35.魔剣フェアリークロー
森林都市アテナイで、なぜか市長のアーネストと模擬戦をすることになった俺は、魔法を組み合わせた戦法で勝利を得た。
アーネストの喉元に剣を突きつけてやると、彼が悔しそうに問う。
「くっ、今の攻撃は何だ?」
「さっきの風弾のこと? ただの精霊術だけど」
「生活魔法でもないのに無詠唱など、聞いたことがないぞ!」
「それが七王の盾の恩恵さ。それで、俺についてはご満足いただけたかな?」
しかしアーネストは俺をにらむだけで、素直に答えはしない。
そんな彼を師匠がたしなめた。
「見苦しいですよ、アーネスト。どうせ魔法を使ったのが卑怯だとか思っているのでしょうが、剣のみの勝負だとは誰も言ってないのですよ」
「そ、それはたしかにそうだが……」
なおも素直になれないアーネストを、今度は副官のサルディナが諫めた。
「対戦者の実力を認められないとは、あなたらしくもないですね。殿下は体術も剣術も、かなりの領域にあります。それに魔法を加えたら、あなたが敵わないのも当然ではないですか」
「俺もけっこう余裕はなかったけどね。でも俺はじっちゃん、いや、アハルドに鍛えられたんだ。そうそう遅れを取るつもりはないよ」
「……そうか、殿下はアハルド殿の教えを受けたのか。道理でお強いわけだ……このアーネスト、完敗です」
とうとうアーネストが頭を下げた。
ようやく俺を認めるつもりになったらしい。
決着はついたので再び応接間へ移動し、改めて向かい合う。
「改めて言いますが、ワルデバルド殿下は紛れもなくエウレンディア王家の末裔です。しかも無詠唱の魔法を使いこなすなど、かつてない可能性を秘めたお方であること、ご理解いただけましたか?」
「その点については、身をもって思い知った。先ほどの無礼、改めて謝罪します」
「いや、そんなにかしこまらないでいいよ。もっと気楽にやろう」
「はっ、ありがたきお言葉。せっかくなのでお言葉に甘えさせていただきます……しかしガルドラ、我々に殿下の存在を隠していたのは、やはり納得がいかんな。何か騒ぎが起きた時、殿下を避難させる可能性もあっただろうに」
「ええ、そのためにバラスのジブス市長と、そちらのサルディナさんには伝えてありましたよ」
「な、何だと? サルディナ、お前知っていたのか?」
信じられない、といった顔で見るアーネストに、彼女は平然と答える。
「ええ、あなたがあまりに脳筋野郎なので、私だけに教えられていることが、いくつかあるのです。殿下の情報もそのひとつですね」
「そのひとつだとぅ……他に何を隠してやがんだ?」
「ハッハッハ、馬鹿ですね~。教えるはずないでしょう?」
「うぬぅ……泣かすぞ、お前」
「おやおや、こんな所で夜の生活を放言するなんて、やめて欲しいですね」
「そっちの鳴かすじゃないわっ!」
サルディナはアーネストをおちょくりながら、平気な顔でお茶を飲んでいる。
このアテナイは”竜の咢”に近いだけあって、強者が市長に選ばれるそうだ。
得てしてそういう人物は事務仕事が弱いから、それを副官が補う仕組みなんだろう。
さすがアーネストの補佐をするだけあって、サルディナは一筋縄ではいかない人のようだ。
話の内容からすると、結婚してるのかね、この2人。
「相変わらず仲が良くてなによりですが、話を進めてよいですか?」
「べ、別に仲が良いわけでは……」
「はいはい、話が進まないので黙ってましょうね。それでガルドラ様、この町の要人へのお披露目は、明日の午後でよろしいですか?」
「ええ、それでけっこうです。まずは要人と顔を合わせてから、戦力の増強や食料の備蓄計画について話し合います」
師匠とサルディナが話を進めると、またアーネストが口を挟んだ。
「む……当然、領民へのお披露目もするのであろうな?」
「いいえ、当面は要人へのお披露目だけに留めます。あまり大々的に披露しては、帝国に勘づかれるかもしれませんからね」
「し、しかし殿下がご存命であることを知れば、民がどれだけ喜ぶことか」
「アーネスト、ガルドラ様を困らせるな。まだ何も準備できていないのに、活気づいても仕方ないでしょう。それなりに準備が整ってから、知らしめればいいことです」
またアーネストを、サルディナがたしなめた。
