27.火王召喚
レーネが精霊術を使えるようになったので、最後の打ち合わせをした。
「それでアフィ、どうすればあのドラゴンを倒せるんだ?」
「簡単に言うと、アニーとレーネが4大属性の力を盾に注ぐことで、盾が強化できるの。その力をもってすれば、ドラゴンにも太刀打ちできるはずよ」
するとアニーが、不安そうな顔で聞き返す。
「属性の力って、何? そんなやり方、私、知らないんだけど……」
「心配しなくても大丈夫よ。アニーは契約している地、水、風の3精霊に、レーネは火の精霊にお願いすれば、勝手にやってくれるわ。精霊にとって七王の盾に力を注ぐことは、光栄なことだから」
「ふ~ん、それなら大丈夫かしら」
「お願いするだけなら、なんとかなると思う」
2人がホッとした顔をする。
「お願いの代償に魔力は捧げてもらうけど、そんなに大したことないはずよ……たぶん」
「ちょっと待った、アフィ。今、何かごまかしたよな? 本当は大変なんじゃないのか?」
アフィが怪しい言い方をしたので、問い詰める。
すると彼女は肩をすくめながら、開き直った。
「そんなのよく分かんないわよ。昔と今とじゃ、状況が違うんだから。だけどこれは絶対に必要なことだから、がんばってとしか言えないわ。少なくとも、死ぬようなことはないはずよ」
「そんな無責任な……」
「大丈夫よ、ワルド。私たち、やるわ」
「うん、そして王国を取り戻そうよ」
2人がやる気なので、それ以上の追及はおくことにする。
「ハァ……分かった。アニーもレーネも、よろしく頼むよ。それで、俺はどうすればいいんだ? 強化した盾を、どう使う?」
「もちろんワルドだって大変よ。まずは盾の力で、七王を強化するの」
アフィの説明によれば、七王の盾は全ての属性を得た時点で大きく強化されるらしい。
そしてその影響は七王にも及び、彼らも強化される。
その力をもってすれば、ドラゴンにも太刀打ちできるだろうって話だ。
ただし、火王が解放される前の不完全な盾の維持には、膨大な魔力が必要となる。
そのために俺とアニー、レーネは盾に魔力を注ぎ続け、その間にインドラ、ガルダ、ナーガ、ソーマに攻撃をさせる。
そしてシヴァとアフィは光と闇の属性を供給しつつ、俺たちを守る盾になるそうだ。
「なるほど。それならなんとかなるか……よし、みんなで一丸となって、火王を解放しようぜ!」
「ええ、やりましょう」
「私もがんばる」
「カカカッ」
インドラたちもやる気になっているので、なんとかなるだろう。
今日こそ火王を解放するのだ。
探索の準備が整うと、すぐに迷宮の6層に入る。
ちょこちょこ出てくる火炎鳥や火炎小竜を倒しながら、俺たちは奥へ進んだ。
やがてボス部屋の前にたどり着いた。
「それじゃあワルド、盾を展開してちょうだい。アニーとレーネは盾に属性を供給して」
「了解」
「ええ、分かったわ」
「うん」
俺が盾を展開すると、アニーとレーネがその上に手を伸ばす。
そのまま彼女たちは目をつむり、精神を集中させた。
やがて盾に変化が訪れる。
「おおっ!」
それまでつやのない鉄色だった盾が、黄金の輝きを放ちはじめたのだ。
それと同時に、盾が力強く鼓動するような感覚があった。
そのまま七王とのつながりを意識すると、彼らにも変化が現れた。
シヴァはひと回り体が大きくなり、骨が太くなった。
インドラ、ガルダ、ソーマもそれぞれ牛を凌ぐほどの大きさになり、力強さが増している。
そしてナーガも何倍も体が大きくなり、全長が大人の5人分ぐらいにもなった。
「うわあ、凄いな、これ」
「そうでしょ? これが本来の七王よ。みんなで力を合わせれば、火王も解放できるはずだわ」
俺のつぶやきに、アフィが自慢げに答える。
たしかにこれならいけるかもしれない。
「よし、それじゃあ、いよいよドラゴンに挑むか」
「ええ、みんなで火王を解放しましょ」
「私もがんばる。でもこれは、ワルドのためじゃないんだからね」
