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33.森林都市バラス

 精霊術師の育成と並行して、今後の計画についても話し合った。

 まずは他の集落への、俺のお披露目計画だ。


「とりあえず南はバラスとアテナイ、そしてオリンポスに行く必要があります。北はマラカンぐらいですね」


 この南森林地帯には隠れ里の他、大きな都市が3つある。

 主に森人族エルフが住む森林都市バラスと、獣人種が住むアテナイ、そして山人族ドワーフの住む鉱山都市オリンポスだ。

 そして北の森林地帯には、闇森人族ダークエルフを中心としたマラカンが存在する。

 ちなみに人口は南が5万、北が3万といったところだ。


「すでに南は先触れを出してありますから、順に回っていけばいいでしょう。北はガルダに乗って、殿下が直接行った方が早いですね」


 師匠がすでに段取ってあるので、テキパキと予定が決まっていく。

 俺の同行者は師匠、アニー、レーネの他に、護衛が2人だけだ。

 あまり人数を増やすと移動が厄介だし、七王自体が最強の護衛だ。


 森の中の移動には巨足鳥ビッグフットを使う。

 例の飛べない鳥だが、鞍を着ければ立派な馬の代わりになるのだ。

 2本足のせいで揺れが大きいのが玉にキズだが、旅には欠かせない存在だ。


 ただし俺とアニーはインドラに鞍を着けて、それに乗る予定だ。

 ビッグフットより乗り心地がいいし、強力な護衛にもなる。





 そして森林都市バラスへ向かう日が来たのだが、その旅は楽ではなかった。

 順調に進んでも3日は掛かる上に、けっこうな魔物が出てきたからだ。

 狂暴狼ダイアーウルフとか鋭爪猿クローモンキーならまだかわいいもので、たまに四目熊フォースベアとか剣牙虎サーベルタイガーにも遭遇した。


 それらの襲撃を排除しつつ、4日目の夕刻になって、ようやくバラスへたどり着いた。

 バラスは自然の大木に防壁を組み合わせた、巨大な都市だ。

 大木の間に通路が張り巡らされ、樹上に住居が複層的に構築されている。

 森の民と呼ばれるエルフの建築技術あっての街並みで、中に入ってもどこが果てか分からないほど広かった。


「これはこれは、お久しぶりです、ガルドラ様。道中はいかがでしたかな?」

「お久しぶりです、ジブス・カーマイン。予想以上に魔物が多く、少々手間取りました」

「やはりそうですか。徐々に魔物が増えておりますからな。して、こちらが例の?」

「ええ、弟子のワルドです。それからアニーとレーネ」


 バラスの市長を務めるジブスは、白髪に眼鏡の落ち着いた感じの老エルフだった。

 紹介されて俺が頭を下げると、顔をほころばせたので、この人は俺の出自を知っているのだろう。


 挨拶あいさつが終わると、各々に与えられた部屋で荷をほどき、お湯で体を清めて身なりを整えた。

 そして市長主催の晩餐会に招待され、食事をご馳走になる。

 とても森の中とは思えない見事な料理が出てきて、ちょっと感動した。



 食後は場所を変え、お茶を飲みながら話をすることになった。

 お茶が出てから人払いがされると、いきなり市長が俺に対して膝を着く。


「ちょ、ちょっとジブスさん、やめてくださいよ。頭を上げてください」

「いいえ、14年前からずっと、この日を夢見てきたのです。殿下は本当に立派になられましたな」

「まあまあ、ジブス。殿下も困っていますから、椅子に戻ってください」


 師匠のとりなしで、ようやく話をする態勢になる。


「それでジブス、殿下のお披露目の準備は進んでいますか?」

「もちろんですとも。この町の有力者には、ひととおり話を通してあります。さっそく明日の午後にでも彼らを招集し、殿下を紹介しましょう」

「さすがはジブスですね。しかしこの町は、本当にひとつにまとまれるのでしょうか?」


 いきなり師匠が失礼なことを言い出した。


「え、師匠、何言ってんの? まるでこの町が分裂するみたいじゃん」

「ホッホッホ、ガルドラ様が懸念されるのもごもっともです。しかし、このジブスも伊達に伯爵位を賜っていたわけではございませんぞ。この時に備え、家臣団は忠誠の厚い者で固めてあります」

