24.ハーフエルフの少女1
「火魔法使いが要るって、なんでだよ?」
「んーとね、全ての属性を揃えると七王の盾が強化されるの。それをしておかないと、さっきのシヴァみたいに瞬殺されちゃうのよね~」
「火王を解放するのに火属性が必要だなんて、おかしいじゃないか? 火王を倒さなきゃ属性は手に入らないんだぞ」
「そんなの私に言ってもしょうがないわよ。初代エウレンディア王は最初から火魔法使いを連れてたから、問題にならなかったみたいだし」
「マジか? 初代王は何人の供がいたんだよ?」
「たしか3人ね」
「ハイエルフが3人もいるなんて、ずりーよ」
「千年も前だから、まだハイエルフも多かったのよ」
衝撃の事実。
初代エウレンディア王、メチャクチャ恵まれてるじゃん。
「他にハイエルフの素質があるのって、師匠ぐらいしかいないよな? 今から呼びに行くか?」
「ダメよ、ワルド。お師様は地、水、風の3属性しか使えないわ。私たちエルフは火属性と相性が悪いから、私も難しいと思う」
「八方塞がりじゃないか……」
師匠の呼び出しは、即座にアニーに否定された。
しかもアニーも火属性は難しいときた。
たしかにエルフが火属性とは相性が悪いってのは、俺も聞いたことがある。
下位精霊を使う生活魔法ならいざ知らず、上位の精霊と契約したエルフはいないって話だ。
結局、その場で悩んでいても仕方なかったので、地上へ戻ることにした。
外に出るとじっちゃんが出迎えてくれたが、俺たちの顔を見て何かあったのを察したようだ。
「何かあったのか? ワルド」
「うん、致命的な問題が判明したんだ」
ドラゴンと初代エウレンディア王の話をしたら、じっちゃんもひどく難しい顔になった。
火魔法を使うハイエルフ、というあり得ない存在が必要とあっては、誰もが頭を抱えてしまう。
皆が言葉を失い、しばし沈黙が訪れた。
そんな雰囲気を断ち切ったのは、アフィの能天気な声だった。
「まあまあ、こんなとこで悩んでいても仕方ないわよ。私もまた何か思いだすかもしれないから、気分転換に町をぶらついてみない?」
「それもそうだな。まだ日も高いし、出かけてみるか」
特に異論もなかったので、皆でアフィの提案に乗ることにした。
せっかくなので足りない雑貨類を買おうと、商店の並ぶ区画へ足を運ぶ。
ぶらぶらと街路を歩きながら、気になる店をのぞき、買い物をする。
そうするうちにふと、ある店の看板が目についた。
「奴隷商、か。こんな店があったんだな」
するとじっちゃんがこの町の事情を教えてくれた。
「荷運びや雑用係として、冒険者に需要があるのだ。大きな町に比べれば、質も悪くて安い奴隷ばかりだがな」
「へー、そんなもんなんだ。しかし奴隷売買なんて、決していい印象はしないなあ」
「たしかに契約で強制的に隷属させるなぞ、本来あってはならないことだ。しかし借金や犯罪の代償として、奴隷に身を落とす者がいるのもまた事実。それなりに需要もあるからな」
「そうだね。世の中がそれで回ってるんなら、仕方ないのかな。いずれにしろ俺には、関係なさそうだけど」
すると盾の中に引っ込んでいたアフィが、急に飛び出してきた。
「ワルド、ワルド、この店から何か感じるわ。なんかアニーみたいな人が、もう1人いるような感じ」
「それって、ハイエルフってこと? この町の、しかも奴隷商にそんなのがいるとは、とても思えないけどな」
「私もよく分からないけど、確かめてみる価値はあるわ。とりあえず入ってみましょ」
とりあえず、アフィが見えていないじっちゃんに事情を話すと、彼も同意してくれたので奴隷商をのぞくことになった。
3人で店へ入ると、年配のエルフ男性に迎えられる。
「当商会へようこそ。私はこの店の主で、ダリウスと申します。以後お見知りおきを」
なぜかその男性を見て、じっちゃんが驚いていたが、気を取り直して話をする。
「よろしく。実は狩りに行く時の荷物持ちを探しています。とりあえずひととおり、見せてもらえないですかね」
「かしこまりました。それではこちらへ」
すぐに応接間へ通されてしばらく待っていると、別の店員が5人の奴隷を連れてきた。
「こちらが比較的、力があり、荷物持ちに適していると思われる商品です」
彼らは狼人族の女、山人族の男、狐人族の男、猫人族の男、ドワーフの女だった。
それなりに力はありそうな人たちばかりだが、全て金貨50枚以上と、とても手が出る値段ではない。
そこでもっと安いのを見せてくれと頼むと、新たに5人が連れてこられた。
新たな5人はリンクスの男子と女子、フォクサスの男子、ドワーフの女子、そして闇森人族の女子だった。
どの子も12歳を超えていないような見た目で、おどおどしている。
しかしそんな中でダークエルフの子だけは、わりと落ち着いてるように見えた。
褐色の肌に、肩に掛かるほどの銀髪。
ただしエルフにしては耳が短いので、ハーフかもしれない。
そんな彼女はスタイルは良いのだが、目が前髪で隠れていて、顔中にソバカスがある。
それはわざと見栄えを悪くしているようで、どこか気になった。
試しに彼女の値段を尋ねてみる。
「そのダークエルフの子はいくらですか?」
「金貨10枚になります」
店に入る前にじっちゃんに聞いた相場は、そこそこ健康な大人で金貨50枚から、子供なら20枚かららしい。
その話からすると、かなり安い。
「思ったよりも安いですね。なんでそんなに安いんですか?」
「ダークエルフのハーフ、しかも体が弱いとなると、こんなものですよ」
「ハーフエルフで体が弱いんですか……」
そんなやり取りをしていると、アフィが俺の横に来てささやいた。
「ワルド、あのダークエルフ、私が見えてるわよ」
それを聞いて思わずダークエルフを凝視してしまったが、さすがにアフィに話しかけるのは控えた。
もしも彼女にアフィが見えているのだとしたら、彼女こそがハイエルフの素質を持つ者だ。
「すみません。あのダークエルフの子と、話したいんですけど」
「はい。他の子はどうですか?」
「彼女だけでいいです」
そう言うと、店員は他の奴隷を連れて出ていってしまった。
どうやら気を利かせてくれたらしい。
俺はダークエルフの子を呼び寄せ、話しかけた。
「君の名前は?」
「レーネリア、です」
「ふーん、レーネリアか。ところで君、ここにいる妖精が見えてたりする?」
「!」
レーネリアは一瞬だけビクッとしたものの、素直に答えてきた。
「ええ、見えてます。お客様も見えてるんですね。契約してるんですか?」
「まあ、そんなところ。ところで君、魔法を使えたりするの?」
今度は少しだけ迷ってから、また口を開いた。
「単人族の使う魔術を少しだけ。もっとも力が弱すぎて、使い物にならないと言われましたけど」
「へー、ダークエルフが魔術を? 珍しいね」
「でも、適性がないみたいです」
「フーン……ところで、火魔法は使える?」
またちょっとためらってから、彼女が答えた。
「ええ、逆に言えば火魔法しか使えませんけど」
ウホッ、ひょっとして、必要な人材が見つかった?




