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98.記念式典

 アルデリア帝国との停戦が成立し、国境付近でにらみ合っていた兵力が引き上げられた。

 これによって多くの兵士が帰還してきたが、軍備を完全に解くわけにもいかない。

 たとえ帝国との関係が悪くなくても、それなりの兵力は抑止力として必要なのだ。


 なので今は順繰りに休息を取らせ、最適な地域への再配置を実施中だ。

 まあ、帝国軍は東方に掛かりきりなので、それほど急ぐ必要もない。

 まずは国内の産業を振興しつつ、軍備を調ととのえていこうって話になってる。


 その一方で、捕虜の交換にも取り組んでいた。

 なんてったってこちらは、1万人近い捕虜を抱えているのだ。

 そいつらに食わせる飯だって馬鹿にならないので、とっとと引き取って欲しかった。


 これを帝国内の同胞と引き換えるのが最も望ましかったのだが、なかなかうまくいかない。

 なんといっても同胞が捕虜として連行されたのが、15年も前の事だ。

 多くの同胞が亡くなっていたり、記録があいまいで、所在が分からなくなっていたりする。


 しかもエルフは見目麗しい者が多いから、奴隷として抱えてる側もなかなか手放そうとしない。

 おかげで帝国が強権をもってかき集めたにもかかわらず、百人ぐらいしか集まらなかった。

 彼らについては、帝国の貴族階級にある捕虜との取引きが成立した。

 その他にも数百人の捕虜が、身代金と引き換えに解放された。


 問題だったのは平民、もしくは身代金が出せないような家の者だ。

 身代金が払えない場合は、無条件で奴隷落ちなので、我が国で労働に従事してもらう形になる。

 しかし驚いたことに、帝国の捕虜の半分以上が奴隷落ちになった。


 これには我が国が勝ちすぎて、捕虜交換をする余地が少なかったのも、ひとつの原因であろう。

 ついでに帝国が負けすぎて、身代金を払えなかったのもある。

 彼らには気の毒な話だが、借金分を返済すれば解放する予定なので、がんばってもらうしかない。



 さて、残る問題は賠償金の取り立てだ。

 俺たちは賠償金として、15年前の死者・行方不明者1人当たり、金貨50枚を請求した。

 これが大体5万人になるので、金貨250万枚だ。


 これってぶっちゃけ、帝国の年間予算の、倍に匹敵するらしい。

 一応、ふっかけてみたんだけど、払えるはずないよね。

 我が国に負けたばかりで、さらには東部で3ヶ国と紛争中なんだから。


 いろいろと圧力を掛けてしぼり取るのも手なんだが、それはそれで帝国が不安定になる懸念が大きかった。

 自由都市同盟のアーシムからは、そうならないよう要請されていたので、別の手を考えた。

 その結果まとまったのが、賠償金の大幅減額と、10年間の分割払いだった。

 賠償金は金貨百万枚に減らし、毎年10万枚ずつ払ってもらう。


 その代わりに我が国の免状を持つ商人からは、帝国内で関税を取らないことを約束させた。

 当然、商人が盗賊なんかに襲われないよう、街道の治安も強化してもらう。

 代わりにエウレンディア領内でも、帝国からの商人は関税を取らないことにした。

 もちろん国境での入出国はチェックするけどな。


 最初にそれを提案した時の、帝国官僚の顔はケッサクだったそうだ。

 ついこの間まで戦争していた国が市場を開放し、しかも関税を取らないなんて言われたら、にわかには信じられないだろう。

 しかしこれは必要なことなのだ。


 なんといっても帝国は、この地域では最大の人口を抱える国だ。

 そしてこれからエウレンディアは、自由都市同盟やヴィッタイトと交易を始めるので、ヒト、モノ、カネが集まってくる。

 しかし人口が数十万人程度では、その市場規模もたかが知れようというものだ。

 なら1千万人の人口を擁する帝国を、巻き込まない手はない。

 そうすれば帝国の経済も潤い、賠償金の支払いも進むだろうしな。


 ちなみに同盟やヴィッタイトでも、エウレンディア向けの関税率は下げてもらう話になっている。

 さすがにゼロにはできないが、通常の半分以下に抑えるだけでも、商人の足はエウレンディアへ向かうだろう。

 そうすればどうなるか?

