22.土王召喚
無事に水王ナーガの解放に成功した俺たちは、意気揚々と地上へ戻ってきた。
ちょうどじっちゃんも拠点へ戻ってきていたので、さっそく報告する。
「じっちゃん、とうとう水王も解放したよ」
「おおっ、そうかそうか。順調なようで、儂も嬉しいぞ」
ついでに習得したばかりの水魔法も披露すると、我がことのように喜んでくれた。
俺が着実に力を付けているのが、とても嬉しいんだそうだ。
種族こそ違え、俺とじっちゃんは家族として暮らしてきた。
たとえ血がつながっていなくとも、こんな家族を持つ俺はまだ幸せなのだろう。
翌日はナーガの実力を見るため、第4階層へ潜った。
彼女を育成しつつ、連携を高めるのが目的だ。
ちなみにナーガはインドラやガルダと違って、召喚するといつも俺にべったりだ。
蛇だからあまり早く動けないのかもしれないが、移動する時は常に俺の左腕に巻きついている。
まあ、別に重くもないからいいのだが、こんなので戦えるのかと、少々心配していた。
しかしそんな思いは全くの杞憂で、彼女は予想外に有能だった。
最初に敵が出てきた時、なんとなく左腕を前に出せと言われた気がしたので、手を前に突き出した。
するとナーガは手首辺りまで移動して、口から細い水の筋を吐き出したのだ。
それはまるで俺の左手から水の刃が出ているようで、実際にそれはトカゲ魔物を切り裂いてみせた。
ナーガが作り出す水の刃はもちろん魔法の一種で、とても細くて強いものだ。
俺が”水刃”と唱えれば、彼女の口から放たれた水が、敵にダメージを与える。
それは4層深部の大蛇にも有効で、ずいぶんと狩りがしやすくなった。
おかげで大量の魔石を手に入れ、貴重な訓練を積むこともできたのだ。
魔石は冒険者ギルドで売れるので、けっこうな収入源となっている。
ナーガの能力が思った以上に高いことが分かったので、翌日から第5階層に挑戦した。
5層で真っ先に出てきたのは、俺の背丈よりも大きなミミズだった。
そいつは自由に地中を動き回り、突如顔を出して牙をむくのだ。
しかし大して防御力が高くないので、インドラやガルダでさえ、あっさりと倒すことができた。
さらに水に弱い性質があるらしく、アニーの簡単な水魔法でも倒すことができる。
もちろんナーガの水刃に掛かればイチコロだ。
俺はほとんど動くこともなく、左手を振るだけで倒すことができた。
ナーガさん、マジ有能。
そう言ってやったら、彼女は嬉しそうに舌を出し入れしていた。
狩りが順調に進んだので、翌日には5層の深部へ侵入する。
そこで出てきたのは、イノシシほどもある巨大なモグラだった。
そんな奴が2匹も3匹も、同時に出てくるのだ。
しかもミミズにはあれほど有効だった水魔法が、なぜかそれほど効かない。
ナーガの水刃ですら、でかモグラには通じなかったのだ。
どうやら分厚い毛皮に阻まれているらしい。
仕方ないので泥臭く敵を倒していくことになった。
幸いなことにさほど動きは速くないので、対処はそれほど難しくない。
しかも多数の魔物を狩ったため、インドラとガルダも成長していた。
インドラはすでに狼ほどの体格になっているし、ガルダもそれに準じる大きさだ。
インドラが首に食いつけば、でかモグラもあっさりご臨終だし、ガルダのクチバシと爪も凶暴だ。
そんな彼らが敵を引きつけている間に、俺とシヴァで攻撃すれば、モグラなど大した敵でなかった。
少々時間は掛かったが、それなりの魔石と経験を手に入れ、いよいよボス部屋の前にたどり着いた。
「それじゃ、行こうか」
「任せて」
「カカカッ」
「ニャ~ン」
「クエ~」
「シャ~」
部屋の中で待ち受けていたのは、やはり巨大なモグラだった。
ただし大きさは今までより遥かにでかく、牛の倍ぐらいある。
そんなボスモグラが、ギロリとこちらをにらんできた。
そして次の瞬間には前足で地面をかき始めたと思ったら、あっという間に潜り込んでしまった。
俺たちは地下を警戒しながら、敵の攻撃に備える。
そのうち足元に、わずかな振動を感じた。
「来たぞっ!」
そう言ってジャンプするやいなや、俺が立っていた地面が割れてボスモグラが顔を出した。
その口が俺の足を食いちぎらんと、ガチンと閉じられる。
狂暴なその口には俺の指ほどもある牙がズラリと並び、その足にはナイフのような爪が生えている。
ここでボスモグラの後ろにいたシヴァが剣で斬りつけると、カチンといって弾かれた。
さらにインドラやガルダも攻撃するが、まるで歯が立たない。
俺は左手を突き出しながら唱えた。
「水刃っ!」
ナーガの口から伸びた水刃が、ボスモグラの腹部に命中する。
しかし外のでかモグラにさえ通じなかった攻撃が、ボスに通じるはずもない。
それはわずかに敵の毛を散らし、いらつかせたに過ぎなかった。
なんのダメージも負わないまま、ボスモグラは再び地面に潜る。
その後も敵は何度も地下からの襲撃を繰り返し、俺たちを害そうとしてきた。
しかし、やがて俺たちも敵の攻撃パターンを理解し、適当にさばきながら引きつけつつあった。
そして決定的な一撃が、放たれる。
『我は水精に願う、慈悲深き水の力よ、凍てつく槍となりてかの敵を貫きたまえ。氷飛槍』
アニー渾身の魔法が、深々とボスモグラを貫いた。
大ダメージを負った奴にはすでに強固な防御力もなく、その後の総攻撃で息絶える。
そして遺骸の後に現れた魔法陣から出てきたのは……
「ギュー」
ちっちゃいモグラだった。
「うわ~……これって外で戦えんのか?」
「ちゃんと成長すれば大丈夫よ。とりあえずこの子にも名前をつけてあげなさいな」
「本当か? とりあえずこいつの名前は……」
”ソーマ”
ソーマ、か。
いいだろう。
「それじゃあ、お前の名前はソーマ。土王ソーマだ!」
「ギュー」
名前をつけた途端、いつものように魔力がごっそり持っていかれる。
眩暈が治まって前を見ると、太った猫ぐらいに大きくなったモグラがいた。
なんとなく彼を抱き上げてやると、フンフンと俺の臭いを嗅いでから、ペロペロ舐めてきた。
これはこれで、けっこうかわいいかもしれない。
「よろしくって言ってるわよ」
「そうか、こちらこそよろしくな、ソーマ」
「ギュー」
頭を撫でてやると、ソーマが気持ち良さそうに鼻をうごめかした。
モグラって、ギューって鳴くんだな。
まあ、普通のモグラも一緒とは限らないか。
いずれにしても、残すは火王だけだな。