12.闇王召喚2
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ…………大丈夫か? アニー」
「ハァ、ハァ……大丈夫よ」
闇王を取り戻すべく、試練に挑んだ俺たちだったが、予想以上の敵の強さに逃げ帰った。
命からがらボス部屋から飛び出した俺たちは、まずはその場で息を整える。
すると、アフィがフワフワと飛んできた。
「やっぱりね~。油断しすぎだったんじゃな~い」
「ハアッ、ハアッ……油断って、分かってたのか? アフィ」
「なんとなくね。弱いスケルトンしか倒してないから、失敗する可能性が高いと思ってた」
「知ってたんなら、言ってくれれば――」
「私はちゃんと忠告したし、体験しないと分からないものよ」
そう言われると、俺は黙らざるを得なかった。
たしかに再挑戦できるから無理するな、と忠告された。
ようやく息が整ってきたので、気分を切り替える。
「それにしてもあんなでかぶつ、どうやって倒せばいいんだよ?」
「それは迷宮の中をひととおり回ったら、分かるはずよ」
「ひととおりって、通路を全部調べろってのか?」
今までもいくつかの分岐を経てきたが、わりと簡単にここへたどり着いていた。
しかしどうやら、ボスを倒すには回り道をした方がいいらしい。
結局、今日は仕切り直しということで、迷宮の外へ戻ることにした。
外へ出ると、じっちゃんが野営の準備をしながら待っていた。
簡易的だが天幕を張り、寝床も作ってくれている。
「おお、ワルド。七王は解放できたのか?」
「いや、とりあえず奥までは行ったんだけど、敵が強すぎたんで、仕切り直すことにした」
「……そうか。まあ、無理をすることはない。今日はもう休め」
じっちゃんは大して落胆するでもなく、夕食の準備を始めた。
俺とアニーも装備を外して、それを手伝う。
やがて日も暮れ、焚き火を囲みながら夕食を取った。
「ていう感じで、命からがら逃げ帰ったんだ。どうやら迷宮をくまなく踏破して、経験を積んだ方がいいみたい」
今日あったことをじっちゃんに説明していたら、アフィが口を挟んだ。
「そうそう。強大な精霊を復活させようってのに、そう簡単にいくはずないじゃない」
「なるほど。そうすると、少し長丁場になりそうだな」
「うん、じっちゃんには悪いけど、けっこう時間は掛かると思う」
「なに、それならそれで儂は簡単な依頼をこなしながら、生活環境を整えるさ。お前らは迷宮の攻略に集中すればいい」
結局、じっくりと腰を据えて迷宮攻略をすることで、話はまとまった。
その間にじっちゃんは、俺たちが過ごしやすいよう、いろいろやってくれるようだ。
ちなみになぜ俺たちが宿を使わないかというと、あまりいい所が無いからだ。
この町の宿は貧相なのばかりだし、粗野な冒険者が集まっていて騒がしくもある。
それなら王城跡で野営をした方が、マシだろうって話になった。
ここは防壁の中だから魔物に怯えなくて済むし、滞在費用も節約できるからな。
翌日から俺とアニーは、改めて迷宮を探索した。
簡単な地図を作りつつ、通路を片っ端から調べていくのだ。
そうしてしらみつぶしに探索していくと、意外に多くの魔物に遭遇した。
途中の行き止まり部屋では、骸骨弓兵てのが出てきた。
けっこう広い部屋の中に3体のアーチャーがいて、見つかるやいなや矢を放ってきたのだ。
それを俺が盾と剣で防いでいるうちに、アニーが魔法で反撃する。
『我は土精に願う、偉大なる大地の力よ、我が礫となりてかの敵を打ちすえたまえ、石飛礫』
数十個の石がアーチャーに降り注ぎ、その骨を砕く。
アーチャーはそのまま霞のように消え、魔石だけが残された。
「フウッ……飛び道具まで出てくるのか。アニーもケガは無いよね?」
「私は大丈夫よ。ワルドこそ、大丈夫?」
「平気平気。さあ、次へ行こうぜ」
それから昼食を挟んで探索を続けると、ひと際大きな部屋に出る。
すると奥の方から、2体のスケルトンが現れた。
