃあ、前進しよう。アフィは先行して情報をくれ。インドラは周辺を警戒」


 周囲を警戒しながら前進すると、やがて少し開けた場所に出た。

 少し先に大きな木が立っていて、樹上に2人のエルフが見える。

 その木の周囲には、10匹ほどの魔物もいた。

 後ろ足で立って歩くトカゲのようなやつで、あれがキラーラプトルなのだろう。

 すでにこちらの存在に気づき、警戒を強めている。


「インドラ、ラプトルは全部で何匹いる?」

(見えるのとは別に、さらに10匹以上いるニャ。まるで我らを待ち受けていたみたいだニャ)

「なんてこった。見えない範囲で、さらに10匹もいるらしい。正直、かなりヤバいと思うけど、どうする?」

「ゴルドーたちを見捨てるわけにはまいりません。私が先頭に立って、突っ込みます」


 するとアーネストは剣を抜き、止める間もなく駆けだした。

 仕方ないので、残りの者も彼に続いて突っ込んだ。

 するとラプトルが引き下がったので、俺たちはあっさりとゴルドーたちの下までたどり着く。


「ゴルドー、俺だ。迎えに来たぞ」

「あ、兄貴。わざわざ来てくれたのか。助かった……今下りていく」


 すぐに2人の男が、滑り落ちるように下りてきた。


「無事だったか、ゴルドー、クライン。他の奴らは?」

「……面目ねえ、兄貴。逃げるのに必死で、はぐれちまった。たぶんやられてるだろう……」


 そう言ってうなだれるゴルドーは、アーネストによく似たライアスの男だった。

 しかしよほど怖い思いをしたのか、ひどく憔悴しょうすいしている。

 無事に彼らと合流できたことに安堵していたら、師匠から凶報がもたらされた。


「皆さん、どうやら我々はすっかり囲まれてしまったようですよ……ずいぶんと狩りに慣れた魔物ですね」


 インドラに確認すると、たしかに囲まれていた。

 ひょっとして俺たちは、まんまと誘い込まれたのか?

 どうやら奴らを殲滅する以外、生き残る道はなさそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもボチボチ投稿しています。

魔境探索は妖精と共に

魔大陸の英雄となった主人公が、新たな冒険で自身のルーツに迫ります。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