16.雷王召喚3
8話の後に幕間を追加しました。
ガルドラ師匠から見た王国滅亡の事情を補足しています。
なんとか剣牙虎を撃退してからは、慎重に探索を続けた。
幸いなことに、強い魔物を倒すほどにシヴァが強くなり、俺たちを支えてくれた。
「なんかシヴァが、ガッシリしてきたな」
「ええ、七王は強い魔物を倒すほど、魔力を取り込んで強くなっていくのよ。この迷宮はそのための訓練場でもあるの」
「へーっ。だけど、アフィは変わってるようには見えないぞ」
「私? 私は非戦闘要員だもの。こんなにかわいらしい私に、戦闘を期待しちゃ、ダ・メ・よ」
かわいらしい仕種でごまかすアフィに、納得いかないものを感じながらも、その場はそういうことにしておいた。
今の彼女は照明役であり、いざという時の治療担当だと割りきろう。
結局、探索に3日ほど掛けて、俺たちは2層のボス部屋へたどり着いた。
「それじゃあ、また打ち合わせどおりにな」
「分かったわ」
「カカカッ」
扉に触れると横にスライドし、道が開かれる。
俺たちがそこへ踏み込むと、また部屋が明るくなった。
そして部屋の奥で待ち受けていた剣牙虎が、おもむろに立ち上がる。
さすがボス戦だけあって、今回のサーベルタイガーは倍くらいでかい。
体格はほとんど牛並みで、口から飛び出した牙は俺の前腕ほども長い。
俺とシヴァで壁を作りながら中央へ進み出ると、奴もゆっくりと近づいてくる。
やがて互いの距離が20歩ほどに縮まった時、敵が急に動いた。
「耐えろ、シヴァ」
飛びかかってくる敵に、シヴァが防御態勢を取る。
以前のシヴァならそのまま押し倒されていただろうが、なんとか盾でボスタイガーを押し戻した。
そこへ俺が斬りつけると、敵は軽やかなステップで後退する。
『石飛礫』
そこへアニーの魔法が降り注いだ。
しかしクルミ大の石ころ程度では、なんのダメージにもならない。
ボスタイガーはうるさそうに、顔を振っただけだった。
しかしそれは想定内だ。
俺たちはその後も敵を追い立て、石の雨を降らせてやった。
やがて慎重だったボスタイガーも焦れたのか、大胆に攻撃を仕掛けるようになってくる。
そんな中で俺は慎重に攻撃をさばき、敵の動きを見定めていった。
やがて好機が訪れる。
「アニー、シヴァの左斜め前5歩」
そう指示するやいなや、ボスタイガーがシヴァに飛びかかった。
それをシヴァがまた押し返すと、俺が横から追撃を掛ける。
それを嫌ったボスタイガーが後退すると、その足元に魔法の兆候が見えた。
『2石尖杭』
次の瞬間、アニーの詠唱完了と共に、敵の足元から石の杭が立ち上がった。
しかも2本。
「ギャンッ!」
2本の杭に腹をえぐられたボスタイガーが、苦鳴を上げる。
その隙を逃がさず、俺とシヴァが攻勢に出た。
明らかに動きの鈍った敵に、剣を振るう。
さすがにとどめは刺せないが、敵の足を傷つけることでさらに動きが鈍った。
そして満身創痍のボスタイガーに、最後の魔法が炸裂した。
『石飛槍』
アニーの放った石槍が、サーベルタイガーを深々と貫く。
さすがにそれは致命傷となり、敵は断末魔の声を上げながら崩れ落ちた。
やがて遺骸が霞のように消え去ると、またもや魔法陣が発生する。
いよいよ雷王の登場だ。
ワクワクして待つ俺の前に現れたのは……
「ニャアー!」
「猫じゃねえかよっ!」
その予想外にかわいらしい姿に、思わずツッコんでしまう。
そこに現れたのは、白地に黒い縞模様の小柄な猫だったのだ。
「アフィ、どうなってんの、これ?」
「どうなってるって、これが雷王よ。白虎と呼ばれる魔物の幼体ね」
「幼体って言っても小さ過ぎるだろうが。これじゃ戦闘に役立たないぞ」
「最初から育てる時はこんなもんよ。文句があるなら、また名前つけてあげたら?」
「むっ、そうか。名前を付ければ、ちょっとはマシになるかもしれないな」
気を取り直してまた名前を考え始めると、いつもの声が聞こえた。
”インドラ”
これって迷宮の主とか、神様みたいなのが教えてくれてるのかな。
なんにしろ、その名前は雷王にふさわしいと思った。
「よし、それじゃあ、お前はインドラ。雷王インドラだ」
「ニャアーッ!」
魔力をごっそり持っていかれる感覚に、またもやその場にへたり込む。
しばし眩暈に耐えて顔を上げると、そこにはひと回り大きくなったインドラがいた。
つまり、ようやく並みの猫ぐらいの大きさだ。
「名前つけてもこの程度かよ……」
「これでも大きな進化よ。地道に育成しろってことね」
「ニャア!」
ちょっと残念そうに見ていたら、インドラが俺の足に体をこすり付けてきた。
これ、本当に成長するのか?
そんな俺の思いをよそに、アニーは喜んでインドラを撫でている。
「かわいいじゃない、ワルド。こういうのも大事よ」
大事って、何がだよ?
しかしまあ、ここで愚痴ってても仕方がない。
俺も腰を下ろしてインドラを撫でてやると、彼が目を細めてグルルルと唸った。
うん、かわいいな。
「そうだな。今後に期待するか。とりあえず、また猫桃でも買いにいこうぜ」
「それはいいわね」
あの猫耳ちゃんが、また猫桃を売ってるといいな。