「そのとおりです。ただし、どこかに王族が生き残っている、という噂を流すのはいいかもしれません。それによって、住民の士気や生産性を上げる効果が期待できます」
「なるほど、それはいい手ですね。あまりやり過ぎない程度に、徐々に噂を流すよう手配しましょう」
「よろしくお願いします。そんな噂が流れれば、真実も隠しやすいですからね」
「おっしゃるとおりです。民を完全にだますのではなく、ちゃんと事実に基づいている点がいいですね」
師匠とサルディナがいかにも政治家的な話をするのを、俺たちはあっけに取られて見ていた。
国を再興するからには、こういうことも必要なんだろうが、いかにも陰謀めいた話だ。
その後、適当なところで会議を打ち切って、夕食後に再び応接室に集まった。
お茶を飲みながらくつろいでいたら、アーネストが細長い箱を持ってきて、テーブルの上に置く。
「殿下、これは我が家に伝わる宝剣”妖精の爪”です。ぜひ殿下に使っていただきたいと思い、お持ちしました」
そう言って箱のふたを開けると、そこには美しい小剣が収まっていた。
「ええっ、こんな立派な物、もらえないよ」
「いいえ、どうぞご遠慮なく。何しろこれはその昔、王家から我がフレイム家に下賜された剣です。つまり、王家にお返しするようなものですから」
「でもそれはフレイム家の功績に対して与えられたもので、俺が受け取るのもおかしな話だよね?」
「それでしたら、王国を再興した暁に、改めて褒賞を下賜ください。残念ながら私はもっと大きな剣を使うため、これは使いようがないのです。この剣ならば、殿下の戦闘スタイルにも良く合うと考えました」
「それはそうかもしれないけど……」
彼の申し出は嬉しいが、宝剣をただでもらうのはためらわれた。
するとアフィが盾から出てきて、その剣を調べ始めた。
驚いたことに彼女が剣に触れると、その刀身がうっすらと光る。
「今、何したんだ?」
「何もしてないわ。でもワルド、この剣すっごくいい物よ。ミスリルの刀身に魔導処理が施されていて、魔法を乗せられるみたい。いわゆる魔剣ってやつね。たぶん魔法の発動も補助してくれるわ」
「魔剣だって? そんなもの、ますますもらえないじゃないか……」
アフィの話で、ますますもらいにくくなった。
しかしそんな俺のためらいを、師匠が軽く笑い飛ばす。
「アハハハハハハッ、殿下、ここでそのような魔剣に出会うなど、ただの偶然ではありません。どうせ殿下にしか使えないのですから、遠慮なく受け取っておきなさい。アーネストには後日、ふさわしい剣を与えればいいのです」
「う~ん……そうか。そうだよね。俺の戦い方にも合っていて、魔法も強化できるのなら、俺が使うのが一番だ。分かった、アーネスト、この剣もらい受ける」
そう言って俺は、魔剣を手に取った。
それは俺の腕くらいの長さで、銀色の細長い両刃の刀身を持っていた。
金色のつばと白い柄には精緻な装飾が施され、宝剣と呼ぶにふさわしい雰囲気を醸し出している。
同じ箱に入っていた白っぽい鞘には、これまた精緻な妖精の装飾が付いていた。
その柄はピタリと俺の手に吸いつくようで、本当にこの剣は俺を待っていたんじゃないかと思わせるほどだ。
試しに火魔法を使ってみると、刀身が炎に包まれる。
「なるほど、魔剣というだけあって、ずいぶんと魔法が使いやすいよ」
「そうでしょ。ガルドラが言うように、これは偶然じゃないわ。この剣はここでワルドを待っていたのよ」
「本当にそんなことって、あるのかな? まるで昔から全て決められてたみたいで、気持ち悪いよ」
「フフフッ、それなら、あなたと剣が引き寄せ合ったと考えれば?」
「なるほど、そう考えることにするか。いずれにしろ、こいつはこれから役立ちそうだ」
この日、俺は新たな力を手に入れた。
ストックが乏しくなってきたので、次回から隔日更新にさせてもらいます。
できれば魔境探索の更新も増やしたいので、ご理解願います。
それと、タイトル変更を検討中です。
”エウレンディア王国再興記~無能だった俺が実は最強の召喚士?~”
というのを考えてるんですが、ご意見もらえると嬉しいです。
そんなのやめとけとか、こうしたらいいんじゃないか、などのアドバイスありましたらお願いします。