21.水王召喚
ようやくまともな精霊術を使えるようになった俺は、しばし第3階層で訓練を積んだ。
おかげで風魔法もそこそこ使えるようになり、ガルダも少し成長している。
これで戦力は整ったので、いよいよ第4階層へ足を踏み込んだ。
「出たわよ、ワルド」
「了解。『風裂斬』」
第4階層で現れたのは、トカゲ型の魔物だった。
俺の背丈より少し小さいぐらいの全長のトカゲが、ワシャワシャと寄ってくるのはちょっと怖い。
しかしどれも大した強さではなく、俺の魔法でダメージを与えてから、シヴァ、インドラ、ガルダがとどめを刺す形で進んだ。
これも七王の盾を持つ俺ならではの攻略法なんだが、出番のないアニーがちょっと不満そうだ。
そんな彼女をなだめながら奥へ進むと、今度は巨大な蛇が出てきた。
その長大な蛇体は、俺の4人分はあろうか。
そんな奴がふいに現れ、ニョロニョロと這い寄ってきたのだ。
「キャーッ、いや~っ! 『我は土精に願う、偉大なる大地の力よ、我が槍となりてかの敵を貫きたまえ。石飛槍』」
その大蛇を見るやいなや、狂乱したアニーが石の槍をぶっぱなした。
速攻で頭をつぶされた大蛇が、霞のように消え去る。
俺たちが介入する暇もないほどの早業だ。
その後も彼女の大活躍は続いたが、途中で魔力切れになったのはご愛敬ってところだ。
しかし俺と七王も加わって、着実に4層を踏破していった。
そしてとうとう俺たちは、ボス部屋の前に到達した。
しばし休憩を取って踏み込んだ部屋の中には、予想どおりに大蛇がいた。
全身が真っ白で、長さは俺の6人分はあろうかという巨大な蛇だ。
そんな大蛇がとぐろを巻いて、俺たちをにらみつけている。
チロチロと舌を出しながらこちらを窺い、力量を測っているかのようだ。
そんな敵に対し、俺とシヴァが盾を構えて前に出る。
インドラとガルダも横に回り込んで、敵を牽制してくれる。
ジリジリと距離を詰めていくと、ふいに大蛇が動いた。
次の瞬間、鞭のようにしなった尻尾が、シヴァに叩きつけられた。
それをもろに盾で受けたシヴァは、腕こそ折れなかったが、ダメージは受けたようだ。
さらに次の瞬間には、こっちにも尻尾が飛んできた。
「グウッ」
七王の盾ごしに、大きな衝撃が伝わってきた。
盾の性能のせいかそれほどのダメージはないが、これでは俺も下手に動けない。
「ニャーッ!」
「クエーッ!」
そんな俺をサポートするため、インドラとガルダが大蛇に攻撃を仕掛けていた。
その攻撃はほとんど通じていないが、敵の注意が逸れるだけでもありがたい。
その隙に俺はシヴァを送還し、すぐさま再召喚する。
こうするとわずかとはいえ、治癒効果があるらしいのだ。
実際にまた動けるようになったシヴァが、俺と共に攻撃に出る。
あいにくと俺たちの剣も大蛇のウロコに弾かれてしまい、ほとんどダメージは与えられない。
そこでインドラとガルダの協力も得て、俺たちは敵の注意を引きつける作戦に徹した。
そこへアニー渾身の魔法が放たれる。
『石飛槍』
背後から飛来した石の槍が、大蛇に突き刺さる。
それはかつてないダメージを大蛇に与え、動きを鈍らせた。
一気に弱ったように見える大蛇に剣を振り下ろすと、今度は刃が食い込んだ。
どうやら傷を負ってから、防御力が落ちたようだ。
ここぞとばかりに攻撃を仕掛けたら、大蛇がキレて暴れ始めた。
再び防戦に追い込まれつつも耐えていると、またもやアニーの魔法が炸裂する。
『2石尖杭』
突如、地面から生えた2本の杭が、大蛇の体を貫いた。
それでもなおもがく大蛇に、俺たちも総攻撃だ。
そしてとうとうその頭に剣を突き立てると、ようやく大蛇は力尽き、霞となって消え去った。
いつものように魔法陣と召喚光が発生し、その後に現れたのは……
「シャー」
小さな白蛇だった。
長さは俺の腕より少し短いくらいで、頭は俺の親指くらいしかない。
あまりのしょぼさに、脱力感に襲われる。
「おいおい、あれほどの激戦を勝ち抜いた結果がこれかよ? ちょっとひどくねえ?」
「ぜいたく言わないの。また名前つけてあげなさいよ」
「ハアッ、そうだな……お前はどんな名前がいい?」
白蛇と目を合わせながら問うと、また例の声が聞こえてきた。
”ナーガ”
ナーガ、か。
うん、いいだろう。
「それじゃあ、お前の名前はナーガ、水王ナーガだ!」
そう名づけるといつものように魔力が奪われ、しばしの眩暈に耐える。
気がつくと目の前の蛇は、倍近い大きさになっていた。
俺が手を伸ばすと、ナーガがシュルシュルと手をよじ登り、顔のすぐ側までやってくる。
チロチロと舌を出しながら、赤い目で見つめてくるナーガは、意外と愛嬌があった。
蛇ってのもけっこうかわいいもんだな。
「水王っていうからには、ナーガは水魔法が使えるんだよな?」
「そうよ。たぶんワルドも使えるから、またアニーに手本を見せてもらいなさい」
「そうだな。アニー、また頼むよ」
するとアニーが苦笑しながら文句を言った。
「また簡単にマネしちゃうのかしら。納得いかないわね」
そう言いながらも彼女は、右手を前に出して詠唱を始める。
『我は水精に願う、慈悲深き水の力よ、我が拳となりて敵を打て。水弾』
すると彼女の手の前に水の塊が発生し、ビュンと飛んでいった。
それが迷宮の壁に当たると、バシャンと弾けて周辺を濡らす。
またもやアフィが、魔力を可視化してくれてたので、魔法の流れはだいたい分かった。
『水弾』
右手を突き出しながら魔法を行使すると、拳大の水塊が発生して、また壁を濡らした。
「うん、ちゃんとできてるな。他のも教えてよ」
「やっぱりワルド、ずるい」
ちょっとすねつつも、アニーは第2階梯の水魔法をひととおり教えてくれた。
やったぜ、これで俺も2属性の精霊術師だ。
すると左腕に巻きついていたナーガが、俺を褒めてくれたような気がした。
なんだか嬉しそうなので、たぶん間違いないだろう。
また彼女も鍛えなきゃいけないけど、仲間が増えたのは心強い。