30.里帰り
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ダリウスを味方につけた俺たちは、町の中に拠点を移すことにした。
彼の管理する家を1軒紹介してもらい、皆で移り住んだのだ。
その作業を猫人族のリムルに手伝ってもらった際、ついでに彼女も一緒に住まないかと持ちかけた。
「えっ、私たちも住んでいいんですか?」
「ああ。リムルちゃんはかわいいから、またチンピラに絡まれるかもしれないだろ。せっかくじっちゃんの助手になったんだから、一緒に住んでもいいと思ってさ」
「えっ、かわいいだなんて、そんな……そんなこと言われたの、初めてですぅ……」
何気ないひと言に、リムルが顔を真っ赤にして固まってしまう。
そこへアニーが助け舟を出した。
「リムルちゃんがかわいいってのは、事実よ。それで広い家を手に入れたのはいいんだけど、私たちはちょくちょく出かける予定なの。その間、家を見てもらえる人が欲しいのね。お母さんも家事くらいはできるようになったと聞いてるんだけど、どうかしら?」
「ふぇ……は、はい。母さんは大丈夫です。ワルドさんのためなら、なんでもやりまっしゅ」
ぽーっとしていたリムルが我に返り、力強く請け負った。
これで家の管理人をゲットだ。
いずれ、俺の素性も話して、計画に協力してもらおう。
引っ越しが終わってから、俺たちは隠れ里へ戻ることにした。
「それじゃあ、これから師匠に会ってくるよ。じっちゃんはギルドの仕事をしながら、情報を集めててもらえる?」
「うむ、了解だ。ガルドラ様によろしくな」
普通なら隠れ里まで2週間ほど掛かるのだが、俺には鷲頭獅子という空の足がある。
ただし今のガルダでも、俺とアニー、レーネを乗せたらもう限界だ。
じっちゃんを乗せる余裕はないので、彼には旧王都で留守番してもらうことになった。
歩いて町を出てから、目立たない所でガルダに乗り、隠れ里へ向かう。
さすがにその速度はすばらしく、ちょくちょく現在位置や方向を確認しても、2刻足らずで隠れ里の近くへたどり着いた。
さすがに空から隠れ里の位置は分からないので、一旦降りて里を探す。
1刻ほど探し歩いて、ようやく隠れ里に到着した。
いつもならここで呪文を唱えるだけなのだが、今回はレーネがいる。
結界に登録されていない異邦人を中に入れるには、門番に許可をもらう必要があった。
そこでまず門番を呼ぶと、エルフの男性が出てきた。
「お前らか。今日はどうしたんだ?」
「このレーネって娘を入れたいんで、仮登録をお願いします」
「む……責任はお前らが持てよ。騒ぎを起こしたりしたら、里を追い出されることもあるからな」
「心得てますよ」
多少の説明は必要だったが、無事にレーネの仮登録は終わり、里へ入る。
その足で師匠の家へ赴いて扉を叩くと、中から涼やかな美貌のエルフが現れた。
「ずいぶん早かったですね。何かトラブルでもありましたか?」
「いやいや。ちゃ~んと目的を達成したから、その報告と相談にきたんだ」
そう言いながら左手の盾を叩いてみせると、師匠が眉を上げた。
「ふむ、とりあえず七王を召喚してもらえますか?」
「いいよ。出でよ、七王!」
俺の求めに応じて、アフィ、シヴァ、インドラ、ガルダ、ナーガ、ソーマ、アグニが姿を現した。
すると珍しいことに、師匠が大きく驚いた。
「ワルド、私の知っている七王よりもだいぶ大きいのですが、何かしましたか?」
「え? 別に特別なことなんて、してないけど」
すると訳知り顔で、アフィが説明をする。
「チッチッチ。迷宮攻略の過程で、けっこう鍛えたから成長したのよ。それからワルドが名前を付けたのも、けっこう効いてるかもしれないわね」
「……なるほど。それは興味深い話ですね。詳しく話を聞きたいので、入ってください」
その後、師匠の家の中に場所を移し、これまでの経緯を語った。
「なんと、ダリウス・コルベントまで味方に付けるとは、想像以上の成果ですね」