素直になれないレーネに苦笑しつつ、俺は扉に手を当てた。
扉が開くと一旦後ろに下がり、インドラ、ガルダ、ソーマ、ナーガを先に部屋へ入れる。
さらにシヴァを先頭にして俺たちが侵入すると、部屋の中が明るくなってドラゴンが現れた。
部屋の中央に立ってこちらをねめつけるドラゴンは、俺たちを待ち受けていたかのようだ。
「グルルラァァァァァァーーーーーッ!!」
すさまじい咆哮の直後、またもやドラゴンがブレスの体勢に入る。
俺はシヴァの指示に従い、彼の背中に左手を当てた。
「シヴァ、頼む」
「カカカッ」
次の瞬間、シヴァが持つ盾を中心に半透明の障壁が発生し、俺たちの周りを覆った。
これぞ闇魔法による鉄壁の防御陣、”闇堅殻”だ。
それはちょっと後に押し寄せたドラゴンのブレスをものともせず、全て防いでみせた。
ただしそれなりの代償もある。
「クウーーッ、たった1発で、だいぶ魔力を持ってかれたぞ~」
「大丈夫? ワルド。私たちも協力するから」
「ああ、頼むよ。盾に魔力を供給してくれ」
「分かったわ」
アニーとレーネが七王の盾に触れると、彼女たちから魔力が流れ込んでくる。
さすが、アフィが見込んだ2人だけあって、膨大な魔力が感じられた。
少し余裕ができた俺は、インドラたちに攻撃を指示する。
「それじゃあみんな、攻撃だ」
「グルルルル」
「クエーーッ」
「グググッ」
「シャーーッ」
インドラはすばやく駆け寄り、ドラゴンの体に爪を立てんとする。
ガルダは空中へ舞い上がり、敵の頭部の周りを飛び回って攻撃を放つ。
ソーマは即座に地中へ潜り、しばしば顔を出してはドラゴンに攻撃を仕掛けていた。
そしてナーガは適当に距離を取りつつも、適度に動きながら水刃をお見舞いしている。
そんな彼らの攻撃に翻弄され、ドラゴンの攻撃はほとんどこちらへ向かなかった。
おかげで魔力も浪費せず、彼らの指揮を執ることができた。
連携を活かすように念話で指示を出してやると、インドラたちは嬉々としてドラゴンに向かっていった。
しかしいかに彼らが大きくなったとはいえ、ドラゴンがでかすぎて決定打にはならない。
その姿はまるで、親にじゃれる子猫状態だ。
それでも交互に攻撃を仕掛けることにより、ドラゴンのダメージは蓄積していった。
やがてへばったドラゴンが、壁際に追い詰められるまでになる。
「アニー、今だ。俺たちと同調して、特大の水魔法を叩き込んでくれ」
「分かったわ」
俺とナーガの間の同調を強め、さらにそこへアニーの魔力を上乗せする。
やがてアニーの呪文詠唱が完了した。
『極大氷飛槍!』
ナーガの正面に発生した氷の槍は、通常の5倍はでかいものだった。
それが目にも止まらないスピードで、ドラゴンに撃ち出される。
「グボウーーーッ!」
それは見事にドラゴンの心臓を貫き、たったの一撃でとどめを刺した。
地響きを立てて崩れ落ちたドラゴンの体は霞となり、大きな魔法陣が発生する。
まばゆい光の治まった後に現れたそれは……
「グルルルル……」
それは今までのような幼体ではなく、先ほどのドラゴンの形を取っていた。
ただしさすがにさっきまでの大きさはなく、牛2頭分ほどの大きさだ。
俺はシヴァのシールドを解除させると、それに近寄って話しかけた。
「お前が火王か?」
すると頭の中に誰かの声が響く。
(お初にお目に掛かる、我らが主よ。我が名は火王。永きに亘って、主の来訪をお待ちしていた)
「これは、念話?」
「そうよ、ワルド。全ての王を解放すると、念話が使えるようになるの。それより、火王にも名前を付けてあげたら」
アフィが状況説明をしつつ、名づけを求めてきた。
まあ、いつものことだな。
”アグニ”
そう思った瞬間、またいつもの声が聞こえた。
それはとてもしっくりくる名前だったので、そのまま声に出す。
「アグニ。お前は火王アグニだ」
(すばらしい名に感謝を)
こうして俺は、七王の解放に成功したのだ。