3.現れた妖精
翌日も俺は、独りで狩りに出かけた。
じっちゃんは何やら用があるそうだ。
そうでなければ一緒に狩りに出て、大物狙いも可能なんだけどな。
こう見えても俺は、じっちゃんの弟子だけあって狩りの腕は良い。
なんてったって、鍛えられたからな。
5歳になったぐらいから毎日、体力作りや剣、弓の訓練に明け暮れた。
ぶっちゃけ、あそこまでやる必要があったのかと、今では思う。
ぶっ倒れるまで走らされたり、木剣で気絶するまで打ち据えられたりもしたなあ。
あれって傍から見たら、完全に幼児虐待だよな。
いかん、ちょっと涙が出てきた。
しかしそのおかげで俺は、単独で狩りに出ることを許されるほどの男になった。
しかも魔法による強化なしでだ。
これってけっこう凄いことなんだぜ。
じっちゃんみたいな獣人種とは違って、エルフは魔法なしだと本当に弱いんだ。
わりと小さい頃から魔法が使えるから、なんでも魔法に頼っちまう。
たとえ生活魔法といえど、うまく使えば肉体を強化できるし、攻撃にも応用できる。
そういう生活に慣れてるから、多くのエルフの体格は貧弱で、持久力もないのだ。
そんなことを考えながら俺は森を駆け巡り、早々に獲物を仕留めた。
今日はウサギが3羽だ。
俺が期待されてる量には十分なので、また休憩を取ることにした。
いつもの木に登り、お気に入りの枝の上に寝転がる。
この場所は下からは見にくいが上はちょっと開けていて、絶好の休憩場所だ。
精霊幻獣のカルが俺に気づくと、近くに寄ってきた。
俺はしばしカルと戯れながら、のんびりと過ごしていた。
そのうちふと気配を感じたので、上に目を向ける。
すると何か、動くものがあった。
「うんしょ、うんしょ」
俺が休んでいる枝の少し上に、ちょっとした穴が開いていて、その中に何かがいるようだ。
リス、じゃないよな。
カルみたいなカーバンクルか?
やがてその生き物が、小さな顔をのぞかせた。
そしてバッチリと目が合う。
「……」
「……」
そいつはリスでもカーバンクルでもなく、少女の顔をしていた。
ただしそのサイズは小さくて、俺の親指ぐらいしかない。
その小さな顔と、しばし見つめ合う。
髪の毛は水色で、瞳の色は金。
よく見えないが、かわいい顔をしているように思う。
そんなことを考えていたら、そいつが口を開いた。
「あなたはだ~れ?」
「うわ、喋った。なんだ、お前?」
思わず口走った言葉に、明らかに少女は気分を悪くした。
「失礼ね。喋ったら何がいけないのよ」
「い、いや……まあ、別に悪くはないな」
「そうでしょ。それで、あなたは誰?」
「俺か?……俺は、ワルドっていうんだ」
「ふ~ん……」
するとその少女は穴から飛び出し、宙に浮かんで飛んできた。
そいつの背中にはトンボみたいな羽が生えていて、それを羽ばたいているのだ。
たしか、フェアリー種っていう妖精に似てるな。
そいつは俺の周りを回りながら、何やら品定めをしているようだった。
挙句の果てには、クンクンと俺の臭いを嗅ぎはじめる。
「な、なんだよ。お前こそ一体、なんなんだ?」
「私?……私はねえ、光王と呼ばれてるわ」
「こうおう? 何だ、それ?」
「え~っ、あんたそれ、マジで言ってるの?」
妖精が顔をしかめて、憤慨する。
その妖精は体に青いミニドレスをまとい、慎ましく膨らんだ胸が女を主張している。
ただし身長は俺の前腕ぐらいしかないから、人形と話をしているような気分だ。
だから険しい顔で迫られても、あまり怖くない。
「知らないものは知らないよ。それにしても妖精がこんなとこにいるなんて、珍しいな。何か用でもあるのか?」
「えっ、まあね。実は私、人を探してるの。私の主になる人をね」
「へ~っ。妖精と契約できるだなんて、羨ましいな。どんな人なんだ?」
妖精ってのは、幸運の象徴と呼ばれる存在だ。
もしそんな存在と契約できたら、俺の運も開けて、さぞかし楽しく生きられそうだ。
しかし妖精は俺の言葉に、またもや憤慨する。
「ちょっと。私をその辺の妖精と一緒にしないでよね。こう見えても高位精霊なんだから。精霊王に匹敵するくらいなのよ」
「……そ、そうなのか? でも精霊王って、本当に最強クラスの精霊だろ。七王がいなくなった今、そんなのがいるなんて、信じられないぞ」
「それよっ!」
ズビシッという音がしそうな勢いで、妖精が指を突き出した。
そして、”いいことを言った”みたいな顔で胸を張り、こう言った
「フフフ~ン……私こそが、その七王なのよ!」
「はあっ?」
何言ってんだ、こいつ?
頭、大丈夫か?