 より多くのヒト、モノ、カネが集まるに決まってる。


 幸か不幸か、エウレンディアは1度ぶっ壊れた。

 しかしだからこそ、土地や既得権益とのしがらみがない。

 まだ土地を管理する貴族もいなければ、利権をむさぼる共同体もないからだ。

 しかも王家は、絶対的な力を持っているのだから、街道の整備や治安は国の責任とし、関税を免除できるのだ。

 今後は街道沿いの宿も整備して、旅をしやすくしようと考えている。


 移住者も大歓迎だ。

 なんてったって我が国は、ほぼ手つかずの平野部を取り返したばかりだからな。

 旧国民だけでは、土地が余りまくるから、各国からの移民を募集し始めた。


 求む、エウレンディアへの移住者。

 我らは意欲的な開拓者を待っている、って感じだな。

 おかげで開拓村の仮住居を造らされたのは、いい思い出だ。

 国王にそんなことまでさせるのは、どうかと思うけどな。





 そんな戦争の後始末をしながらひと月ほど経った頃、王都で記念式典が開かれた。

 帝国に対する戦勝と、捕虜交換による同胞の帰還を祝うためだ。

 帰還した捕虜の中には、師匠の姪であるエルドナもいるという。

 どうやらジブレが口にしたような仕打ちも受けずに済んだようで、何よりだった。

 そういえば、ジブレの去り際に師匠が何か言っていたような気もするので、その脅しが利いたようだ。


 なんにしろ、式典のために王都には続々と人が集まり、町中が喧騒に満ちていた。

 やがて式典の準備が整い、俺たちはステージへ向かう。

 俺の後にはアニーとレーネも控え、師匠が式典の開催を告げた。


「それでは只今より、帝国に対する勝利と、捕虜の帰還を祝う記念式典を開催します。まずは陛下、お言葉をお願いします」


 そう言われ、俺は壇上中央に進み出る。


「エウレンディアの民よ。まずは国のために戦ってくれた皆と、今まで生き残ってくれた同胞に、礼を言いたい」


 その言葉に、民衆から歓声が沸いた。


「皆も知ってのとおり、我々は15年前、国を追われた……それは帝国の卑劣な騙し討ちにあったからだが、それと同時にわが父、ヴィレルハイト王が、備えを怠ったこともまた否定できない。そのために何万もの命が散り、それ以上に多くの国民が塗炭の苦しみを味わったことについて、本当に申し訳なく思う」


 俺が軽く頭を下げると、民衆がざわめいた。

 俺に責任はない、そう言ってくれる声もあったようだ。


「しかし今ここに、我々は国を取り戻した。しかも我らは支配者づらをしていた帝国に鉄槌を加え、追い出したのだ。それもこれも、我が国は七王の加護を得たおかげだ。そしてそれは、我々が神々の恩寵を得ている証であろう」


 ここで俺が七王を召喚すると、アフィからアグニまでの実体が顕現する。

 その恐ろしくも気高い雄姿に、民衆から感嘆の声が漏れた。


「しかし民よ、いくら神々に祝福されているからといって、おごりたかぶってはいけない。そんなことをしていれば、再び侵略されるかもしれないし、逆に他国を攻めるような国になってしまうかもしれない。そうなれば、七王は悲しむだろう。いや、ひょっとしたら我らを見捨てるかもしれない」


 ここで一旦切ると、様々な表情が見えた。

 不安そうにしている者もいれば、なぜそのようなことを言うのか、と不満な顔もある。

 逆にそんなことはしない訴える者まで、様々だ。


「そんなことがあるはずはない、などと考えないで欲しい。七王にしろ神にしろ、その愛は無限ではないのだから。だからこそ、あえて言おう。自らの居場所は、自身で作れと」


 その言葉に、広場の空気がシンと静まり返った。


「これからのエウレンディアは、”竜の咢”を守るだけの国ではない。がんばった者が報われ、より多くの者が笑い合える、豊かな国になるだろう。しかしこの国にはまだ、今はほとんど何もない。だからみんなで作るのだ、新しいエウレンディアを! 過去を振り返らずに、前を向こう! 今日こそが我々の、新たな門出の日だ!」


 その瞬間、民衆の歓声が爆発した。

 今、俺が喋った言葉は、ガルダの風魔法で王都中に拡散されていた。

 さらには通信用の魔道具を介して、他の都市にも中継されている。

 それを聞いた多くの民衆が、新たな国の誕生を知り、歓喜に酔いしれていることだろう。


 それからあちこちで、食料やお酒の備蓄が開放され、国を挙げての祝宴が始まった。

 15年もの間の苦難が、今ここでひとつの区切りをつけた。

 だから今日は存分に喜び、酔い、騒げばいい。

 そしてまた、明日から国を作るのだ。


 新生エウレンディアに、乾杯!

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