「やっぱり師匠も、ダリウスさんのこと知ってるんだ?」
「彼は王国屈指の豪商でしたからね。それにしても、彼が王都で同胞を救う活動をしていたとは……思わぬ僥倖でしたね」
「うん、俺たちのために拠点を用意してくれたし、今後もいろいろと協力してくれるって」
「それは何よりです……さてワルド、七王の盾を完成させたからには、今後どうするつもりですか?」
師匠が改まって問いを放つ。
それを彼に相談しにきたのだが、正直に言っては怒られる。
「うん、それなんだけどさ。いくら七王の盾が強力だからって、強大な帝国に挑むには分が悪いよね。だからまずは情報を集めつつ、同志を集めようと思うんだ」
すると師匠が嬉しそうに微笑んだ。
「七王の盾を手に入れても、増長してないようで安心しました。それだけでも王国再興の可能性が高まった、と言ってもいいくらいです」
「これぐらいで己惚れてなんか、いられないからね。それで、師匠の方の準備はどう?」
「一部に根回しを始めてますが、まだまだこれからです。ところでそちらのレーネさんは、どのような方ですか?」
「レーネは凄いんだぜ。アフィの勧めで、ダリウスさんから買ったんだけどさ――」
それからレーネを買い取った経緯を説明し、彼女が火魔術も使えることを話した。
「ふむ、彼女にはハイエルフの資質があるのですか? アフィさん」
「ええ、そうよ。ワルドやアニーと同じで、でっかい魔力を感じるの。たぶん、普通のエルフを遥かに凌ぐ才能を持ってるわ」
「そ、そんなことありません、私なんてハーフエルフだし、魔術も大して使えないから……」
「そんなことないよ。エルフの苦手な火魔術が使えるってだけで、凄いことなんだから。あ、そういえば師匠、俺も4属性の魔法が使えるようになったんだぜ」
自慢げに言ったら、師匠に軽くあしらわれた。
「七王の盾を完全に解放させたなら、それぐらい当たり前です。しかしレーネさんは興味深いですねえ。エルフには使えない魔術を使うのですか……試しに少し、見せてもらえませんか?」
満面の笑みで要望する師匠に逆らえず、レーネが魔術を披露することになった。
さすがに室内では危険なので、外へ出てから呪文の詠唱を始める。
「深淵なる霊界の炎よ、我が呼びかけに応え、現界に出でよ。我が意志に従いて、かの敵を打て。炎弾」
詠唱の完成と同時に、レーネが掲げた右手の前に火球が発生し、少し離れた岩に当たって砕けた。
たしかに精霊術よりもしょぼいが、自身の魔力だけで魔法を構成するとは、大したものだ。
それを見た師匠が、楽しそうに話しかける。
「いやいや、その小さいお体で、よくそれだけの魔術が行使できるものですね」
「魔術って、体の大きさに関係あるの?」
「ええ、魔術は精霊に頼らずに魔法を行使する分、多くの魔力を要するので、体が大きいほど有利だと言われています」
すると思い当たることがあったのか、レーネもうなずいていた。
「そういえば、私の父親に当たる男も、筋肉ムキムキの大男でした」
「そうでしょうね。ヒュマナスは魔術の才能があると分かった時点で体を鍛え始めるので、大抵の魔術師は戦士顔負けの大男なのですよ。もっとも、戦闘訓練まではしてないので、大して強くはありませんがね」
なるほど、ヒュマナスの魔法使いは大柄な筋肉野郎が多いのか。
しかしムキムキの魔法使いって、なんか怖いな。
そんな思いをよそに、師匠がレーネに問う。
「ところでレーネさんは、精霊術も使えるのですよね?」
「はい。火精霊と契約したので、一応は使えるようになってます。だけどまだ、うまく使えなくて……」
「すばらしい。精霊術と魔術を両立させる存在が現れるとは……私が知る限り、それを実現できたのは、あなたが初めてですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ、精霊術と魔術では、求められる資質が違いますからね。これは少し、研究してみる必要がありますね」
そう言って微笑む師匠の顔はまるで、獲物を見つけた狩人のようだった。