「なんだ? 今までのスケルトンと違うぞ」
「そうね、さしずめ骸骨戦士といったとこかしら。たぶん手強いわよ」
今までのよりひと回り大きく、骨も太めなスケルトンを、アフィがウォリアーと呼んだ。
実際にけっこう強そうだ。
「了解。アニーはすぐ撃てる魔法で援護を頼む」
「分かったわ」
アニーを部屋の入り口付近に残し、俺は敵に接近した。
すると2体のウォリアーも、剣と盾を構えて近づいてくる。
互いの距離が5歩程度まで詰まった瞬間、俺はダッシュして右側のウォリアーに剣を振るった。
ところがそいつは盾で俺の剣を受けつつ、逆に反撃してきた。
ただでかいだけじゃなく、動きまで段違いだ。
少し下がって間合いを取ろうとすると、今度は横からもう1体のウォリアーが斬りかかってきた。
俺は体を捻ってそれをかわし、地面に転がる。
もちろんすぐに立ち上がったが、敵も俺を放っておいてはくれない。
2体のウォリアーが、俺に迫る。
しかしここで、ようやく援護の手が差しのべられた。
「避けてワルド! 『我は土精に願う、偉大なる大地の力よ、無数の拳となりてかの敵を打ちすえたまえ、石飛礫』」
アニーの指示と同時に俺は横っ跳びに回避し、地面に体を投げ出した。
そこへアニーのストーンブレットが降り注ぐ。
クルミ大の石がいくつか命中して、敵の肋骨をいくつかへし折る。
しかし敵の動きに変化は無く、さほどダメージになってないようだ。
頑丈さも今までのとは、段違いらしい。
その後もアニーの援護を受けながら、ウォリアー2体とやり合った。
本当なら逃げだしたいところだが、この程度をしのげないようでは、あのでかスケルトンは倒せない。
俺は歯を食いしばって、敵に立ち向かった。
やがて疲労で体の動きが鈍ってきた頃、とうとう敵にも弱体化の兆候が見える。
そして何度目かのストーンブレットが降り注いだ時、ふいに片方のウォリアーが崩れ落ちた。
意味不明な敵の脱落に、しばし混乱する。
なんだ? 何が起きた?
残りの1体と向き合って様子をうかがっていたら、ふいに視界に違和感が生じた。
なんというか、視界にうっすらと赤い色がついたのだ。
そしてウォリアーの左胸、ちょうど心臓の辺りに、赤紫色のモヤモヤが見えた。
それを見た瞬間、俺の中で全てがつながる。
「そうか、そういうことか……アニー、しばらく黙って見てて」
俺は軽く息を整えてから、ジリジリとウォリアーへ近づいた。
左手の盾を前に出し、右手の剣を胸元に引きつけて力を抜く。
やがて射程内に入ったウォリアーが、剣を振り上げた。
その剣に合せるように、敵の懐へ飛び込み、俺は剣を突き出す。
落ちてくる敵の剣を盾で受けながら、剣を敵の心臓部へ突き入れた。
――カツンッ
何かを貫いた感覚の後、ウォリアーの骨格が崩れ落ちた。
思ったとおり、あれが敵の弱点だったのだ。
気を抜いて座り込んだ俺に、アニーが心配そうに駆け寄る。
「ワルド、大丈夫? ああもう、ケガしてるじゃない」
「あれ、本当だ。戦いに夢中で、気がつかなかったよ」
言われて初めて、左肩から血が出ていることに気がついた。
気づくと急に痛みはじめる。
急いで治療をしようとするアニーを制して、アフィが傷に手を当てた。
「あつっ!」
「しょうがないわね~。勝ったご褒美に、治してあげるわ」
そう言って彼女が目を閉じると、傷の周辺が光に包まれた。
それまでズキズキと苛んでいた痛みが、急激に薄れていく。
やがて痛みがほぼ無くなると、傷もすっかり塞がった。
「どう? これが私の癒しの魔法よ」
「アフィは治癒魔法も使えるのか?」
「まあね。私の属性は光、つまり聖属性だから」
「そっか。ところでさっき、ウォリアーの弱点を見せてくれたのは、アフィだよな?」
「そうよ、ちょうど1体がそれで崩れたから、ちょうどいいと思ってね」
「助かったよ。そしてあの弱点は、でかスケルトンにも通じるってことだな?」
「まあ、そういうこと。がんばってね」
どうやらこれで、迷宮攻略の糸口が見えてきたようだ。