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29.祖国再興へ向けて

ブクマ、評価ありがとうございます。

 レーネを取り扱っていた奴隷商のダリウスは、エウレンディア屈指の豪商だった。

 かつての同胞を取り戻すため、孤独な戦いを続けていた彼が、俺と七王の盾の存在を知ると、感極まって泣きはじめた。

 しかしこれでは話が進まないので、じっちゃんが話を戻す。


「ゴホン、ダリウス。感動しているところ悪いが、話を先に進めたい」

「ウウウッ、申し訳ございません。あまりにも嬉しくて…………ちょっと顔を洗ってまいります」



 しばし席を外していた彼が戻ってくると、顔がさっぱりしていた。

 気を取り直した彼を交え、話を再開する。


「それで、今ここに殿下が現れたということは、王国再興に向かって動き出すと考えてよろしいのですね?」

「もちろんそのつもりです。ただし、俺は帝国のことをほとんど知らないし、旧王国民がどこにどうしているのかも知らない。そんな状態で再興なんて夢の夢だから、まずは情報を知りたいんです」

「なるほど、それで私の所へ。しかしあいにくと、私も1人の商人として同胞の行方を探っていた程度で、さほどの情報を持っているわけではございません」

「それでも俺たちよりはいろいろ知ってるでしょ。この町や、帝国の状況について教えてください」

「分かりました」


 それからポツポツと、ダリウスの口から現状が語られる。

 今現在、帝国軍は旧エウレンディア領から引き上げ、ほぼ自治状態にある。

 七王の盾が失われて精霊の祝福も受けられなくなったエウレンディア領には、それほど旨味うまみがないからだ。

 そのくせ人が住むには魔物が多すぎる。

 それぐらいだったら緩衝地帯として放置し、従来からの帝国領の守りに専念することになったらしい。


 おかげでこの平野部の人口は激減したが、10年ほど前から冒険者ギルドが進出してきた。

 これはダリウスが音頭を取って何人かの商人をまとめ、魔物素材の入手と引き換えに、出資を申し出たらしい。

 最初はこの旧王都で細々と始めたものだったが、やがて商売が大きくなり、他のいくつかの都市へも広がった。


 すると帝国もそれに興味を示し、行き場のない貧民を送り込んでくるようになったそうだ。

 開拓に失敗した領地の住民とか、都市のスラム街に住んでるような人たちだな。

 その際に冒険者ギルドを中心とした自治を勝ち取ったのも、ダリウスの暗躍によるものらしい。


 多少なりとも町が復活すると、森林地帯や他国に避難していた旧エウレンディア国民も戻ってきた。

 たとえ国はなくとも、やはり故郷がいいと思うのだろう。

 そんな人たちが冒険者として、ギルドの関係者として、都市に住み着いているらしい。

 こうして現在、この平野部には2万人ほどの人が暮らしているそうだ。


「なるほど。苦労されたんですね」

「いいえ、帝国に囚われた同胞に比べれば、私の苦労なぞいかほどのこともございません。しかし、しょせん一介の商人にできることなど、たかが知れています。正直、行き詰まりを感じていたのですが、殿下がいれば王国の再興も夢ではありません。ただちに兵を挙げましょう」


 まるで熱病に冒されたように、ダリウスが熱く語る。

 しかしちょっと浮かれすぎだ。


「待ってください。もちろん祖国の再興は目指すけど、それなりの準備が必要です。敵は1千万の人口を持つ帝国ですよ。奴らは6万の常備軍を持ち、その10倍もの兵を動員できるんです」

「しかし七王の盾さえあれば、昔のように精霊術師を多く揃えられるでしょう?」

「たしかにその可能性は高いけど、精霊術だけで戦争はできませんよ。滅亡前のエウレンディア王国は1万の常備軍と、やはり10倍近い予備兵力を持っていたんです。もし国を取り返すにしても、最低限それくらいの兵力が必要だ。しかもそれなりに訓練された兵がね」

「なるほど、私は軍事にはとんと無縁ですが、殿下のおっしゃることも、ごもっともなお話です。しかし、隠れ里に住みながら、それだけの見識をお持ちとはこのダリウス、感服致しました。やはりアハルド様の教えでしょうか?」

「いや、じっちゃんからは剣術と森で生き抜く技術を学んだんだ。軍学とか地理なんかは、師匠に叩き込まれたのかな」


 里の長であるガルドラ師匠からは、いろんなことを勉強させられた。

 それは遊び盛りの子供にとってはかなりの苦行だったのだが、このことを見越していたと聞けば納得もできる。


「おお、隠れ里にそのような賢者がおられたのですか? その方のお名前は?」

「ガルドラ師匠だよ」

「ガルドラ?……まさか賢者ガルドラ様ですか?」


 俺は知らなかったので、じっちゃんを仰ぎ見る。


「そうだ。ガルドラ様はエルフ最高の頭脳であり、賢者とも呼ばれていた」


 じっちゃんの話によると、師匠は王国の政治にも関わっていたほどの重要人物だったらしい。

 そして前王が進めていた単人族ヒュマナスとの融和政策に、警鐘を鳴らしていたそうだ。

 結果、理想主義の前王と政策論争で対立し、城をわれたのだが、万一を見越して王族の逃走経路を準備していたんだとか。

 じっちゃんが傷だらけになりながらも、俺を抱えて隠れ里に逃げおおせたのは、ただの幸運じゃなかったんだって。


「なるほど。ガルドラ様がおられるのであれば、実に心強いですな」

「まあそうなんだけど、現状は七王の盾を手に入れただけで、何の方策も立っていないのが実状なんだよね」

「それもそうですな。ならば今後、どう動かれるのですか?」

「まずは隠れ里へ戻って、師匠と相談します。その間、ダリウスさんには、情報収集をお願いしていいですか?」


 するとダリウスが身を乗り出してきた。


「具体的には、どのような情報をお求めで?」

「まず国境付近に駐留しているという帝国軍の状況ですね。兵力、指揮官の情報、補給状態など、なんでもいいです。それから帝国の内情と周辺国との関係とかも、知りたいな。あとは旧王国民で奴隷にされてる人たちの情報かな」

「なるほど。実は私には2人の息子がおりまして、ヴィッタイトと都市同盟で店を持っています。彼らを呼び戻せば、帝国や周辺国の情報が入手できますし、こちらでの諜報活動にも使えます。ただし呼び戻すにしても、少々時間が掛かりますな……」

「それなら紹介状を準備しておいてください。俺が直接おもむいて、聞くようにするから」

「直接行くにしても、時間は掛かると思いますが?」


 怪訝そうに聞くダリウスに対し、俺は上を指差しながら答える。


「俺は七王の力で、空を飛べるんです。それなら、よほど速いでしょう?」

「なるほど。それでしたら紹介状を準備しておきます。私の方でも、すぐに情報集めに入りましょう」

「お願いします。ちなみに今この辺で稼げる商品は何か、分かりますか?」


 するとダリウスは考えながら言葉を紡ぐ。


「そうですな……最近は強い魔物が増えているので、外に出られる冒険者が減って、一部の素材が高騰気味だと聞いたことがあります」

「その高騰している素材ってのを調べてもらえませんか。可能であれば俺たちが供給して、資金を稼ぎたいと思います」

「なるほど、資金は重要ですな」

「ええ、何をするにしても資金は必要だから、情報収集と並行してやりましょう」

「ワルド、その魔物狩りは私がやろう。お前はガルドラ様に会ってこい」

「うん、分かった。そっちはじっちゃんに任せるよ」


 まだやることばかりだけど、これでまた1歩、祖国再興に近づいたな。

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