「さすがですね。やはり最初にここを訪問したのは、正解でした」


 師匠の解説によれば、いかに正統な王族が現れようと、私欲に走る者が必ず出るという話だった。

 俺に取り入って権勢を手に入れようとする者、このまま森に閉じこもろうとする者、戦で功績を残して成り上がろうとする者など様々だ。

 旧エウレンディア国民の住む集落で、最も信頼の置ける首長がこのジブスであるらしい。

 それを知ったうえで、バラス全体の統制はどうかと、師匠は問うたのだ。


「ガルドラ様に信頼いただけるとは嬉しい限りです。して、殿下は無事に、七王の盾を手に入れたと聞きます。この老いぼれに七王との謁見をお許しいただけますかな?」

「もちろん。ちょっとこの部屋は狭いから気をつけて」


 そう言って七王を召喚すると、一気に部屋が手狭てぜまになった。

 急に現れたインドラたちに、ジブスは少し驚いていたが、すぐに懐かしそうな顔になる。

 そんな彼に、アフィが話しかけた。


「久しぶりね、ジブス・カーマイン」

「これはこれは、光王こうおう様。相変わらずかわいらしいお姿ですな。しかし、昔よりも少々、ご立派になっておるようにも見えますが」

「よく気がついたわね。ワルドが私たちに名前を付けたことで、ちょっと大きくなったのよ。みんな14年前よりも、強くなってるわよ」

「それは実に頼もしい。これならば領民が殿下のご威光にひれ伏すこと、間違いありませんでしょう」


 その後も互いに情報を交換し、翌日のお披露目に備えて床に就いた。





 翌日の午後、市長の邸宅に15人の要人が集められた。

 それぞれ高級官僚や区長を務める者たちだ。

 俺たちが入場すると、部屋の中が少しざわついた。


「お待たせいたした、皆の者。こちらが亡きヴィレルハイト王の正統なる継嗣けいし、ワルデバルド殿下じゃ」


 ジブスの紹介に、多くの者が驚きの声を上げる。

 しかし、すぐに屈強な体格のエルフ男性が、市長に詰め寄った。


「市長、それはまことのことなのですか? エウレンディア王家の血は、14年前に途絶えたはずです」

「サイード、こんなことで嘘などつかん。殿下は14年前に、アハルド戦士長によって王城から救い出され、ガルドラ様の元で育てられたのだ」

「ならばなぜ、なぜ今まで隠されていたのでしょう? なぜ我々は、14年間も森の中に潜まねばならなかったのですか?」

「これ、落ち着かんか。もちろんそれには理由がある」


 サイードと呼ばれた男の迫力に、ジブスもタジタジだ。

 そこへ師匠が助け舟を出した。


「そこから先は私が話しましょう。全ては14年前の不意打ちで、七王の盾が失われたからなのです。ヴィレルハイト王の死によって盾は精霊界にかえり、時が来るまで眠り続けていました。ようやく先月、成人を迎えた殿下の前に、七王の盾が現れたのです」

「しかし、何も王子の存在を隠す必要は、なかったではありませんか!」

「仮に14年前、殿下の存在が公になっていたら、殿下を担ぎ上げて帝国に戦いを挑む者が、必ず現れたでしょう」


 師匠の冷静な指摘にも、サイードは一向にひるまない。


「それはそうでしょう。殿下の存在が知られていれば、我らは結束して帝国を押し返せたはずです」

「本当にそうでしょうか? 七王の盾を失い、さらに多くの戦士も失われた状態でそれができたとは、到底思えません」

「そ、それはやってみなければ分からなかったはずだ」

「そんないちかばちかの賭けに最後の希望を託すなど、到底できない相談です」


 ここで師匠は、サイード以外の出席者に向き直った。


「もちろん旧エウレンディア国民が、辛酸しんさんを舐めてきたのは理解しています。しかしそもそもエウレンディア王国は、七王の盾の加護によって作られた国です。それが盾を失い、戦力もすり減った状態で何ができたでしょう? 敵は帝国だけでなく、大魔境の魔物もいたのですよ。そのため殿下の生存を知っていたごく一部の者は、七王の盾を取り返すまで、全てを秘することで一致したのです」


 すると今度は、理知的な顔をした男が発言する。


「つまり、今ここに殿下が現れたということは、七王の盾を取り返したのですね?」

「そのとおり。お願いします、殿下」


 ようやく俺の出番が来たので、一歩前に出た。


「始めまして、皆さん。私がワルデバルド・アル・エウレンディアです。そしてこれがその盾と、七王です」


 ここで左腕の盾を展開し、七王を召喚した。

 きらめく光と共に現れた七王に、出席者がどよめきを上げる。

 さらにアフィがフワフワと俺の頭上に浮かび上がり、言葉を発した。


「久しきかな、エウレンディアの民よ。我が名は光王アプサラス。盾のあるじに光の加護と、精霊の叡智えいちを授ける者。七王の盾の力を解放した主、ワルデバルドは、かつてないほどの恵みを民にもたらすことを、ここに約そう」


 珍しく仰々しいアフィの言葉が、数瞬の間を持って人々の心に沁み込んでいく。

 やがてその意味を理解した人々の歓喜が、爆発した。


「おお、すばらしい。なんとすばらしい瞬間だろうか。この14年間、ずっと夢見ていた偉大な王が、とうとう我らの前に現れた。ワルデバルド殿下万歳!」

「「ワルデバルド殿下万歳!」」


 サイードの言葉に続いて、皆が万歳を斉唱する。

 そして1人、また1人とひざまずいていき、全員が臣下の礼を取った。

 最後にジブスが万感の思いを込め、こう言った。


「お帰りなさいませ、我らが王よ」

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