13.闇王召喚3
骸骨戦士との激闘を制した俺だったが、さすがに疲労困憊だ。
そこで少し早かったが、今日は探索を打ち切ることにした。
外に出ると、じっちゃんの淹れてくれた茶を飲みながら、今日の話をした。
「そうか。それは大変だったな」
「まあね。だけど本命を倒す糸口は見えたから、じきに闇王は解放できると思う」
「ふむ、儂もついていければよいのだがな。子供ばかりに危険を冒させるのが、ひどく歯がゆいわ」
「そんなことないですよ。アハルドさんのおかげで、こうして快適に過ごせますし」
じっちゃんのぼやきに、アニーが慰めの声を掛ける。
迷宮攻略を始めてから3日目ともなると、王城跡に構えた拠点は充実しつつあった。
俺たちを待つ間、じっちゃんがコツコツと設備を整えてくれたのだ。
廃墟の一部を利用した居住スペースはちゃんと雨風をしのげるようになっているし、寝床もそこそこに快適だ。
今も即席でしつらえたテーブルとイスで、くつろいでいた。
「そうだよ。ちょっと暇かもしれないけど、ドーンと構えていて」
「そうだな。それではがんばっているお前たちに、美味い飯でも食わせてやるか」
「「お願いしま~す」」
美味い飯を食ってたっぷり休んだ翌日、迷宮探索を再開する。
奥へ進むほどにスケルトンウォリアーに遭遇したが、昨日の戦闘でコツを覚えた俺たちにとって敵ではない。
危なげなく敵を降していくと、とうとうボス部屋の前に到達した。
「それじゃ、アニー。打ち合わせどおりにね」
「うん、分かったわ」
扉に手を触れると、横にスライドして入り口が開く。
足を踏み入れるとまた部屋が明るくなって、でかスケルトンが出てきた。
俺はすかさず弓を構え、敵の心臓を狙って矢を放つ。
しかしそれは、あっさりと盾で防がれてしまった。
「チェッ、やっぱりそんなに甘くないか。なら接近戦で勝負だ」
俺は弓を地面に置いて剣を引き抜くと、盾を構えながらでかスケルトンに接近した。
敵も同様に剣と盾を構え、俺を迎え撃つ。
俺の倍近くある威容に、先日は圧倒されたが、今日はそうでもない。
基本的にその動きはスケルトンウォリアーと同じものであり、それに慣れてしまえばさほど怖くなかった。
あとは度胸だ。
俺は敵の隙を突いて接近し、一撃しては離れる攻撃を繰り返した。
決して1ヶ所には留まらず、慎重に攻撃をさばきながら、敵の位置を誘導する。
そしてとうとうでかスケルトンの向こうに、詠唱をするアニーの姿が見えた。
『我は土精に願う、偉大なる大地の力よ、我が槍となりてかの敵を貫きたまえ。石飛槍』
俺の誘導に引っかかってアニーに背中を見せていたでかスケルトンに、石の槍が突き刺さる。
それは見事に心臓部を貫いており、敵はそのまま霞のように消え去った。
終わってみれば、実にあっけないものだ。
「フウッ……さすがアニー。お見事、っ!」
強敵を倒してホッとしたのも束の間、ふいに眼前に魔法陣が発生した。
もしや新たな敵かと警戒を強めていると、魔法陣の上に何かが形成されていく。
やがてそこに、普通サイズのスケルトンが現れた。
「カカカッ」
スケルトンが骸骨の歯を打ち鳴らして、妙な音を立てたかと思うと、そいつは片膝を着いた。
まるで臣下の礼みたいだ。
「ようやく終わったわね、ワルド。そして久しぶりね、闇王」
「カカカッ」
アフィが俺の横に来て、目の前の奴を闇王と呼んだ。
「これが闇王、なのか?」
「そうよ、彼こそは暗黒魔法と鉄壁の防御を誇る暗黒騎士、のはずなんだけど、今はただのスケルトンね~」
「何だよそれ? 詐欺じゃねーか!」
「詐欺じゃないわよ。今の七王の盾は昔の力を失ってるから、最初から鍛え直さなきゃいけないの。焦っちゃ、ダ・メ・よ」
「マジで?……ハーーーッ、まあ、最初は仕方ないか。とりあえずよろしくな、闇王」
あまりの残念展開に、深いため息を抑えられない。
それでも気を取り直して挨拶すると、闇王が頭を下げた。
どうやらアフィのように、喋ったりはしないようだ。
まあ、声を出す器官が無いんだから、それも当たり前か。
「闇王は口が聞けないのか?」
「今のところはね。七王の解放が完了すれば、念話で話せるようになるわ。それより、彼にも名前を付けてあげたらどう?」
「アフィに名前つけただけで死にそうだったんだけど、大丈夫かぁ?」
「もし魔力が足りなきゃ、進化できないだけよ……たぶんね」
アフィが自信なさげに目を逸らす。
「なんか怪しいな……だけど付けなきゃ不公平だよな。どうするか……」
ちょっと考え込むと、また誰かの声が聞こえたような気がした。
”シヴァ”
シヴァ、か。
うん、いいんじゃない。
「それならお前は、今からシヴァだ。闇王シヴァ、よろしくな」
そう言った途端、また魔力をごっそり奪われる感覚にふらつき、膝を着く。
辛うじて意識を保ったものの、しばらくは立ち上がれなかった。
ようやく頭を上げた俺の前に、ひと回り大きくなったスケルトンがいた。
おまけに、スケルトンウォリアーが使っていた剣と盾も持っている。
「カカカカカッ」
なんだか彼が、嬉しそうに笑ったように見えた。
当初期待していたほどではないが、念願の盾役を手に入れたのは心強い。
ここでひとつ、大事なことに気がついたので、アフィに聞いてみる。
「そういえば、王を取り戻すと、下層に行けるんだよな。どこから入るの?」
「それなら入り口の近くに階段が開放されてるわ。だから明日はすぐに探索できるわよ」
「な~るほど。それは良かった」
とりあえずこれで俺は、七王解放の第1歩を踏み出した。
この調子で全ての王を解放しよう。